先輩だけ図鑑に載っていない
『世界中の人と仲良くなれる図鑑』
そんな図鑑を持つ少年の話。
『世界中の人と仲良くなりたい』
俺は、幼稚園児の頃から思っていた。
1人1人にオリジナルで素敵な過去がある。
仲良くなって、その素敵な過去を聞きたい。
そして、去年の冬(つまりは中3の冬)。
『世界中の人の名前と過去が載っている図鑑』
偶然、手に入れた。
願っていれば必ず叶う、byウォルト・ディズニー。
素晴らしい! これを使って世界中の人と仲良くなろう!過去は聞かなくてもわかる。だが、思想や、その過去についてどう思っているか、それを知りたくなった。
てな訳で、高校に入学し、昨日の入学式後、この高校の生徒と教師の名前を全て知って、意気揚々と登校したんだが。
今、俺はなぜか『知らない』先輩に校庭で押し倒されている。
「あ、あの、先輩? な、何ですか?」
押し倒し、俺をじっと見てくる。
「勘違いされますよ? 誰かに見られたら」
しかし、ただ先輩はじっと見てくる。
全員の顔は、まだわからない。『図鑑』には載っていないから。
けど、過去は知っているから、どういう人がいるのかはわかっている。
いきなり押し倒してじっと見てくる先輩なんて、俺は知らないんだがなあ!
「ポケットかな」
ズボンの左ポケットに手を突っ込んでくる。
「ちょ、ちょっと!?」
「ないか。
ちっ、確かに魔術を感じたんだが。
くそっ。右か?」
そこに、救世主。2年生の先輩(ちなみにこの女子も2年生、スリッパの色でわかる)が見える。
先輩は舌打ちをし立ち上がると、
「こんな所でこけちゃったのかしら。大丈夫?」
ふふ、と笑いかけてくる。
「立てる?」
「は、はい」
「あなた、最近、この世界で何か手に入れてない?」
笑顔で聞いてくる。
「し、幸せ?」
『図鑑』のことを知られないように返す。
「そう。なら、いいの、いいのよ。
ありがとうね」
そう言うと去っていった。
「な、何だったんだ、いったい」
右ポケットを調べられていたら不味かった。『図鑑』は取り出しやすいよう、右ポケットにいつも入れているのだから。
などと思いながら、夜、部屋で『図鑑』の確認をする。
『今日、昼休みに俺を押し倒した先輩』
探す。過去が載っているから、探したらあるはず。
しかし、
「ない! ないぞ!」
そんな過去が載っている先輩は、誰もいない。
「ふははっ」
つい、笑ってしまう。
押し倒してきたときの表情、過去が全くわからない人。
『図鑑』
手に入れたときみたいだ。ワクワク、ドキドキ!
知れば知るほど無知に気付く、byアルベルト・アインシュタイン。
それを体験できるってか! 先輩を知れば知るほど、無知であることに。
素晴らしい!
ああ、先輩。名前も、過去もわからない先輩。
「可愛い…、何てミステリアスなんだ…」
先輩…いったい何者なんだ…。
読んで頂き、ありがとうございました。
少年は先輩を理解し恋人にしようとし、先輩は『この世界のどこか』にある『図鑑』を取り返そうとする、という関係。どうなることやら。




