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本気になれない理人くん  作者: 理春


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第43話 最終話

それから1週間後、会う予定を取り付けることが出来て、芹沢くんが遊びにやってきた。


「はい、どうぞ。」


「ありがとう。」


ジュースを注いだグラスをテーブルに置くと、彼は可愛らしい顔を上げて答えた。

軽く笑みを返して、ソファの隣に腰かける。


俺はその時、心底感覚が鈍っていたんだと思う。

芹沢くんがいつもと違う空気を放ってることに気付かず、まだずっと未練を引きずってボーっとしていたから。


「あの・・・理人くん」


「ん~?」


お互い飲み物を一口飲んで、先に気遣いの口火を切ったのは彼だった。


「その・・・最近・・・何かあった?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え・・・・・・・・」


「・・・あの・・・元気なさそうだなって・・・前にエレベーターで会った時にも思って・・・」


きっと彼からしたら、以前嬉しそうにウキウキして一緒に過ごしていた俺と、随分違う表情に見えたんだろう。


「あの・・・別に話したくなければいいんだけど・・・。何か聞くだけで役に立てそうなら・・・」


「・・・・・・・・・・」


芹沢くんはずっと変わってない。

俺の大事な友達になろうとしてくれる。

ちゃんと距離を測って理解しようとしてくれる。


でも俺が欲しいのはそうじゃない・・・。


依然として、鉛球を飲みこんだかのように、ずっと心が重い。

何とも言葉に出来ないもどかしさと、苦々しさ

涙が溢れそうでもあるし、おどけて誤魔化せそうな気もした。

意趣返しに口説いてもいいし、無理矢理空元気を振り絞ってもいい。


けど・・・今の俺には、どちらも出来ない。


「・・・・夜になる度に・・・・俺のこと想って、ボロボロ泣いてた人を思い出しちゃうんだ・・・。」


月明かりも半端で、真っ暗闇の東屋で過ごした短い時間が

まだ少し肌寒い空気が頬を過ぎる度に、息をするたびに思い出した。


俺がそんなわかりにくいことを口にしたら、芹沢くんは意外にも目を見開いて、次第にその瞳一杯に涙をためた。


別に気遣いを持って言ったわけじゃない。

その時初めて、彼を友達扱いした。


彼の目からポロっとそれがこぼれると、苦笑いが漏れて、自分も釣られて涙が滲んだ。


「あ~~~・・・ヤバイ・・・・・。」


「・・・理人くん・・・」


「・・・・芹沢くんはさ・・・もしかして・・・何か俺に話そうとしてくれてた?」


「・・・・え・・・・あ・・・・えっと・・・あの・・・でも・・・理人くんの話を聞きたい。」


「・・・・・・・・・・・馬鹿らしいよ、俺の話なんてさ。」


「どうして?」


「・・・だって・・・」


「理人くんの人生の話でしょ?馬鹿らしいなんて思わないよ。」


「・・・・・・・・・・・」


いったい今までいくらタイミングを逃しただろう。

灯くんと心底一緒に居たいと思っていた幼い日に、嘘をつかずに未来を誓い合えたら、何か変わっただろうか。

そんなことの繰り返しだった。


「後悔先に立たずだよ・・・。フラれたんだ俺。・・・・・・好きだったくせに・・・身内だからって言い訳して、俺のせいで誰かが傷ついたり、腫物扱いされたりすることを恐れて・・・諦めたんだ。色んな人を味見して、品定めして散々時間を浪費して・・・あっちこっち目移りさせて、自分の本心を麻痺させて・・・本当に大事にしたい人と向き合わなかったんだ。・・・だから俺は今・・・長期間のメンタル罰を受けてる最中なんだよ。」


同調するように涙を流す彼の頬を、袖口で拭った。


「そうなんだね・・・・」


「・・・・うん・・・。終わったんだ、一つ。それだけ。・・・・んじゃ、芹沢くんの恋バナも聞かせてよ。」


そう言うと、彼は一つ大きく深呼吸して真っすぐな目を向けた。


「理人くんと過ごしてる時俺・・・・・ずっと何度も何度も・・・・・前に好きだった人のことを思い出してた・・・・。」


「おぉ・・・そうなんだ。」


「うん・・・。いつも・・・・俺は理人くんの好意を受け取る資格ないなぁって・・・思ってた。」


「・・・・」


「一緒に歩いた帰り道でも、ファミレスに行った時も、家で二人っきりで過ごしてる時も、他愛ないメッセージのやり取りをしてる時も・・・・俺はずっと・・・ずっと・・・どこか理人くんの優しいところが・・・その人と重なっちゃって・・・・」


「なるほど・・・・」


「理人くんを介して・・・その人を見てた・・・。俺まだ・・・好きなんだなぁって自覚するばっかりで・・・」


「・・・・それはぁ・・・俺と一緒だなぁ・・・・」


申し訳なさそうに視線を返す彼の頭を、優しく撫でた。


「しょうがないよなぁ・・・。ままならねぇことばっかりよ人生って!」


笑ってほしくてそう言うと、彼はどこか少しほっとした様子を見せて、そっとにじりよって抱き着いた。


「・・・・あれえ?・・・サービス?」


「・・・理人くん俺・・・自分の事ばっかりで・・・自分のことで精一杯でさ・・・」


「うん」


「きっと大事に出来る恋人になれない。」


「・・・・あぁ・・・・」


「理人くんに期待を持たせて、友達でい続けることは、傷つけることかもしれないから・・・伝えたかった・・・。」


「・・・・そか・・・・。」


不思議と、ショックを受ける自分は存在しなかった。

一方的にフラれた形だけど、それは芹沢くんの本心だとわかっているし、俺を大事に想ってのことだから。


そっと離れる彼と、また視線を交わすと

何故か可愛い上目遣いが、まるでキスを期待してる恋人のような雰囲気で


「・・・・あのさぁ・・・」


「なに?」


「芹沢くんは今、俺を誘惑してるわけじゃないよね?」


「えっ!!?」


予想外の言葉にビク!と反応する様が、何だか可笑しかった。


「はは!」


「し・・・してないよ!」


「・・・ふふ・・・うん・・・・・ふふ・・・・」


この子との関係は、俺は間違わずにいられるだろうか。


「仲良くなるチャンス、作らなきゃなぁって息巻いてたから・・・今日誘ったんだよ俺。」


「え・・・うん・・・・。ありがとう。」


何だかその時、初めて気の抜けた本当の笑顔を向けられた気がした。


「まずは友達スタートだよなぁ。ついつい手ぇ出しちゃうから俺。」


冗談交じりに言うと、彼は苦笑いを返して、気をとり直そうとスマホを開くと、一緒に買い物に行きたい場所を色々提案してくれた。


心の拠り所は人それぞれで

俺にとってはそれが恋人であってほしい。

異性を好きになれない俺は、本気になれる恋愛を出来ずにいた。


けど、身を切るような恋心の重みや、痛みを知った。

いつか灯くんが別の人に恋をして、彼氏が出来た時

微笑ましい話を聞いてあげられる親戚でいたい。

その時自分がどんな気持ちになったとしても、もう二度と後悔や邪念を伝えない。

灯くんを愛して生きていく覚悟が出来なかったんだから、せめて門出を祝える大人になるんだ。


その目標にだけは、本気になれる気がした。



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