石の女神ユルユル
ユルユルは石のベッドのうえで目を覚ましました。
そこはほの暗い石の洞窟の中でした。
ユルユルの横たわる石のベッドを覆うように、高い天井がユルユルを見下ろしています。冷たい石の壁には蛍石がところどころはまっていて、それが息をするように、光ったり光らなかったりを繰り返しているのでした。
ユルユルはゆっくりとからだを起こしました。
ユルユルが石のベッドのうえに手をつきますと、かつこん、となにか小気味の好い音がしました。ユルユルが見下ろすと、それはユルユルの手のひらと、石のベッドがぶつかって立てた音らしいのでした。ユルユルが自分の両手のひらをじっと眺めますと、その手のひらは、どうやら、横たわる石のベッドと同じもので出来ているらしいのでした。
そうしてユルユルは、自分のいる場所のことを、よく見てみようと目を凝らしました。
ユルユルのいる石のベッドの前に、なにかもうひとつ、石の台が置いてありました。石のベッドよりもひとまわりほど小さいそれには、ろうそく立てがふたつ、対になって置かれていて、その真ん中に、また石の器のようなものと、細長い筒状のいれものが置いてありました。
ユルユルは、なんだろうと思い、石のベッドから、足を下ろしました。
かつこん、また、小気味好い音が聞こえます。ユルユルが丸々した足を動かして歩くたび、かつこん、かつこん、そんな音が、大きな空洞の中に響きわたるのでした。
ユルユルが石の台座に近づいてみますと、ろうそく立てには火のついていないろうそくが刺さっていることがわかりました。それから、石の器のなかには、くちゃくちゃに腐りきった果物の残骸がありました。色をなくしたぶどうやりんごの腐った表面に、虫がうぞうぞとうごめいています。
細長い筒状のいれものには、よく見れば何かが入れられていました。それはか細くしなびたなにかの植物で、どうやらもともとはお花だったようなのですが、これ以上ないというほどにやせ細って項垂れて、石の台座にしなびた花びらが数枚、茶色く色あせて散り散りになっているのでした。
これはなんなのだろう、ユルユルは興味深く思いながら、しばらく、その石の台座の周りを、かつこん、かつこん音立てて、ぐるぐると歩き回って眺めました。
ユルユルの歩く音は、洞窟の中を反響して、そして不意にどこかに消えていくのでした。ユルユルはふと、その音が出ていく場所が気になって、顔をあげました。
振り返ってみると、そこには縦長の穴が空いていました。ユルユルが三人くらいになって肩車をすれば、ちょうどよい高さになるでしょう。ユルユルの歩く音は、どうやらその穴から逃げ出していくようでした。
それはこの空間の出入口なのでした。
ユルユルは石の台座からすっかり興味を失って、その縦長の穴の、さらに向こうに続く通路へと歩み寄りました。ユルユルが歩み寄ると、導くように、壁に埋め込まれた蛍石がぽう、と光るのでした。
ここはさながら、石で出来ためいろのようでした。
丁寧に積み上げられた石が壁や天井のアーチを組成しておりました。歩を進めるとめいろのなかはしごく複雑で、壁には火のない燭台や誰かの頭の骨なんかが埋まっていたりするのでした。
あちらの角を曲がると行き止まり、こちらの角を曲がると道がみっつに分かれていて、その道をさらに曲がるとさっき見た誰かの頭の骨がユルユルに挨拶をしてきます。蛍石はぽうぽうとユルユルを導くように光りながら、その実、ユルユルのつたない足どりをからかって遊んでいるのかもしれませんでした。
かつこん、かつこん、ユルユルの足音がめいろの中をぐるぐるさまよいはじめます。その音は行ったきり帰ってこないものもあれば、長旅を経て戻ってくるものもありました。ユルユルは足音の反響の中をよたよたと進んで、やがて、こだます足音の出口を見つけたのでした。
それは階段でした。
うえへうえへと続く螺旋の階段でありました。燭台がありましたが、火は灯っておりませんでした、というのを、ユルユルが見ると同じに、ぽう、とまた、蛍石が導くように光るのでした。
ユルユルは石段に足をかけました。
足音が今度は、うえへうえへと伸びていくのがわかりました。かつこん、かつこん、は壁に床に天井にぶち当たりながらも、目的を誤たず、ぐるぐる階段の導く先へとどんどん逃げていくのでした。
音を追うようにしてのたのた、歩いたユルユルは、やがて、それを見つけました。
赤錆びた鉄格子の扉でした。
錠がついているのですが、ユルユルが優しく触れただけでもろもろと崩れてしまいました。当然、扉を押せば抵抗もなくゆっくりと開きました。
ユルユルは、石でできためいろから抜け出しました。
そこは天井の高い建物の中でした。白い石壁に立派な織物や何かの絵が飾られていました。小さく開けられた窓から、外の光が静かに注いでいるのでした。
反面、夜のように静かでした。
かつこん、ユルユルの踏み出した足が音鳴らします。
天井の高いのに、そこまで広さは無いようでした。長椅子が六つ、お行儀よく並んで置かれているほか、あとはユルユルの目の前に、大きな木の机があるのがわかりました。
ユルユルは机に近寄りました。
天板が斜めになった、独特の形の机でした。傍らに、ユルユルの部屋にあったのと似た形の器が置かれています。円筒状のそれには同じく、しおれた花がさしてあるのでした。ユルユルは、首を傾げました。これはいったいなんなのでしょう?
ぎこ、と音が聞こえました。
ユルユルは視線を、音の聞こえた方に向けました。
ユルユルの立つ机からまっすぐの位置に、扉がありました。その扉が、独特の悲鳴をあげながら開いた音でした。
光がさしました。
その中、扉を開けた影が、
ユルユルを見つけたのです。
ユルユルと同じくらいの背丈の少女でした。
痩せぎすの彼女の落ちくぼんだ目が見開かれました。
「ユルユル様……?」
からからに乾いた唇が動いて、かすれた声で、ユルユルの名前を呼んだのでした。
少女は重い扉を細い腕でやっと支えながら、よろよろと中に入ってきました。その表情は呆然として、また一歩、進むのでした。よろけながらさらにもう一歩進むと、少女の顔はなにかはっとして、それから、もう一歩の間に、眉がきりりと吊りあがったのでした。
また一歩、もう一歩、進む間に彼女の表情がはっきりとしてきます。
それは、
怒りの表情でした。
ユルユルは近付いてくる彼女を眺めていました。
彼女はユルユルになかば駆け寄って、それからユルユルの手を乱暴につかみました。ユルユルは驚きましたが、なにかを言う前に少女がまた踵を返して歩きだしましたので、大人しくついていきました。
かつこん、かつこん。
少女は教会の扉を開けて外に出ました。
ユルユルが初めて見る外でした。
空は薄曇りで、
おびただしい数のカラスが空を飛んで、
ぎゃあぎゃあとやかましく騒いでいるのでした。
ぽかりと口を開けたユルユルに構わず、少女は歩いていきます。
石畳を五つほど跳んだ先に、教会の門扉と、高い塀がありました。
その先を目指しているのでした。
※
白、
眩しいと思ったのは薄曇りの弱々しい日差しでした。
ギャアギャアとからすが鳴いています。ここから見えるのは石積みの高い塀、そして開け放たれた門扉でした。少女はユルユルに構わずどんどん歩いていきます。そして、
門扉のさらに外に出ました。
ユルユルの琥珀の瞳が動きました。
少女がそこで足を止めたためでありました。ユルユルは彼女になにごとか問おうとして視線を向け、しかし、すぐに気付きました。
人のうめき声がします。
視線を下げれば、
そこに、人が、
ひとびとが、いました。
痩せて肋骨の透けて見える男や女が、横たわってひゅうひゅうと呼吸をしているのでした。みな皮膚は赤茶けて紫の斑紋が浮かんで、目の周りが落ちくぼんで真っ黒になっているのでした。それが何人も塀に寄り添って、かろうじて生きている様子なのでした。
塀の中から出てきた二人を、何人かが見つけて顔を上げました。誰かから、おぉ、と感嘆の声が聞こえたように思いましたが、それが一体誰から放たれた声だったのか、ユルユルには分かりませんでした。
からすが、
誰かに群がって、
その肉をついばんでいます。
ギャア、ギャア。
少女が振り返りました。
あおいひとみに、感情が燃え盛っていました。
「どうして、」
薄く水の膜すら張るその美しい瞳は、
「どうして助けて下さらなかったんですか」
ユルユルをひどく憎悪しているのでした。
「あんなにたくさん祈ったのにどうして助けて下さらなかったんですか、家畜も収穫物も捧げてきたはずです。儀式は欠かさなかったし祈りの言葉だって毎日唱えました。供物の量を増やして……生贄さえ捧げて……お仕えしたのに……」
少女の大きな瞳から、ぼろりと涙がこぼれました。
「病で弟がしにました。みなが病に苦しんでいるので、収穫も出来ないし町まで買い物に行くことも出来ません。だれも満足にごはんを食べられません。昨日の夜、母が……」
少女は唇をわななかせ、口を開いては、閉じ、唇をかみしめて、
「ははが、しにました」
裏返る声でそう言うのでした。
「ユルユル様、どうして助けて下さらないんですか。どうしてお力を持ちながら、わたしたちを救ってはくださらないのですか!」
ユルユルは少女の震える声を聞いて、首をちょっとだけかしげました。
それから右を見て、苦しげに声を上げる男を見ました。
左を見て、動かない何かを抱きかかえた女を見ました。
それから、生きている少女を見ました。
「わたしにそんな力、ないよ」
少女は、両目からぼろぼろと涙をこぼしながら、
ユルユルの腕をつかんで叫ぶのです。
「邪神!!」
周囲にいた人々が反応しました。
「疫病をまき散らした邪神!! ひとびとに災いをもたらす邪神!!」
ゆっくりと立ち上がる影があります。
「殺さなきゃ!!」
少女は声を上げます。
「苦しんだみんなの分も苦しめて殺さなきゃ!! 手足を粉々に砕いて海に捨ててやる!! 顔かたちが分からないぐらいに壊してやる!! 殺さなきゃ!! 殺さなきゃ!!」
邪神、と誰かの口から言葉が漏れました。
自分を取り囲む誰の口からそう言われたのか、ユルユルにはわかりません。
たくさんの黒い影に囲まれていました。
ぎょろぎょろした目がユルユルを穴の開くほどに見つめてきます。
ギャアギャアと、からすが鳴いています。
「牢に入れて!!」
彼女の甲高い声が響きました。
枯れ枝のような誰かの腕が、少女のかわりにユルユルの腕をつかみました。ユルユルは強く引かれるままどこかへ連れて行かれようとしています。特別な抵抗はしませんでした。
人影のあいだから少女の歪んだ顔が覗きました。
彼女はユルユルを睨みつけていました。
泣きながら憎悪しているのでした。
「かみさまなのに、どうして助けてくれなかったの!! あんたが助けてくれなかったから二人とも死んだ!! 死んだの!! もういない!! どこにもいないの!!」
血を吐くように叫ぶのでした。
「あたしのかあさんをかえしてよ!! おとうとをかえして!! ちいさなこだったの、やさしいこだったの!! だいすきなかあさんだったの!! どうして、どうして!!」
ユルユルは身体の中身が空っぽになったみたいに、ふわふわと歩いていきます。
その身体の空洞を、少女の言葉がぐわんぐわんと反響していくのです。
反響して、染みこんでいくのです。
どうして たすけて くれなかったの !!
※
ユルユルは石牢に放り込まれました。
やせぎすの男の人が牢の門扉に頑丈な錠をかけて、錆びついた鉄格子越しに、ユルユルを一瞥しました。穴の開いたような、真っ黒で、何もない両目でした。それから、力なく足音を鳴らせて、立ち去って行きました。
ユルユルは膝を抱えました。
薄雲越しの日差しが、牢屋のはるか高い窓から降り注いでいます。弱々しい光の中には埃が舞い、ユルユルのひび割れた足で擦る石床はざらついていました。
音は不思議なほどにありませんでした。
音の聞こえないどこか遠くで、人々はユルユルを粉々にしてしまうために、いま、準備をしているのだろうかとぼんやりと想像しました。あのやせっぽちの腕が大きな槌を持ってきて、ユルユルの手や足を粉々にしてしまうのだろうかと。それとも、ユルユルを磔にして、遠くから石を投げてしまうのかもしれません。うんと高い所から、ユルユルを投げて、ばらばらに壊してしまうのかもしれませんでした。
ユルユルは、自分がうんと悪いことをしたんだと思いました。
あの女の子が言うには、あそこにいた人たちを、ユルユルはみんなみんな助けてあげられたらしかったのです。それを、ユルユルは助けてあげなかったので、それはやっぱり悪いことなんだろうと思いました。
だから、それでみんなの気持ちが落ち着くなら、いくらでもそうしてくれて構わないと思いました。
チャリ、と音がしました。
ユルユルはゆっくりと顔を上げました。
一羽のからすが、鉄格子の向こう側で、ユルユルを見つめていました。
くちばしに、牢屋の鍵を咥えています。
薄日の差す中に、その鍵は、鈍く銀色に輝いているのでした。からすは、真っ黒な目で、ユルユルをただ、眺めていました。鍵を照らすのと同じ光が、鮮やかに妖しく、からすの毛並みを照らし出しているのでした。
からすは鍵を、ゆっくりと石床に落としました。
控えめに、また、音がします。
「出ろ」
と、言ったかと思うと、からすは、鍵束をくちばしで器用に操って、鉄格子の隙間からぽんと放り投げてきました。それはちゃりちゃりと音をたてながら、ユルユルのちょうど目の前に、滑り込んで止まったのでした。
傷だらけの鉄色の鍵が、薄曇りの光を浴びてぼんやりと輝くのでした。
「あなたはだれ?」
ユルユルは琥珀の瞳に、鮮やかな黒紫の毛並みを持つからすを映したのでした。
「ヨスガ」
からすは名乗りました。
「どうして鍵をくれるの?」
ヨスガはくいっとくちばしを上向けました。
「勘違いすんな、石女。おれ様はお前を助けるんじゃあ、ねえ。お前のきんきらな髪と、きんきらな目を、なにもかもぜんぶおれのものにしようってだけだ」
ケケ、と喉奥で笑いました。
「それをあいつら、なんの価値も分かってねえ、ゴミどもが、お前を粉々にするなんて鼻息が荒ぇ。とんでもねえ話だ、こんなにきれいな生きてる宝石を、粉々にしようなんざいよいよ脳味噌がいかれてやがる。あいつらにみすみす渡しちまうより、価値を分かってるおれ様がかっさらっちまったほうが、この世のため、ひいてはお前のためってわけだ。わかったか? 石女」
「いしおんなじゃないよ、ユルユルだよ」
ヨスガは再び、ばかにするように、ケケ、と笑いました。
「いいから、さっさと出るんだよ! 外の連中をみんな黙らせてきたが、いつまた気が変わるか分かったもんじゃねえ。痩せぎすから鍵を奪うのなんざァ、造作もねえが、鍵穴にはめて錠を外すなんて芸当は、人間のおててがねえと出来ねんだよ!」
ワア、ワア、と、ヨスガは苛立ったように鳴き始めました。
ユルユルはあわてて、鍵を拾いました。割れそうな足を動かして立ち上がると、門扉にぶら下がる錠前の鍵穴に、鍵を差し込みます。
ヨスガは鉤爪を鳴らして急きたてました。
「おせえぞ、おせえぞ! 石女!」
「いしおんなじゃないよ、ユルユルだよ」
ユルユルのまるまるすべすべした指が、えいえいと鍵を回しますと、がちゃりと音を立てて、錠前が外れました。そのまま錠前を石床に落としてしまうと、鉄格子の扉はユルユルの小さな手で押すだけで簡単に開いてしまうのでした。
すぐそこに足を踏み出せば、ユルユルは逃げられてしまうのでした。
けれどその瞬間、ユルユルは崖の淵に突然立たされたように、動けなくなりました。
つぐないをしていない、とユルユルは思いました。
「出ちゃだめって、言われたよ」
ユルユルは、部屋と廊下とを区切る、何もない石床の上を眺めました。
「わたしも、そうおもうよ」
ユルユルは、皆を助けられませんでした。
ユルユルは、邪神と呼ばれました。
人々に災いをもたらす神。
まさしくその通りだと思います。
救えなかった者達のために、残された者達のために、ここで壊されてしまうのが自分の役割だと思いました。
それはひどく正しいことのように思えました。
ですが、
目の前のからすは、
「ハッ」
心の底からユルユルを嘲笑うのでした。
「外で散々喚いてたガキの話を聞いてたぜ」からすは笑い混じりに話し始めました。「あいつらァ、お前がこの世のなにもかもすべてを全部全部救えるなんて頭っから信じ込んでやがる」
「そうなんでしょう?」
ユルユルが口を挟みますと、ヨスガはくちばしを大きく開いて笑いました。
「お前みたいな、ちっぽけな石っころに、そんなたいそうな芸当が、できるわきゃあねえだろう!?」げたげたとからすの笑う声が、石牢にわんわん響くのでした。「お前はただの石で、お前にはなぁんにも救う力はないんだよ!」
「あるって言われたもの」
「ないよ!」
「言われたもの」
笑うからすになおもユルユルが言い募りますと、からすはとたんに笑うのをやめて、ちょっと小首を傾げてみせました。
「何もかも救うお力がおありになるって?」
ユルユルは頷きました。
そうでなければ、ユルユルがこうして捕まったはずがないのですから。
「じゃあ証明してみせておくれよ」からすはひきつり笑いを堪えながらそういいました。
「しょうめいって、どうするの?」
「簡単!」からすがその場で三度跳ねたので、石床が三度チャリチャリと鳴りました。「この俺様を救っていただけるだけでいいんだよ」
「どうすればいいの?」
「まずその牢屋を出ないとお話にならないな」
ユルユルは、開いた扉の内側と外側を、交互に見ました。それはもう、ユルユルには、崖の淵のようには感じられなくなっていました。
ユルユルは、そろりと、足を踏み出しました。
割れそうな石の足が、牢の外にある石の地面を、がちょり、と確かに踏みしめました。
「そうだ、そうだ!」からすがよろこんで飛び跳ねました。「俺を助けてくれよ、女神様!」そうして、歩き出すユルユルの肩に止まりました。
「どこへ行けばいいの?」
「このクソみてえな村を出るんだよ!」ヨスガはおおいばりしました。ヨスガが道を示すので、ユルユルはそれに従って歩くと、だれにも見つかることのないまま、やがて牢屋の建物の外に出られたのでした。
「でもヨスガ、」薄曇りの空にユルユルの銅で出来た髪が鈍く光りました。「わたし、つぐないをしていないの」
「お前が何もかもを救えるお力をお持ちだって証明できたら、その時またここに戻ってきて、この村の連中にぶっ壊されるなり好きにすりゃいいさ」肩の上のからすが低くいいます。「だがまずは困っている俺様を救って、なんでも助けられることを証明しなければならないぜ。お前様にとっちゃ、どうやらこんなちっぽけなからす一匹、簡単に救えるみたいだからな」
ユルユルはうなずきましたが、具体的にどうやればこのからすを助け出せるのか、それは皆目わかりませんでした。
それを悟ったようにからすは、ユルユルの肩や頭をぴょんぴょん飛び跳ねて急かしました。
「いいか、石女、この村から出て、北東にまっすぐ進むんだ。そこには的頭の呪い屋がいて、俺はそいつに用事がある。お前は、この俺を助けると思って、そこまで案内してくれりゃあいいのさ!」
「石女じゃないよ、ユルユルだよ」答えながらユルユルは、からすの示すほうに歩きだしました。
村人はユルユルを盛大に壊してしまう祭壇を作るのに夢中で、石のおんなのこと一羽のからすが村からいなくなろうとしていることに、まったく気が付かないのでありました。




