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紅い果実  作者: 酒田青
紅い果実とその他の短い幻想ホラー
16/58

空洞

 久しぶりの、そして突然のショックだった。

 私の恋人と私の友人が一緒に歩いているのを見掛けた。彼らの幸せそうな姿を見て、私は呆然とした。そして我を忘れた私は突進して行って、彼等を罵ったのだった。

 友人は平然としていた。恋人は仕方がない、といった顔で落ち着き払っていた。

 私と友人は睨み合った。友人は私の重大な欠点を一つ一ついやみったらしく並べた。道行く人は通りすがりにそれを聞き、私を盗みみて笑った。私が羞恥に震えていると、最後に一言。

「実はあんたのこと、友達とは思ってなかったんだよね」

 怒りのため口がきけなくなった私は、二人の優越感に満ちた顔に耐えられず、友人を突き倒した。

 友人が、丸太のように真っ直ぐに倒れた。

 ガラスのように、粉ごなに割れた。

 私はしばらく何も考えられなかった。

 頭部が落ち、胴体がバラバラになった友人を見つめる。

 恋人を見る。相変わらず平気な顔をしている。

「ちょっと…」

 怖くなった私は、恋人に触れた。

 ゆっくりと、倒れる。

 ガシャンと割れて、砕けた。体の中の赤い空洞が見えた。内蔵も脂肪も無かった。

 黙りこくった私を、周囲の人々がニヤニヤと見る。これは、何だろう?

「あんたって、やっぱり馬鹿だね」

 頭だけをゴロゴロと動かし、友人が言う。笑っている。

「一人だけ知らないんだから」

「そうだよな」

 恋人が半分の顔で嘲笑する。

「俺らが付き合ってる事も知らなかったし」

 二人はクスクスと笑う。私はぼうっと彼らを見ていた。

 私だけが知らなかった。人々が空洞だということを。

 私だけが知らなかった。私も空洞だということを。

 私は彼らの破片で傷付いた自らの腕をみた。傷口から覗く私は空っぽだった。

 私は知っていた人々の視線を浴びながら、少し泣いた。

 友人と恋人は笑った。

 周りの人々も笑った。

 私だけが泣いていた。


 《了》

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