空洞
久しぶりの、そして突然のショックだった。
私の恋人と私の友人が一緒に歩いているのを見掛けた。彼らの幸せそうな姿を見て、私は呆然とした。そして我を忘れた私は突進して行って、彼等を罵ったのだった。
友人は平然としていた。恋人は仕方がない、といった顔で落ち着き払っていた。
私と友人は睨み合った。友人は私の重大な欠点を一つ一ついやみったらしく並べた。道行く人は通りすがりにそれを聞き、私を盗みみて笑った。私が羞恥に震えていると、最後に一言。
「実はあんたのこと、友達とは思ってなかったんだよね」
怒りのため口がきけなくなった私は、二人の優越感に満ちた顔に耐えられず、友人を突き倒した。
友人が、丸太のように真っ直ぐに倒れた。
ガラスのように、粉ごなに割れた。
私はしばらく何も考えられなかった。
頭部が落ち、胴体がバラバラになった友人を見つめる。
恋人を見る。相変わらず平気な顔をしている。
「ちょっと…」
怖くなった私は、恋人に触れた。
ゆっくりと、倒れる。
ガシャンと割れて、砕けた。体の中の赤い空洞が見えた。内蔵も脂肪も無かった。
黙りこくった私を、周囲の人々がニヤニヤと見る。これは、何だろう?
「あんたって、やっぱり馬鹿だね」
頭だけをゴロゴロと動かし、友人が言う。笑っている。
「一人だけ知らないんだから」
「そうだよな」
恋人が半分の顔で嘲笑する。
「俺らが付き合ってる事も知らなかったし」
二人はクスクスと笑う。私はぼうっと彼らを見ていた。
私だけが知らなかった。人々が空洞だということを。
私だけが知らなかった。私も空洞だということを。
私は彼らの破片で傷付いた自らの腕をみた。傷口から覗く私は空っぽだった。
私は知っていた人々の視線を浴びながら、少し泣いた。
友人と恋人は笑った。
周りの人々も笑った。
私だけが泣いていた。
《了》