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紅い果実  作者: 酒田青
紅い果実とその他の短い幻想ホラー
20/58

彼岸花

「駄目だよ。かぶれるよ」

 小さな女の子が彼岸花を摘んでいた。

 河原の斜面では彼岸花の蕾が一斉に開き、辺り一面真っ赤に染まっていた。毒々しい赤さだった。

 女の子は僕の言うことも聞かず、無言で次々に新しい彼岸花に手を伸ばした。左腕には既に大きな赤い花束が出来上がっていた。

「駄目だってば。痒くなっちゃうだろ?」

 僕はお節介をやめられず、女の子の花を取り上げようとした。女の子は僕の手を振りほどいた。

 僕は溜め息をついて、辺りを見回した。夕暮れの寂しい道の下に、幼い女の子が一人。親が見当たらないのが不思議だった。

「お母さんはどこにいるの?」

 女の子は何も答えない。僕は頭を掻く。

 不意に、女の子が口を開いた。

「ウーウ」

 歌のようだ。思いがけず低い声だった。

「ウーウ」

 途切れ途切れに歌う。彼岸花の花束は、みるみるうちに大きくなっていく。

 僕は少し女の子を不気味に感じ始めた。

「ウーウ」

「帰った方がいいよ。お母さんも心配してるよ」

 僕は先ほどまでの熱心さを失いながら、女の子に声をかけた。女の子は相変わらず歌を歌っている。

「おい……」

 女の子は歌を止めない。

 次第に空気は冷たくなる。空は暗くなる。

 花束は女の子の顔を隠すほどに大きくなっていく。

 大きなはばたきの音が後ろから聞こえた。後ろを振り向く。

 大きな鳥がいた。僕の腰ほどの大きさだ。

 鳥が僕をジッと見る。僕は動けなくなる。

 女の子が突然立ち上がる。

 彼岸花の花束を抱え、歌いながら鳥に歩み寄る。女の子は鳥とほとんど大きさが変わらない。鳥は微動だにしない。

「ウーウ」

 女の子は歌う。彼岸花をもて遊んでいる。

「ウーウ」

 鳥は僕を見つめている。

「ウーウ」

 僕は冷たい夕暮れに立ち尽くす。


 《了》

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