月夜に
ヒューと吹き抜ける風が、殊の外冷たく感じる夜。
私は行儀悪く肉まんを頬張りながら夜道を歩いた。
夜の住宅街はまるで、ひっそりと寝ている巨大な生き物のようだ。
バイトの帰りだった。
バイト先はネカフェだ。ビカビカとしたビルの三階と四階のフロントが、ネカフェになっている。
客が汚した部屋を、マニュアルに乗っ取り清掃するのが仕事だ。
ちなみに店の〇ーグル評価は低い。
「時給はいいんだけどなぁ…」
そうぼやきながら真っ暗な道をひたすら歩いていると、狐火みたいなものが見えた。
遠くにある街灯か?
ぼんやりとそれはあった。輪郭がもやもやと霧がかっていて、正体がよく分からない。街灯にしては左右に揺れている。
奇妙だ。不気味だ。
でも、まるで光に吸い寄せられる虫のように、目が離せない。
青白く輝くそれはまるで生命の煌めきみたいだった。
疲れているせいで、なんだか足取りが重く感じてしまう。
その狐火みたいなものはどんどん私に迫ってきた。
見れば見るほど狐火に見える。
そうだ、これは狐火なんだ。そうだ。
私は微笑んですらいた。安心すら覚えた。まるで、母親に抱かれる子どものように。
危険なのではないか?
そう思ったときには、もう遅かった。
すっと、すり抜けられた。
ぞっとするような嫌悪感と冷感が体中を巡り、地面に倒れ伏す。
ジャリ、とアスファルトの感覚がするが、すぐに痛さがそれを凌駕した。
痛い、痛い、痛い。
このまま死ぬのではないか。
そう思わせるような、手足の痙攣。
自分が自分でなくなっていく感覚。
誰か、誰か、助けて_。
そう願う声は掠れて音さえ出ず、気づいたら意識を失っていた。
気が付いたら、地面から数メートル離れたところで浮遊していた。
私にはそれがはっきり知覚できたし、それが当たり前だった。
狐を思わせる金色の髪はまるで夜に発光しているようだ。
狐の耳に当たる風はやけに鋭い。
亡者を思わせる白い着物に、血のように真っ赤な帯。
自分は一体、何になってしまったんだろう。
でも、やることははっきりと分かる。
グッと胸に手を当てて、ぼんやりと出てきた丸い物を取り出す。
思わず、ごくっと唾を飲み込む。我慢して、腕を上げる。
そしてそれを月にさらした。
丸い物はぼうっと発光し、まるで月に吸収されるかのごとく吸い込まれていった。
そっと、地面に降ろされる。
今のがなんだったのか分からなかった。
ただ、自分のやるべきことをやった。それだけだ。
陶酔するような余韻に浸っていると、自然と瞼が落ちていく。
そのまま溶けるように、意識が落ちていった。
繰り返します。〇〇県〇〇市住宅街の路上で、男性の遺体が発見されました。繰り返します。〇〇県〇〇市住宅街の路上で、男性の遺体が発見されました。男性は、何か鋭利なもので切りつけられたと見られています。現在警察が詳細を追っています_。




