表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅い果実  作者: 酒田青
紅い果実とその他の短い幻想ホラー
23/58

コウノトリ

 お腹が、少しずつ大きくなっていく。母は気味悪そうに私を見る。

「誰の子よ。言いなさい」

 だけど私は泣きながら首を振ることしか出来ない。誰の子でもない。私はこの一年恋人を持たない。

「不潔な子だね」

 母は吐き捨てるように言って、去っていく。違う。私は何もしてない。

 私のお腹はドクンドクンと鼓動する。生きようとしている。私の体に巣くって、生き延びようとしている。私は、この子が怖い。

 窓に身を寄せ、恐怖に震えながら、私は真っ暗な夜の闇のなかに目を凝らす。あいつは今夜もやって来る。

 バサバサと、白い翼を羽ばたかせて。ゆっくりと、窓辺に止まる。大きな鳥が、夜の闇を白く切り取る。

 しばらく私を眺めて、やっと鳥は嘴を開く。鳥は言う。

「お前は、子供を、産む」

 しゃがれた声で。

 嫌だ。私は産みたくない。この子が何者なのか、私は怖くて知りたくない。

「お前の、腹の中に、いるのは」

 コウノトリは不吉なガラス玉のような目を瞬膜で覆う。

「お前、だ」

 私は私を産もうとしている。私の体から小さな私が生まれ、その小さな私は何をしにやって来るんだろう。お腹の中から鼓動の音がする。

 鳥は静かに後ろを向き、羽を広げ、バサバサと羽ばたきを繰り返して、飛び立った。

 絶望的な気分で小さくなっていく白い点を見ていると、お腹の中の私はくぐもった声でゲラゲラ笑った。


 《了》

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ