コウノトリ
お腹が、少しずつ大きくなっていく。母は気味悪そうに私を見る。
「誰の子よ。言いなさい」
だけど私は泣きながら首を振ることしか出来ない。誰の子でもない。私はこの一年恋人を持たない。
「不潔な子だね」
母は吐き捨てるように言って、去っていく。違う。私は何もしてない。
私のお腹はドクンドクンと鼓動する。生きようとしている。私の体に巣くって、生き延びようとしている。私は、この子が怖い。
窓に身を寄せ、恐怖に震えながら、私は真っ暗な夜の闇のなかに目を凝らす。あいつは今夜もやって来る。
バサバサと、白い翼を羽ばたかせて。ゆっくりと、窓辺に止まる。大きな鳥が、夜の闇を白く切り取る。
しばらく私を眺めて、やっと鳥は嘴を開く。鳥は言う。
「お前は、子供を、産む」
しゃがれた声で。
嫌だ。私は産みたくない。この子が何者なのか、私は怖くて知りたくない。
「お前の、腹の中に、いるのは」
コウノトリは不吉なガラス玉のような目を瞬膜で覆う。
「お前、だ」
私は私を産もうとしている。私の体から小さな私が生まれ、その小さな私は何をしにやって来るんだろう。お腹の中から鼓動の音がする。
鳥は静かに後ろを向き、羽を広げ、バサバサと羽ばたきを繰り返して、飛び立った。
絶望的な気分で小さくなっていく白い点を見ていると、お腹の中の私はくぐもった声でゲラゲラ笑った。
《了》