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2、王宮務め

「おはよう、アン」


「ねえフリッカ。昇進試験の話って聞いた?」


「ええ、なんとなく」


 ダナンは役職制である。


 ドルイドは祭司と呼ばれる役職にて王宮で働くことになり、見習いを脱するためには祭司部隊の一人に選ばれなければならない。

 ちなみに祭司部隊のトップは、かつてお母さんが務めていた祭司長である。


 祭司部隊に入隊するためには見習い期間が終わる際に実施される昇進試験に合格しなければならない。

 昇進試験は毎年あり、今年の試験を受けるかどうかの判断は見習いの身分たる私たちの判断に委ねられている。


 つまり、「自分がまだ祭司にふさわしいスキルをそなえていない」と思えば辞退することが可能なのだ。


「今年昇進試験を受けるかどうかってことだよね?」


「そうそう!フリッカはどうする?」


「私は今年は遠慮しておこうかと思ってる」


「えっ!?」


 私がそう言うと、アンは驚いた顔を見せた。


「せっかくの貴重なチャンスなのに!?宮仕えして1年経過しないうちに祭司になれるかもしれないんだよ」


「うーん。そうだけど、私はまだ実力が不足していると思うから」


 祭司は、王様に星詠みの結果を伝えて政治の方針を左右したり、戦争のときには精霊に助力を求めたりする。

 祭司長などは、下手をすれば大臣よりも権力を持つことになる階級だ。


(そんな責任重大なポストに就く覚悟は、まだ私にはない。いや、そうじゃない。お母さんを乗り越えられないという事実を受け止めるのが嫌なだけかもしれないわね……)


 いずれ自分が納得したタイミングで祭司になりたい。私の思いとしてはそれが強かった。

 対するアンはガッツポーズを見せる。


「私は今年の昇進試験を受けるわ。合格して祭司になったら実家に仕送りをしてあげるんだ」


「それはいいわね。応援してる」



 アンと一緒に王宮の渡り廊下を歩く。


 宮殿の最東端に位置する深緑のドアを開けると、すでに入室を済ませていた見習いのドルイドたちが席に座っていた。


 私とアンは指導教官役のドルイドに見つめられながら、慌てて席についた。


「みなさん集まったようですね」


 教官が片手に書物を持ち、わずかに声を張り上げる。


「それでは今日は諸島国家ダナンとドルイドの歴史についての授業を行います。みなさんにドルイドの歴史を知ってもらうことは、王宮で働く上でも非常に重要です。

 なぜなら、ダナンの歴史はすなわちドルイドの歴史。ドルイドの政治的助言が国家の礎を築いてきたと言っても過言ではないからです」


 ドルイドは「他の生き物と意思を介し、その力を貸してもらう賢き者」と言われている。


 星の動きから未来を予知したり、木や花に宿る精霊の声を聞いて生活に役立てる特殊能力を持つ者のこと。

 古来より祭司としてダナンの王様に仕え、その能力を国の政治に生かしてきた。


 私も小さい頃から花の声を聞いたり動物とおしゃべりすることが普通だった。


 お母さんがいた頃は自分もドルイドになるのだと純粋に信じていたのだけれど、お母さんの妹であるおばさんには花や動物と会話する能力はない。


 自分のそれが特殊能力なのだと年齢を経て知るようになった。


 指導教官が滔々(とうとう)とダナンの歴史を述べていく。


「海に囲まれた島国ダナンは、長年に渡って大陸国家からの侵略の危機に瀕してきました。特に大陸西部に位置する帝国は、何度も船団を遣わしてダナンに攻め込んできました。

 しかしそのたびにダナンの独立が守られた理由が二つあります。

 ―――フリッカさん、何か分かりますか」


 ぼんやりしていたところで突然の指名。私は髪の毛と同じピンク色の瞳を見開いた。


 しかしこんな簡単な問いに戸惑うほど私も馬鹿ではない。席を立ち、前方に響くように告げる。


「最新鋭の軍艦を擁する水軍部隊と、祭司部隊が率いる水精霊たちの活躍です。それによって、ダナンは大陸の侵略から守られてきました」


「よろしい。座ってください」


(いつか私もお母さんのように精霊を連れて水軍を助けたり、天候を左右して雷を落としたりできるようになるんだろうか)


 そんな神様のようなことができるのは、ダナンの歴史上でもお母さんが初めてだと言われていた。

 過去の祭司長でもそんな能力を持つ者はいない。


 どこか憧れの気持ちを持つと同時に、今は自分がそこまでの存在になれる自信もない。

 先ほどアンに告げた気持ちは事実だ。

 

 実際、ドルイドの見習いの中から精鋭を選出する意味合いのある祭司選抜試験でさえも、今の自分に合格できるという気持ちはない。


 ダナンという国家の陰に必ず存在するドルイド。


 そんな責任重大な立場に対して、私の中には期待と不安がない交ぜになった気持ちが存在していた。



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