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本気になれない理人くん  作者: 理春


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第42話

黎人さんと再会した後、遅れて大学に到着し、何事も無かったかのように一日の授業を受けた。

フレンドリーにかつ、自然に接していたのかもしれないけど、元来のルックスの良さからか、はたまた芸能人であるが故の存在感のせいか、その日一日黎人さんを度々思い出した。

大学構内でもイケメンはたくさんいるので、目を引く人は複数いるものの・・・黎人さんは常人とは違う視線を奪うオーラがある。

当たり前かもしれないけど・・・。


依然としてジメっとした空気が漂う外に出て、ノロノロと帰路に就きながら考えた。


日本に国籍を移して・・・?

何でわざわざ?

あれかな、自分のお母さんの出身地って言ってたし、知人がいない土地の方が休めると思っての事かな。


今日はバイトもない。

予定通り駅構内の本屋に立ち寄って、帰宅したら課題をちゃっちゃと片付けちゃうか。

駅前の段差を上がって、店の集まるエリアに入ると、片手に持ったままでいたスマホから通知音がした。

少しドキっとしつつも、灯くんだったらどうしよう・・・とか、もしくはまた黎人さん?はないか・・・と、若干のソワソワを抱えつつ画面を確認する。

そこには久々に、芹沢くんからの連絡が来ていた。

本屋に足を向けつつメッセを確認すると、『理人くんに勉強見てもらったおかげで、中間テストの結果よかった!』とある。


「お~~・・・。」


何と返信しようかと指を構えていると、続けてメッセがポンと現れる。


『お礼したいんだけど、またファミレスにでも行かない?』


「っあ~~・・・・お礼・・・・あ~~」


小声で呟きながら、着いた本屋の前で少し辺りを見渡しつつ、邪魔にならない壁際に寄ってまた視線を落とした。


なんて言うべきかなぁ・・・お礼って言われるとよこしまなことしか思い浮かばない・・・


「おうちデートリベンジだな・・・よし。」


外での食事より、ゆっくり一緒に過ごす時間を設けて好感度を上げることは何よりも重要だ。

イチャイチャ出来なかったとしても、会話を重ねて仲良くなることは最優先!

芹沢くんにお礼はいいから、またうちに来てゆっくりしようと送った。


「・・・・」


返信を終えて静かな本屋に入り、ふと我に返る。


黎人さんに指摘された通り、俺は灯くんとの関係を引きずっていたし

その延長で深い関係を断ち切るべくフラれて、お互い無理していたことを知って、本気だったと気づいた時にはもう遅かった。

気持ちが届かないというよりは、お互いがこのまま恋人になるわけにはいかないという気持ちが、心の根底に存在する。

何もかも貫き通すための犠牲は、俺たちじゃない誰かが払うかもしれないんだ。

結果的に、じわじわと好きな気持ちを忘れていくことを選んだ。


雑誌が陳列している棚の前に来て、尚も後悔が残るためかボーっとしてしまう。


後ろめたさが付きまとうお付き合いなんてすべきじゃない・・・。

本気だと気づいたのは、灯くんの方がずっと先だ。俺より長いこと後悔と期待に沈んでいたはず。

正直、このまま無かったことになるまでズルズル引きずりつつ、同じくらい本気になれる人と付き合えるんだろうかと思う。

芹沢くんのことは好きだし、付き合いたいのは当然だけど・・・灯くんに与えられた、『どうしても手に入れたい』と思うような激情が、きっと俺にはない。

人それぞれだし、本気な気持ちに違いがあるのは当たり前だけど・・・

・・・考え過ぎるのは脳に毒だと知っていた。


「はぁ・・・・・・・・。ってかないな・・・」


ファッション雑誌の棚をいくら眺めても、目当てのものは見つからない。

黎人さんが表紙なら目につくはず・・・

やっぱり母さんが言ってた通り、重版がかかってる状況なだけあって、どこも品薄状態なんかな。

念のため近くにいた店員さんに尋ねてみたけど、案の定再入荷自体が未定で、問い合わせも多々受けているが何とも言えない状況らしい。


あ~~~~手に入らないと思うと俄然欲しくなる!


これが人間の心理だろう。てか今朝黎人さん本人にあったとき、雑誌めっちゃ売れてるらしいよ、とか教えてあげたらよかったか?

というかこの際母さんの力を借りて、やっぱり見本誌をもらうか・・・?


「ん~・・・・。帰るか・・・」


それはやっぱり何か違う。と自分の心が言う。

自分で稼いだお金で買う、という達成感は小さいものであっても確かにある。


黎人さんは仕事に誇りを持ってる人だと思った。

ざっとネットで調べただけでも、パリコレなど世界的な舞台に立つまで、10代の頃から色んな雑誌で活躍してきた人だったようだ。

年端もいかない少年時代から、無垢な笑顔で写っているファッション誌の一面もあった。

母さんが言っていた、撮り直したいと頭を下げた、という事実は

単に日本での仕事だからという理由ではないと思う。


あ・・・やばい・・・


ボーっと車窓からの景色を眺めながら、規則的な電車の揺れに身を任せて

シンプルな事実に気付いてしまった。


もっと、黎人さんのこと知りたくなってる。

けど内心よくわかってる。

俺が得たい物は恋人というより、「安心感」そのものだと。

誰かの大切な存在でいられるという、居場所と存在意義。

そういう立場を手に入れて、ひたすら甘えたいんだって、脳は理解してる。


本当は灯くんの隣に、一番近い存在でいたかった。

灯くんといると全てが肯定されて、いつも通りの自分で居られて、気心の知れた一番の関係だったから。

ホントはもう一度手を伸ばしたいって思ってる。

ドアの向こうで泣き崩れていた灯くんを、何度も何度も思い出すから。

あの時もう一度引き返して、「どこにも行かない。離れたりしないから。」って抱きしめたら、とうとう俺も覚悟が決まったんだろうか。


どんな問題も答えに辿り着かないまま、俺は自宅のマンション前に辿り着いた。

芹沢くんと知り合ってまともに会話したのも、ここだった。

物思いにふけっていると、エントランスの外から雨音が聞こえ始めた。

夕方なのに暗雲が立ち込めているせいで、気が滅入るような真っ暗闇。


また目の前に視線を戻して、無機質な音を聞きながらエレベーターに乗り込む。

するとドアが閉まる直前に「あ・・・」という小さい声が聞こえたので、反射的に開くボタンを押した。


「すみません!・・・あ!」


「芹沢くん!わ・・・だいじょぶか!?濡れちゃった?」


直前に振り出した雨で、そこそこ髪の毛や肩や鞄やらを濡らした彼が、申し訳なさそうにエレベーターに乗り込んだ。


「うん・・・もう少しだったのにギリギリ間に合わなかった。」


残念そうに笑みを見せるものの、何だか少し嬉しそうにしている気がして可愛い。

ポケットに手を突っ込んでタオルハンカチを貸そうと掴んで出すと、忘れていた黎人さんのハンカチが目の前に現れる。


「あ・・・・・・あ!!」


「へ!?」


ビックリする芹沢くんが更に可愛い。じゃなくて!

慌ててそれをリュックに押し込んで、自分のハンカチを手渡した。


「何でもない!ほら、ふいて拭いて。」


「あ、いや・・・大丈夫だよ、ありがとう理人くん。」


芹沢くんは遠慮がちに言うと、割って入るようにエレベーターの到着音がした。


「あの・・・また都合がいい日に遊びに行くね。」


「うん、オッケー。風邪ひかないようにね!」


「うん、ありがとう。」


芹沢くんは軽く手を振りながら、扉が閉まってガラス越しに扉で、見えなくなるまで見送ってくれた。


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