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31、身勝手な口上

 メロウが海上からジャンプし、弧を描くように一回転する。


 上半身は色白の肌がきらめき、美しく流れるような金髪が空に広がった。

 手は人間のそれとは異なり、水かきになっていて、下半身の尾に纏う青色の鱗がカンテラの明かりを反射してキラキラと輝いた。


「噂には聞いていたけれど、本当に綺麗ね」


 私は見とれてため息をついた。はるか昔には、メロウに魅せられた人間の男が結婚を申し込むこともあったそうだ。

 これほどの美人なら告白してしまいたくなる気持ちも分かる。


『綺麗って私のこと?ありがとう』


 金髪のメロウは小鳥のようにさえずる。彼女が笑うと、まるで花が咲くようだった。


『バーン・マクと一緒にいる人間の女の子なんて少し変わっているから近づいてみようと思ったんだけど、あなた私と会話できるのね』


「そうよ。ドルイドの見習いなの」


『ドルイドなの?話は聞いたことはあるけど会ったのは初めてよ。人間と会話ができるだなんて面白いわ』


 水かきでひと泳ぎ。少しだけメロウが近づいてきた。


 まだ距離があるが、こちらに関心を持ってくれた証だった。私もできるだけ海面に顔を近づけて話す。クーシーが後ろから『気をつけろよ』と囁いた。


 メロウは複数人で行動を取ると聞いていたが、今のところは彼女一人のようだった。


『でもドルイドって普段はダナンランドにいるのでしょう?このあたりでは見かけないもの。なぜあなたはこんなところに?』


「ダナンランドに偽物の王様が現れて、逃げてきたのよ」


『偽物の王様?』


 するとメロウは、途端に呆れた顔をした。


『ああ……、海を荒らす人間の王様ね。島の西には大陸から人間が乗ってきた船がたくさん停泊しているし、東側では魚が減ってしまったわ。

 ぜんぶ人間たちのせいなんでしょう?私たち大迷惑しているのよ』


「そうよね。ごめんなさい。私たちのせいであなたたちの生活を乱してしまっている」


『最近じゃ海町の男たちも乗りが悪いったらないわ。前は遊んでくれたり魚を分け与えてくれたりしたから、雨雲や嵐を追いやって彼らの漁を助けてやったのに』


 そう。人間と精霊は持ちつ持たれつ。これまでのフィルランドの漁師とメロウはお互いに助け合って暮らしていたのだ。


 うまくいっていた関係を突然壊したのはブレスであり、それをメロウが憤る気持ちはよく分かる。メロウは気分を害した表情をしていた。


『人間の男と遊ぶのは楽しいわ。それこそみんな私のことを綺麗だと褒めそやしたり、結婚してくれと告白してくれたりしたのよ。それなのに今じゃ「漁の邪魔だ」ですって。

 人間がそういう態度を取るなら、こっちだって嵐を起こして本当に邪魔をしてやるわ』


「メロウ、待ってちょうだい。フィルランドの漁師たちがあなたたちに当たるのには理由があるのよ。フィルランドのすぐそばにある水門を偽物の王様が閉じてしまったせいで、銀魚が不漁になってしまったの」


『水門?不漁?』


 ブレスのせいでフィルランドの人々やメロウの生活に影響が出ていることを、どう説明すれば理解してもらえるだろうか。


 私はメロウに分かってもらおうと何とか言葉を絞り出した。

 ただ、自分の考えに必死だったせいで、メロウの表情に嫌悪の念が生まれたことにうまく気付くことができなかった。


「水門を閉じたせいで潮の流れが変わってしまったのよ。そのせいで銀魚が取れなくなってしまったの。ダナンランドに立った新王は偽物で、本物の王様を追い詰めるために水門を閉じて、船をダナンランドに差し向けられないようにしたの。

 だからあなたたちに偽物の王様を倒す力を貸してほしくて……」


『やめろ。フリッカ』


 必死に説明をする私を止めたのはクーシーだった。ぐいとローブの裾を引っ張られる。


『そんなことを言ってもメロウには響かない。火に油を注ぐだけだ』


「でも」


 私は頭に血がのぼっていた。


 現状を打開するには、メロウの力を借りるしかない。そのためには私がメロウを説得しなければ。


 なんとかこの問題を理解してほしくて、相手のことを顧みずに言葉を重ねた。


『偽物の王様だろうが水門だろうが私たちには関係ないわ。それって人間の政治とやらの話でしょう?そんなものを持ち出さないで頂戴。勝手に解決してよ』


 クーシーの指摘通り、メロウは私の言葉に不快感を覚えたようだ。先ほどまでのこちらへの興味は完全に失せていた。


 埠頭からわずかに後退して、怒りを宿した目でこちらを見つめている。


 綺麗な顔が怒りに歪むとそれだけ壮絶だ。


 それでも私は諦めるわけにはいかなかった。


 このまま“水妖の墓場”を通れなければゲオルグは王宮に戻ることができず、彼こそが虚偽の王として歴史に名を刻むことになってしまう。


 そんなことは絶対に許すことはできない。


 それに、フィルランドの人々の生活もかかっている。


(私に力があれば、お母さんみたいな力があれば、みんなを助けることができるのに!)


 クーシーの助言を無視する形で、私は埠頭の先にいるメロウに手を伸ばした。


「偽物の王様を倒せれば、きっとフィルランドの男の人たちもまたあなたたちと仲良くしてくれるはずよ。だからお願い、力を貸してほしいの!……『捧げもの』がほしければ、私の体の一部をあげるわ!」


 私は思い切って叫んだ。


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