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第9話

その日久しぶりに灯くんと邂逅した俺は、家族団らんの時間に混ぜてもらって、夕飯もご馳走になった。

伯父さんも伯母さんも、当時から俺を息子のように可愛がってくれているので、遅くなったし泊っていきなさいと、客間に布団を持ってきてくれた。

梨花ちゃんも一緒に3人でテレビゲームで対戦したり、他愛ない雑談をしながらテレビを観たりした後、お風呂に入らせてもらって、一息つくついでにまた灯くんの部屋を訪れた。


「ねぇねぇ灯く~~ん♪」


俺が図々しくベッドに寝っ転がって、灯くんの本棚にあった小難しい書籍を閉じた。


「まだ仕事?」


デスクに向かってキーボードを叩いていた彼は、チラっと俺を窺った。


「うん・・・後少しやっておこうかと思って・・・。」


「そんなん明日でいいからさ・・・。ほら、あの頃みたいに一緒に寝ようよ。」


横になりながら、ベッドをぽんぽん叩くと、灯くんは静かにパソコンを閉じて俺を一瞥する。


「ふふ・・・自分より大きくなった理人とは、到底一緒に寝れないでしょ。」


「・・・ええ?それはどういう意味でぇ?」


「からかわれても乗ってあげないよ?」


スウェット姿の灯くんが何だか少し新鮮で、ベッドに腰かける彼と同じように座った。


「俺さ・・・最近さ、クラブで知り合ったちょ~~~イケメンのうちに行って、抱いてもらっちゃった。」


「そうなんだ。大丈夫?お金ゆすられてたりしない?」


「はは!んなわけ・・・めっちゃ超豪邸高級マンションだったし、金に困ってそうな人じゃないよ。ピアスめっちゃ開いててさ、んでも顔は爽やかでイケててさ~車もカッコイイし、ファッションセンスもいいし、イケボだし、男の扱いも女の扱いも慣れててさぁ・・・おまけにめっちゃセックス上手いの。」


「へぇ・・・なかなか大物釣れたんだね。」


「そだよ~。しかもさ、全然気取ってなくて、後腐れない感じで、自慢話する人でもないし、日本にたまたま帰国してたらしくて・・・後日本人じゃないって言ってたな・・・んでもアジア系の感じだったけど・・・とにかく顔がよかったわぁ・・・。」


「そうなんだ・・・。」


「ところでさ、灯くん彼女とかいんの?」


「・・・いるように見える?」


「ん~?わかんない。久しぶりに会ったし。」


「いないよ。」


「んじゃあ・・・俺のことはまだ好き?」


「・・・ホントに理人は変わってないね。」


「え?呆れた?」


「違うよ・・・。」


灯くんは重ねた手元に視線を落として、またその大きな綺麗な瞳だけを俺に移した。


「俺の中に未練がありそうなら、今日断ち切って帰ろうとしてるんじゃない?」


「・・・んでもその様子じゃなさそうかなって。」


「・・・理人はどうなのさ。」


「・・・え~~?それ聞いちゃう?俺が主導権握ってんですけど。」


「いつ握っていいって言った?・・・後、ついでに俺の手も握らないでよ。」


「・・・ふふ・・・・だって好きなんだもん。もちろん家族として。・・・けど二人っきりで話してると、ダメだわ・・・どうしても気持ちがぶり返す。」


「その偶然出会ったイケメンと、今後もセフレでいたらいいんじゃない?」


「え~?ダメだよ、もう海外行っちゃったし・・・。今度帰ることあったら連絡してやるって言われたけどさ~~。はぁ・・・・違う・・・こんな話したかったんじゃないって・・・。灯くんに久々に会えて有頂天なの、わかるでしょ・・・。昔みたいに甘え切って色んな話聞いてほしかったんだよ。」


「・・・聞いてるよ、何だって。他にイケメンに抱かれた話は?」


「ふふ・・・・何が言いたいんだよ~。」


「特に他意はないよ。理人が話したい事なら、俺は何でも聞くよ。」


「・・・・だから~~~・・・・そういうとこだよ!そういうとこがさぁ・・・・」


「うん」


このままモヤモヤしっぱなしじゃ、次会った時、気軽に話せるいとこ同士じゃなくなる気がした。


「・・・好きにさせないでよぉ・・・。ね・・・最後に一回だけキスさせて。」


「・・・・」


灯くんの薄桃色の唇に視線を落とすと、またそれがゆっくり動いた。


「それで理人は苦しくならない?」


「・・・・・あのさぁ・・・・別れ話してんだよ?今。」


「・・・そうだね。」


「何の会話もなしに終わったじゃんか、あの時。何でそんな優しくすんの?」


「・・・俺もきっとまだ理人が好きだからだよ。」


「・・・・・・・ずっる・・・・」


溢れてくる涙を堪えられなかった。

こんなつもりじゃなかった。

でもいつだって人生が思い通りになんていかないことくらい、わかってるしわからない歳じゃない。

灯くんはそっと俺の頬を拭うように触れてからキスした。

幼い恋心がぶり返した俺に、別れを渡すためのキスだ。

長いまつげを伏せた彼の顔が離れると、何だか顔色一つ変わらない様子が、憎らしかった。


「ねぇ・・・嘘でも好きだよって言ったら?」


「言わないよ。」


「何でさ・・・」


「・・・・理人は俺の嘘で傷ついちゃうくらい、まだ子供だからだよ。」


「うざぁ・・・。」


「・・・・俺もそうだよ。」


悲しそうに目を伏せて、少し顔を逸らす灯くんに、これ以上何を言ったらいいのかもわからない。


「何で俺ばっか我慢しなくちゃいけねぇの。」


思わずそう言葉が漏れた。

家族にだからこそ言える、甘えた言葉だった。

灯くんが一生懸命俺にしてる線引きが、踏み越えちゃいけないと分かっているから、その前で地団太踏んでる。


「あ~~~やめやめ!もう忘れよお互い。俺は確かにガキだけど、もうお互い成人年齢に達したいい大人だしね!切り替えて可愛い男の子落としに行くモードになるかぁ。」


灯くんは仕方なさそうに笑みを返して、そっと俺の頭に手を乗せて撫でた。

彼の良い所は、こういう時に自分勝手に『ごめんね』とか言わない所だ。


「理人、会いに来てくれてありがとう。今までも・・・・。これからも・・・・遊びに来てくれる?」


「うん・・・。てか梨花ちゃんに就職祝い買ってない。今度はそれ渡しに来るわ。」


「うん、どうもありがとう。」


礼の言葉をしっかり受け取って、俺は彼の部屋を後にした。

どんな問答を続けようと、俺たちの関係はいとこだし、平行線だ。

ずるずる引きずりながら次を目指そうと思った。

灯くんが無駄に俺を足止めしたりしないから、前を向けるのかもしれない。

そしてドアの前ではたと思い出して、もう一度勢いよく部屋のドアを開けた。


「ね、灯くん確認し忘れてたこと・・・」


依然としてベッドに腰かけたままだった彼は、パッと顔を上げたけど、その目は真っ赤になってポロポロ涙をこぼしていた。

彼は特に慌てることなく側に置いてあったティッシュで涙を拭いて、ついでに鼻もかんだ。


「・・・なあに?」


俺はまた静かに入室して、そっと部屋の鍵を閉めて、今度は目の前に座った。


「ね・・・俺たちがそういう関係だった5年前、今よりもっと子供だった俺が、持ちかけた約束覚えてる?」


灯くんは潤んだ瞳のまま、じっと俺を見据えていた。


「灯くんは言い訳してた時、俺に恋愛感情は特になかったって言ってたよね。でもそんなもん、後からついてくるもんだったり、曖昧だったりすることくらい俺はわかってるし、約束を持ちかけた俺に誓いを立ててくれた灯くんが、本気で俺の事想ってくれてたこと、今ならわかるよ。」


「・・・気持ちを踏みとどまってるのは、自分だけだとでも思ってた?」


「今なら違うってわかってるよ。」


「引きこもって会わないようにしてた俺を、やっと外に出したのに・・・もう一度秘密を守るために引きこもれって?」


「違うよ。」


彼に迫るように唇を重ねて押し倒した。


「今度は一緒に地獄に落ちようって言ってんの」


また顔を近づけると灯くんはぐっと俺の肩を掴んで押した。


「こうなると思ったから会いたくなかったんだよ。俺たちは・・・別々に生きていればいいんだよ!そうでしょ?」


「・・・俺何もふざけてないのになぁ・・・」


ベッドに押し倒された灯くんを見下ろすのは、想像以上に支配欲が掻き立てられるもので

数年前から変わらず、華奢で色白で、その端正な顔立ちが、何だか自分とは別の生き物のような感じがして、どうしても大事にしたくなる。


「理人・・・どいて。」


「・・・どくからさ・・・『ホントは愛してるよ』くらい言ってよ。」


「・・・そんなのずっと前から言ってる・・・」


視線を逸らす彼に冷たい目を返すと、細い眉が歪んで、またその瞳にどんどん涙が溜まっていく。


「好きだよずっと・・・小さい頃からずっと。でもそんなのどうしろってのさ・・・可愛い可愛い弟みたいな従弟に、大好きだよって告白することも出来ないし、何をどうすることも出来ない・・・。今更気持ちをぶつけてなんになんの?堕ちた先に何があるのさ・・・。俺はちゃんと!理人に幸せになってほしいから、ただの親戚に戻ろうとしてるだけでしょ?!」


肩で呼吸して涙に溺れる灯くんを見下ろして、ゆっくり離れてベッドの下にストンと座ると、起き上がった彼も、そっと隣に腰かけた。


「ね・・・理人・・・許してよ・・・。きっとちゃんとこれから先・・・会うことがあっても、取り繕うって誓うから。」


「・・・・そんなことを聞きに来たんじゃないよ。・・・でもいいや・・・何を言っても俺たちはハッピーエンドじゃ終わらないみたいだし・・・。」


「そんな・・・・突き放した言い方しないでよ・・・・」


最後に一粒涙をこぼしながら、灯くんは消え入りそうな声でそう言った。


「ごめん・・・言い方が悪かったよ・・・。まぁなんていうか・・・お互いに甘えた気持ちをぶつけすぎたかな・・・というか意地悪し過ぎたかな、ごめんね。」


上目遣いで見つめ返してくる彼が、ふと誰かと重なった。


「灯くん、俺も大好きだよずっと。これから先も・・・どういう関係値になろうと、心の奥底でずっと灯くんを忘れられないんだよ。だからさぁ・・・キスしなくても、愛してるって言い合えなくても、セックス出来なくても・・・気持ちは好きだって思い合ってるって、思ってていい?・・・いや、それはきもいか・・・。」


「・・・気持ちは薄れて変わっていくもんなんだよ。」


「わかった、変わって行ってもいいよ。んでも『俺の初恋も初めての相手も、灯くんだもんねぇ~にちゃあぁ』ってねちっこく思ってていい?」


「ふふ・・・なにそれ・・・・」


「やっと笑ってくれたわぁ。ね、昔と変わらず、仲良しで居ようね~~♪」


「・・・無理やりハッピーエンドにしたね(笑)」


またクスクス笑う灯くんには、どうしても世界一幸せになってほしかった。



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