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紅い果実  作者: 酒田青
紅い果実とその他の短い幻想ホラー
10/58

 夜は生き物の気配すら無い。

 街灯が足下をうすぼんやりと照らす。

 人がいない。車もない。月もない。

 空気は動かない。ただ体の周りを生温く撫でるだけ。

 あのコンビニエンスストアにいる店員は、現実のものだろうか。虚ろな瞳は何も見ない。誰も見ない。

 靴音が街に響く。骨組みだけのマンションに。空っぽの寺に。冴えないネイルサロンに。

 靴音だけが楽しげに踊る。傍観者はこの街で一人だけ。私は足元をじっと見つめながら歩く。

 ドアを開ける。ここにもうすぼんやりと光がある。だが月ではない。太陽でもない。

 人工の光がともって、四角く輝くのはこの部屋だけ。チカチカ踊る。

 ガラスのコップに冷たいレモンティーを注ぐ。

 縁に張り付いた泡が私を映す。円になって、たくさんの私の顔がじっと私を見ている。

 しばらくすると、泡が笑う。私を見て笑う。そしてくるくると回る。まるで踊っているかのように。

 ぐるぐるぐるぐる。私は自分がここにいないような気になる。金色の泡の中の球状に膨らんだ顔が、私の本当の顔じゃないか。

 ぱちんぱちん。私は小さな私を一つずつ指で潰す。

 コップの中の泡はいっそう歪んだ顔を奇怪に歪め、激しくくるくる回る。

 夜が終らない。朝も来ない。


 《了》

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