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短編

月夜に

作者: 月蜜慈雨
掲載日:2026/03/24




 ヒューと吹き抜ける風が、殊の外冷たく感じる夜。

 私は行儀悪く肉まんを頬張りながら夜道を歩いた。

 夜の住宅街はまるで、ひっそりと寝ている巨大な生き物のようだ。

 バイトの帰りだった。

 バイト先はネカフェだ。ビカビカとしたビルの三階と四階のフロントが、ネカフェになっている。

 客が汚した部屋を、マニュアルに乗っ取り清掃するのが仕事だ。

 ちなみに店の〇ーグル評価は低い。



 「時給はいいんだけどなぁ…」



 そうぼやきながら真っ暗な道をひたすら歩いていると、狐火みたいなものが見えた。

 遠くにある街灯か?

 ぼんやりとそれはあった。輪郭がもやもやと霧がかっていて、正体がよく分からない。街灯にしては左右に揺れている。

 奇妙だ。不気味だ。

 でも、まるで光に吸い寄せられる虫のように、目が離せない。

 青白く輝くそれはまるで生命の煌めきみたいだった。



 疲れているせいで、なんだか足取りが重く感じてしまう。

 その狐火みたいなものはどんどん私に迫ってきた。

 見れば見るほど狐火に見える。

 そうだ、これは狐火なんだ。そうだ。

 私は微笑んですらいた。安心すら覚えた。まるで、母親に抱かれる子どものように。

 危険なのではないか?

 そう思ったときには、もう遅かった。



 すっと、すり抜けられた。

 ぞっとするような嫌悪感と冷感が体中を巡り、地面に倒れ伏す。

 ジャリ、とアスファルトの感覚がするが、すぐに痛さがそれを凌駕した。

 痛い、痛い、痛い。

 このまま死ぬのではないか。

 そう思わせるような、手足の痙攣。



 自分が自分でなくなっていく感覚。



 誰か、誰か、助けて_。



 そう願う声は掠れて音さえ出ず、気づいたら意識を失っていた。



 気が付いたら、地面から数メートル離れたところで浮遊していた。

 私にはそれがはっきり知覚できたし、それが当たり前だった。

 狐を思わせる金色の髪はまるで夜に発光しているようだ。

 狐の耳に当たる風はやけに鋭い。

 亡者を思わせる白い着物に、血のように真っ赤な帯。



 自分は一体、何になってしまったんだろう。



 でも、やることははっきりと分かる。



 グッと胸に手を当てて、ぼんやりと出てきた丸い物を取り出す。

 思わず、ごくっと唾を飲み込む。我慢して、腕を上げる。

 そしてそれを月にさらした。

 丸い物はぼうっと発光し、まるで月に吸収されるかのごとく吸い込まれていった。

 


 そっと、地面に降ろされる。

 今のがなんだったのか分からなかった。

 ただ、自分のやるべきことをやった。それだけだ。

 陶酔するような余韻に浸っていると、自然と瞼が落ちていく。

 そのまま溶けるように、意識が落ちていった。




 繰り返します。〇〇県〇〇市住宅街の路上で、男性の遺体が発見されました。繰り返します。〇〇県〇〇市住宅街の路上で、男性の遺体が発見されました。男性は、何か鋭利なもので切りつけられたと見られています。現在警察が詳細を追っています_。




 

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