プロローグ
ちょっと残酷かもしれない。
気づいたときには、僕は森の真ん中に立ち尽くしていた。
僕はそこから動こうとも思わなかったし、動きたくもなかった。
木漏れ日が優しく僕を照らした。
夏とは到底思えない清々しさだった。
不意に、綺麗な緑の葉たちがかすれ合う音がした。
そのすぐ後に、僕のところにも風が吹いてきた。
背中に当たる風が心地よかった。
その時だった。
背後に人の気配を感じた。
誰かと思い振り返ろうとするが、動けなかった。動かなかった。振り返らなかった。
次の風が吹くと同時に、背後の誰かも動き出す。
こんどは背中に違和感を覚えた。
そして、目の前がぐわんと大きく揺れて、目の前にあった木たちが、みんな横になった。
いや、僕が横になった。僕が地面に倒れたんだ。
何故か理解できなかったが、焦っていなかった。
下の方に目をやると、どこか見覚えのある男がいた。
誰だろう。
霧で隠れて、服装はちゃんと分からなかった。
けど、男だと思った。それだけは元々知っていたような感覚だった。
彼は目がなかった。口もなかった。顔がなかった。
顔も目もないが、僕は彼の目を見た。
僕は彼と目が合った。
それがあまりにも冷徹な目で、僕は怖くて目を閉じた。
しばらくして、また風が吹いて、緑の匂いに混じった、鉄のような生臭いにおいがした。
その後のことは知らない。
意識が遠のいていく感覚だけがした。
作者の処女作…のはずです。
大目に見て頂けると幸いです。