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先輩だけ図鑑に載っていない

作者: ヤスヤナ
掲載日:2025/10/10

『世界中の人と仲良くなれる図鑑』

そんな図鑑を持つ少年の話。

『世界中の人と仲良くなりたい』

俺は、幼稚園児の頃から思っていた。

1人1人にオリジナルで素敵な過去がある。

仲良くなって、その素敵な過去を聞きたい。

そして、去年の冬(つまりは中3の冬)。

『世界中の人の名前と過去が載っている図鑑』

偶然、手に入れた。

願っていれば必ず叶う、byウォルト・ディズニー。

素晴らしい! これを使って世界中の人と仲良くなろう!過去は聞かなくてもわかる。だが、思想や、その過去についてどう思っているか、それを知りたくなった。

てな訳で、高校に入学し、昨日の入学式後、この高校の生徒と教師の名前を全て知って、意気揚々と登校したんだが。

今、俺はなぜか『知らない』先輩に校庭で押し倒されている。




「あ、あの、先輩? な、何ですか?」

押し倒し、俺をじっと見てくる。

「勘違いされますよ? 誰かに見られたら」

しかし、ただ先輩はじっと見てくる。

全員の顔は、まだわからない。『図鑑』には載っていないから。

けど、過去は知っているから、どういう人がいるのかはわかっている。

いきなり押し倒してじっと見てくる先輩なんて、俺は知らないんだがなあ!

「ポケットかな」

ズボンの左ポケットに手を突っ込んでくる。

「ちょ、ちょっと!?」

「ないか。

ちっ、確かに魔術を感じたんだが。

くそっ。右か?」

そこに、救世主。2年生の先輩(ちなみにこの女子も2年生、スリッパの色でわかる)が見える。

先輩は舌打ちをし立ち上がると、

「こんな所でこけちゃったのかしら。大丈夫?」

ふふ、と笑いかけてくる。

「立てる?」

「は、はい」

「あなた、最近、この世界で何か手に入れてない?」

笑顔で聞いてくる。

「し、幸せ?」

『図鑑』のことを知られないように返す。

「そう。なら、いいの、いいのよ。

ありがとうね」

そう言うと去っていった。

「な、何だったんだ、いったい」



右ポケットを調べられていたら不味かった。『図鑑』は取り出しやすいよう、右ポケットにいつも入れているのだから。

などと思いながら、夜、部屋で『図鑑』の確認をする。

『今日、昼休みに俺を押し倒した先輩』

探す。過去が載っているから、探したらあるはず。

しかし、

「ない! ないぞ!」

そんな過去が載っている先輩は、誰もいない。

「ふははっ」

つい、笑ってしまう。

押し倒してきたときの表情、過去が全くわからない人。

『図鑑』

手に入れたときみたいだ。ワクワク、ドキドキ!

知れば知るほど無知に気付く、byアルベルト・アインシュタイン。

それを体験できるってか! 先輩を知れば知るほど、無知であることに。

素晴らしい!

ああ、先輩。名前も、過去もわからない先輩。

「可愛い…、何てミステリアスなんだ…」

先輩…いったい何者なんだ…。


読んで頂き、ありがとうございました。


少年は先輩を理解し恋人にしようとし、先輩は『この世界のどこか』にある『図鑑』を取り返そうとする、という関係。どうなることやら。


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