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18、バーンマクとの再会

「お孫さん?男の子ですか女の子ですか」


「男の子だ。ショーンと言う。ちょうど昨日近所の男の子と根性比べをしていて、『自分なら狼のいる森の中へ入っても怖くない』という話になったらしい。おそらくそれで……」


 話の流れは理解できた。


 このまま戻ってこないのならば、自警団が森の中へ捜索に向かうことになるらしい。そこまで来ると大事だ。


 私は大きく頷いた。


「分かりました。家の近くを探してみます。見つけたらおじさんのところに連れて帰ります」


「ありがとう。ダナンランドから来たばかりの人にこんなことを頼むのは申し訳ないが」


 よそ者に頼むのは本意ではない。そういう本音が伝わってきたので苦笑する。


 しかし行方不明の孫にはそんな事情は関係ないのだ。早く見つけなければ大変なことになるかもしれない。


「いえ、フィルランドの人にはいつもお世話になっていますから。恩返しになれば嬉しいです」



 港町から家に戻る。買い物袋を隠れ家に置き、私は森に出た。


 運が良ければ古代林たちが教えてくれるかもしれない。そう思って裏の森の樹木たちに声をかけてみるが、一向に反応はない。


 精霊は気まぐれだ。何となくこういうことになるんじゃないかというのは理解していた。腰に手を当ててため息をつく。


「もう少し森の中に入ってみようかしら」


 樹木たちに居場所を教えてもらえたらすぐにショーンも見つかるかと思ったのだが、そうは上手くいかないらしい。


 港町から近い森のあたりを探してみようかと足を進めたところで、視界の先からゆっくりと何かが近づいてくるのが見えた。


 狼かと思って警戒した私の前に姿を現したのは、青白く美しい体躯をした四つ足の生き物。


 ふさふさの毛に包まれた先日のバーンマクだった。


「あなた……!」


『まだこんなところにいたのか』


 いかにも偶然出会った、と言わんばかりだが、バーンマクがこちらの気配に気付かないわけはない。

 きっと私がここにいるのが分かって出てきたのだ。


『何をしている。ここは人間のいるべき場所じゃない。早く出ていくんだ』


「あなたこそ怪我は大丈夫なの?」


 前脚に視線を移せば、以前よりは幾分ましにはなっているようだ。

 それでも怪我の後は消えず、痛々しさが残る。


 ただ、歩いて現れたのであれば歩行に問題は残らなかったということだ。


 まだわずかに前脚を引きずっているようだが、以前よりは調子も良さそうである。私はひとまず安堵の表情を浮かべた。


『……あのときは、世話になったね。まあ僕からお願いしたわけじゃないけれど』


「歩けるようになったみたいね。よかった……!」


『お前はこんなところで何をしているんだ』


「何をしているんだもなにも、私はこの森の傍に住んでいるのよ」


『……この森に?』


 バーンマクは怪訝な顔をして見せた。次いで尻尾もひと振りする。

 長い尾がふるりと震わされると、近くの木々の葉も揺れた。


『こんな森に住む馬鹿はいないぞ。人間はみんな、ふもとの海町に集まって住んでいるだろう』


「私たちは追われているの。あまり多くの人がいる場所には住めないのよ」


『人間同士、面倒なことだね。何かから隠れているというわけか』


 バーンマクはこちらをちらりと見てから、何やら思案気に下を向く。


 私が首をかしげて様子を伺っていると、しばらくしてから口を開いた。


『……ならば移動したほうがいい。この森では数日前、ダナンランドの匂いがついた人間がウロついていた』


「ダナンランドから?」


 一気に緊張感が増す。


 ダナンランドからということは、ブレスが派遣した追手の可能性もある。

 隠れ家が見つかったら由々しき事態だ。早くゲオルグに知らせないと。


 私が見るからに動揺したのが分かったのか、バーンマクは『今は森にはいない』とぼそりと付け加えた。


『安心しろ。ここ最近は来ていない。最近来たのは海町の子供くらいだ』


「子供……!ねえ、それってもしかして昨日の夜の話じゃない?」


『そうだ。昨日から森の中で泣いていて、やかましくてたまったもんじゃない』


「間違いない、ショーンだわ。お願い、その子のところに連れていって」


 追手の話は気になるが、今はショーンを見つけることが先だ。早くしないと森の動物に襲われる心配もある。


「太陽の実のペーストなら家にあるわ。あなたの怪我を良くしてあげることもできる。だからお願い。今はその子供のところに連れていってほしいの」


『………』


 バーンマクは再び長く青い尾を振った。無言でこちらを見ている。


 宝石のような青い目で長い間見つめられたが、私が再び口を開こうと思った瞬間に答えが返ってきた。


『まあ、あのまま泣いて喚かれてもうるさくてかなわんからな。特別だぞ。ついてこい』


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