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15、古代林

 どうしようかと悩みながら、かつてお母さんが言っていたことを思い出す。


 確か精霊の怪我や病気に効く木の実があるのだと聞いたことがある。この森は木の実が豊富なので、もしかしたらどこかに実っているかもしれない。


 いちかばちか聞いてみることにした。


「私、精霊の怪我を治す木の実があるって母親から聞いたことがあるの。もしかしてこの森のどこかに実っているんじゃない?あなたは知らない?」


 通常であればそんな果実が実っていればバーンマク自身の力で取れるだろうが、あの足では無理だろう。


『こちらに恩でも売るつもり?知らない』


「でもむざむざほおっておくわけにもいかないでしょう。せっかくだからその怪我を治したいのだけど」


『余計な気遣いは不要だよ』


 どうやら精霊の中でも相当にプライドが高いようだ。ほとほと困ってしまう。


 家まで連れて帰るわけにもいかないしどうしようかと思案しているところに、また別の囁くような声が頭上から聞こえてきた。


『バーンマクが怪我をするなんて珍しいこともあるんだなあ』


 甲高い声が葉のさざめきとともに聞こえてくる。


 古代林だ。隣り合っている古代林たちが会話をしているのだ。

 どうやらバーンマクの惨めな状況を見て嘲ろうとしているようだった。私は頭上を見る。


『海町の人間たちの罠に引っかかるだなんて、精霊とは思えないアホだね』


『長い歳月が流れて、本当にただの狼になっちゃったんじゃないの?』


『まだ子どもみたいだししょうがないよ』


 古代林たちはお互いの輪郭を溶かし、クスクスと笑い合っている。

 見下ろす森たちに対し、バーンマクが唸り声を上げた。


 バーンマクを馬鹿にするなと古代林をたしなめたいところだが、そんなことをしても実利はない。今はそれよりも聞きたいことがあった。


 私は上に向かって大きな声で古代林たちに話しかける。


「ねえ、精霊の怪我を治す木の実がどこに実っているか知らない?」


『この人間、最近近くに住み始めたドルイドだ』


『こっちも珍しい』


『怪我を治す木の実なら知ってるよ』


「本当!?」


『でもそう簡単には教えてあげない』


 そう言うと、古代林たちは再びクスクスと笑った。


 ここで諦めたらバーンマクの怪我を治すことができない。私はなんとか古代林たちの気を引こうと必死だった。


「どうしたら教えてくれる?私にできることがあったら何でもするわ」


『人間にそこまで必死になられてもね』


『どうする?』


『あっ、ねえこの前言ってたアイツの件、対応してもらえばいいんじゃない?』


『それは名案』


「アイツの件?」


 どうも古代林たちの間で答えが出たようだ。葉のこすれる音が強くなる。


『最近、私の幹の上にエーン・ドゥが住むようになったの。エーン・ドゥは縁起が悪いから嫌だよ。彼らを追い払ってくれたら精霊の怪我に効く木の実の場所を教えてあげてもいいよ』


 エーン・ドゥは黒くて大きな鳥だ。人間の住む場所に生息して、残飯をあさる。


 ダナンではエーン・ドゥは縁起が悪い生き物とされており、戦や死の女神の手下と見る向きもある。精霊の中にも、この鳥を嫌う者は多い。


「分かった。必ず追い払うわ。でも今はバーンマクの怪我を治すほうが先よ。お願いだから果実の場所を教えてくれない?」


 古代林はひそひそと話し合っていたが、少ししてから『いいよ』と折れてくれた。


『どうせここには人間も来ないしね。けれど必ずエーン・ドゥを追い払ってよ。本当に嫌なんだから』


「約束するわ」


『太陽の実はもうちょっと進んだ先の低木に実っているよ。黄色くて大きい実だからすぐ分かると思う』


「ありがとう!」


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