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10、反乱の第五王子(ブレスside)

 子供の頃から歩き慣れた王宮だが、今は大手を振って歩くことができる。


 生活の場を離宮に移してからというもの、王宮に来るのは会議や催事のときだけだった。


 視界に入るこの建物全てが、手に入るはずのなかった宮殿が、今は私のものだ。


 アーチ形の柱が天高くそびえる広い廊下を、たった一人マントを翻しながら歩く。玉座の間はこの奥だ。


 今この瞬間、玉座にふさわしいのはゲオルグ兄さんではなく、この私。


 第五王子として不遇をかこった、ブレスのもの。


 玉座の間に入り、誰もいないことを確認する。金色の玉座が、私を呼んでいる。


 そこに至る前に、軽く手を上げて後ろに付き従っていた部下を呼んだ。


 部下はすみやかに近づいてきて、口上を述べて跪く。


「軍部の制圧状況は?」


「陸軍と水軍は支配下に納めました。ただ……」


「ただ?」


「司令官たる水軍将と、王直属部隊である親衛隊隊長が行方不明です」


「いずれも兄さんの子飼いだな。二人とも有力な将兵だ。見つけたら捕らえろ」


「はっ」


「それと肝心の現王……兄さんはどこだ」


「王宮中を探させているのですがまだ見つかっておらず」


「必ず探し出して私の前に連れてこい。必要なら殺しても構わん」


「は、はいっ!」


 若干不安そうな兵を、黒い目で射貫く。


 今回のクーデターは万全を期して準備を進めてきた。

 島国ダナンの北方に位置する大陸の一大国家、ミドガルズ帝国と密約を結び、その軍事力さえ利用して実行したのだ。


 王宮は迅速に包囲し、王都の港は大陸の艦船が封鎖している。王宮の外に逃げ出す時間はなかったはずだ。


 それに、仮に運よく逃げ出せたとしても軍隊を持たぬ非力な兄がどこへ逃げようというのか。


 ダナンの主力艦隊が停泊している南部の軍港や兄が住んでいた離宮には私兵を差し向けている。

 近いうちに制圧の報が届くだろう。


「どこにいても必ず探し出してやる」


 酷薄な笑みを浮かべてそう独りごちる。


 兄弟が血にまみれながら求め合った王位に一顧だにしなかった二番目の兄。


 権力など意に介さず、「学者になりたい」などとほざいていたお気楽な存在に嫌悪感を抱くようになったのはいつからだっただろうか。


 兄たちの争いをどこか冷めた目で見ていた彼が、私は嫌いだった。


 それが一転、私の目の前まで転がってきた王位をかすめ取っていったのも彼だ。


 興味などなかったはずの王位を、「この国を立て直すためには仕方ない」と、半ば嫌々ながら継承した彼。


 私が王になれるはずだったのだ。


 それを邪魔した者はみんな許さない。


 そうだ、ゲオルグ兄さんも、私の王位継承を反対したあいつらも―――……。


「ブレス様」


 また別の部下が私の背後に跪いた。何かの報告だろう。顔を上げて言葉を促す。


「ブレス様の離宮に赴いたドルイド部隊はいかがなさいますか。捕らえてあります」


 ドルイド。


 そうだ。忘れるものか。


 星詠みの結果などと言って、私の王位就任を邪魔した祭司たち。


 何が星詠みだ。何が精霊だ。時代錯誤も甚だしい。


「全員牢屋に入れておけ。いずれ殺す」


「ドルイドをですか?お言葉ですが、ドルイドはダナンの政治には不可欠かと――……」


「黙れ。これからのダナンにドルイドは不要。私の言う通りにしろ」


「は、承知しました」


 精霊など所詮は作り話。大陸の軍事力を利用して、強力な軍隊を作ればドルイドの力などを借りなくてもダナンは強い国となる。


「さてと……まずは新王として私が即位しなければな」


 現王を廃位させ、私が新たに王位に就く。


 名実ともに私が軍のトップに就任してから、兄やドルイドの処刑を行えばいい。


 どうせ兄はこの島から逃れられはしない。時間はたっぷりあるのだ。



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