『最後の質問』
目を覚ますと、そこは真っ白な密室だった──。
高校生の三神タクトは、突然連れ去られた謎の施設で、同級生たち4人とともに命をかけたデスゲームに巻き込まれる。
ゲームのルールはただ一つ。「最後の一人になるまで終わらない」。
だが、進行するごとに現れるのは、人間の過去の罪、そして心の闇。
「誰が罪人か」「誰が嘘をついているか」を暴くうち、友情も信頼も、そして命さえも崩れていく。
最後に残されたのは、たった一つの問い──
「あなたが最も殺したい相手は誰ですか?」
真実と贖罪をめぐる、極限の心理ゲームが今、終わりを迎える。
目が覚めたとき、白い部屋の真ん中に座っていた。
記憶はある。名前は三神タクト、高校三年生。だけど、ここがどこなのかはわからない。
「起きたか」
不意に、機械音のような声が頭上のスピーカーから降ってきた。
「この部屋にいるのは、君を含めて5人。名前を呼ぶ。返事をしろ」
声と同時に、周囲の壁が透けるようにして透明になり、他の4人の姿が見えた。
──美波ユリカ。クラスのアイドル。
──葛西シュン。運動部のエース。
──本郷ミナト。成績トップの優等生。
──神代カンナ。陰気で誰とも話さなかった女子。
全員、同じように白い服を着て、正方形の小部屋に閉じ込められていた。
「これより、デスゲームを開始する。ルールは簡単。最後の一人になるまでゲームは終わらない」
その瞬間、背筋が凍った。誰もが一斉にスピーカーを見上げ、顔をこわばらせる。
「ただし……このゲームに勝ち残れば、どんな願いでも一つだけ叶えてやろう」
ゲームはすぐに始まった。第一ゲームの名前は「告発の間」
スピーカーが説明する。
「君たちは一人一人、ある“罪”を持っている。順番に、他人の罪を暴け。三回間違えた者は、脱落(=死)だ」
椅子に縛られた状態のまま、順番が決まる。最初のターンは──タクトだった。
(俺が誰かの罪を暴く? そんなの、わかるわけ──)
だが、部屋の中央にスクリーンが現れ、そこにヒントが表示された。
《彼は、火をつけた。燃えたのは、心ではなく──校舎だ》
タクトは反射的に、葛西を見た。
(……そういえば、去年の火災騒ぎのとき、妙に彼の顔が青ざめてた)
「葛西……お前だな」
沈黙。
やがてスピーカーが答える。
「──正解」
葛西が舌打ちし、俯いた。
次は美波ユリカ。ヒントはこうだ。
《彼女は自分の写真を売った。その代金は、整形に使われた》
ユリカは少し躊躇って、神代カンナの名を口にした。
「カンナ……あんたでしょ」
カンナの顔がみるみる赤くなる。
「ち、ちがう……!」
スピーカーが冷たく告げる。
「──不正解。あと2回」
カンナの部屋に、じわじわと黒い霧のようなものが湧き始めた。
◇
数ターンが過ぎるうち、次々と秘密が暴かれていった。
・ミナトは、答案を不正に改ざんしていた。
・ユリカは、他人のSNSをなりすましで潰していた。
・神代カンナは、教師と金銭関係を結んでいた。
人間関係が壊れていくのが分かった。目が合うたびに、殺気すら感じる。
そして、ついに最初の脱落者が出た。
「神代カンナ──不正解3回。脱落決定」
彼女の部屋を覆っていた黒い霧が爆発するように広がった。
その直後、透明な壁が再び白くなり、カンナの姿は消えていた。
タクトは震えていた。これは演出なんかじゃない。本当に死ぬゲームだと気づいた、、
第二ゲーム──「選択の間」。
「これから1分ごとに、毒ガスが1部屋ずつ注入される。ただし、自分の部屋だけは一度だけ守ることができる。
どのタイミングで守るかは、各自の判断だ」
もう、皆の顔から余裕が消えていた。無言で考え、各自の判断に委ねられる。
1分。誰の部屋もガスは来なかった。
2分。ユリカの部屋にガス。彼女は身構えて防御スイッチを押す。セーフ。
3分。何も起こらず。
4分。ミナトの部屋にガス。彼は冷静に防御。
5分──タクトの部屋。タクトはまだ押していない。
指を浮かせ、ギリギリの判断をする。まだ早い。ここでは押さない。
6分。何も起こらず。
7分。葛西の部屋。彼は迷った末に、スイッチを押さなかった。
「……くそっ」
その瞬間、白い空間が灰色に染まり、葛西は壁を叩いて苦しみ始めた。
数秒後、彼の部屋の画面がブラックアウト。
タクトは震えた。これが、間違えた者の末路だ。
◆
残ったのは、タクト、ユリカ、ミナトの3人。
最終ゲーム──「最後の質問」。
「今から一つだけ、“究極の問い”を投げかける。正しい答えを出せば、ゲームは終了。全員救済される。
ただし……間違えた場合、即死だ」
沈黙が走る。
スクリーンに現れた問いは、こうだった。
《あなたが最も殺したい相手は、誰ですか? 理由と共に答えよ》
沈黙。
殺したい相手──ゲームの中で、ではない。心の奥底の本音が問われている。
タクトは、震える指でボタンを押す。そして答える。
「……俺自身だ」
ざわり、と空気が揺れるような感覚。
「理由を述べよ」
「……俺は、1年前、交通事故で妹を死なせた。運転してたのは、俺だ。
だけど“家族を守ったヒーロー”として周りには褒められた。
……でも、本当は、全部俺のミスだったんだ」
沈黙。
数秒後、スピーカーが響く。
「──正解。ゲーム終了」
◆
白い部屋が崩れ始める。ユリカが泣き崩れ、ミナトは放心していた。
「……タクト。あんた……」
「これで、終わったのか……?」
最後に、またスピーカーが鳴った。
「勝者・三神タクト。願いを言え」
タクトは少し笑って答えた。
「……全部忘れさせてくれ。俺にも、みんなにも」
光が全てを包んだ。
◆
目が覚めると、タクトは自分のベッドの上にいた。
あの日のことは──ただの悪い夢だったのかもしれない。
だが、教室で見かけたユリカとミナトの目が、ほんの一瞬、揺れた気がした。
──記憶は消された。けれど、罪は消えない。