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本気になれない理人くん  作者: 理春


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第41話

冷静になってみれば・・・そもそも俺の事とは限らないな。


大学の準備を整えて家を出た時、ふとそう思った。

テレビに映っていた父親に当たる人が、さも俺を意識したようなタイトルの作品を発表して、息子がいる、と公言していたけど

そもそもその「息子」が、そいつにとって一人とは限らない。


「だったら早とちりの可能性もあるよなぁ・・・」


母さんに何か探りを入れるのは悪手だし、去年の学祭の時に、何か言ってやろうという気持ちが湧いて、声をかけてしまった俺の落ち度でもある。


モヤモヤ過ぎ去ったことを考えて、電車の中で深いため息をついた。

しばらくして音を立てて停車した車内から降り立ち、階段を上がって駅構内の店が並ぶ通路を歩き進めた。

その時だ、ふと大きな広告が貼られた壁に目をやると、黎人さんと目が合った。

長い通路いっぱいに、黎人さんがポーズを撮っている写真や、綺麗な顔のアップがあった。

それはどうやら、プロデュースして発売したらしいブランド香水の広告だ。


「・・・かっけぇ・・・」


思わず足を止めてそう声が漏れた。

綺麗なブルーの瞳がいくつもの光を反射させて、まるで星をちりばめてるみたいだ。

その広告自体星をイメージしているのか、『ステラ』と香水の名前が添えられていた。


ゆっくり足を進めつつ眺めていくと、一緒にホテルで過ごしていた時間を思い出す。

わざわざ昼間のスイートルームで、カーテンを全部引いて照明を落とし、部屋を暗くしていた彼は、やっぱり星が見える夜空が好きなのかもしれない。


なんにせよ、帰りに駅構内にある本屋に寄って、黎人さんが表紙の雑誌を見つけないと。

そう思うと気持ちが逸って、大学に向かうための足を意味もなく速めた。

そして何となく最後のやり取りを思い出して、物悲しい気持ちが蘇る。


死ぬつもりで日本に来た


彼はそう言った。

最後の最後、涙ながらに懇願した俺の言葉を、どう受け取ったかはわからないけど、抱きしめて、何でもない無表情だった黎人さんは

もしかしてその足で母さんの会社まで行って、撮り直したいと頭を下げたんだろうか・・・。


そうだとしたら結構ドラマチックな話だ。そんなことはないだろうけど・・・。


ジメジメした空気を感じながら大学の校門を抜けて、広い校舎に入る前、頭上が妙に白んでいることに気付いて顔を上げると、いかにももうすぐ天気が崩れます、といった雰囲気だった。

腹の立つニュースのおかげで、天気予報がまともに頭に入らなかったし、傘は持ってない。


「はぁ・・・」


どうしようもなくまたため息が漏れて、教室に向かうために校舎に入ろうとした矢先、ポケットにしまっていたスマホが震えた。

階段に足をかけて上りつつ取り出すと、画面に大きく黎人さんの名前が表示されていた。


「・・・・ドラマチックなこと起きちゃった・・・・!」


脳内はパニックだけど、反射で画面をタップしていた。


「もしもし?」

「・・・よぉ、久しぶり。」


機械越しの低い声が、本当に彼の言うように何年も会っていない相手に渡すような、大事な一言のように聞こえた。


「・・・久しぶり、黎人さん。」

「ふ・・・元気か?」

「・・・うん、まぁまぁ。」

「・・・・なんかあったか?」

「・・・なんか・・・?」

「・・・前と違う気がすんなぁって思って。」

「・・・黎人さんは?」

「・・・・・・会って話せるか?」


推し量れない調子でそう言って、何かを試されている気さえしたけど、指定する場所へ向かうことにした。


そこは彼が宿泊しているであろう、以前とは違うホテル街で、近くに高層マンションも多いからか、ビル街に似つかわしくない公園があり、そこを待ち合わせ場所として指定された。


辿り着くと、どこか懐かしく可愛らしいポップな遊具がたくさんある場所で、時間的に人っ子一人おらず、目先には背の低いベンチの背もたれに腰かける彼が見えた。


「・・・黎人さん」


公園の入り口を抜けて声をかけると、サングラスをかけた彼は、相変わらず綺麗な瞳を覗かせた。


「よぉ・・・悪いな。」


ポケットに手を突っ込んだまま、スッと背筋を伸ばして立つ姿は、本来ならたくさんのカメラと業界人に囲まれる姿で、俺みたいな一般人が易々とお目にかかれるもんじゃない。


「それで・・・話って?」


無難な会話を始める空気でもない気がして切り出すと、意外にも彼は優しい笑みを見せた。


「・・・ふふ・・・」


「・・・何・・・?その可愛い笑顔やめてよ。」


「・・・フラれた奴のツラだなぁと思って。」


その言葉で、思いっきり頭をガン!!と殴られたような衝撃を受けた。


「・・・・うっさいなぁ・・・。何用ですか?芸能人がこんなとこでうろついてて大丈夫?」


俺の幼稚な反応に、黎人さんは特に変化を見せずに言う。


「大丈夫ではねぇよ。マネージャーに、この前理人とホテルに入ってたとことか、街をうろついてたとこを、パパラッチに撮られたって言われてな・・・時間は取れない。」


「・・・は・・・はぁ!?マジで?」


「マジだよ。まぁお前は未成年で一般人だし、圧掛けてその写真は無かったことにしたから気にすんな。」


「・・・・・・・・・そ・・・ですか・・・」


「そんなことを話しに来たわけじゃねぇよ。」


「・・・わかってるよ・・・。」


あんまり近づき過ぎるのもよくないかなと、俺は隣に並ぶよりそのまま真正面から、彼の言葉を待った。

黎人さんは、あの時みたいに深くタバコの煙を吐き出すみたいに一つため息をついた。


「一度も・・・礼を言ってなかった気がしてな。」


「・・・・礼?」


「ん・・・。ありがとな。」


「え・・・・何が?」


黎人さんはふと顔を逸らせて遠い目をすると、金髪がサラサラ揺れて、まるでドラマのワンシーンかのように考える間を取る。


「あの時一緒に居た時間が、自分に必要なものだったとわかったからだよ。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・え、俺告白されてる?」


「いいや?」


「・・・んだよ・・・」


「ふふ・・・」


黎人さんはまたくつくつと楽しそうに笑みを落とした。


「・・・先送りにするよ。・・・今死んだら、目覚め悪いだろ?」


冗談交じりなその言い分は、何かそれ以上、詮索されることを拒むようだった。


「黎人さんってさ・・・・・・・・自分がズルい言い方してるって自覚ある?」


「あるよ。」


「・・・・・」


本日二度目のイライラを募らせることになるとは・・・


「理人は、俺が大人の気遣いしてるって気付いてるか?」


「・・・・えぇ・・・?気遣う必要なんてないけど。」


「お前ホントガキのくせに変なとこ大人だな・・・。」


「・・・何が・・・」


「フラれたくせにもう受け入れてんのか・・・。我儘言えない程ズタボロなのか?」


黎人さんが意外なほど何かを見透かしたように言うので、気味の悪さを通り越して、いつでも一緒に居た親友といるように泣きそうになった。

そんなもんいないけど。


「・・・・・ガキの前で大人気なく、死ぬつもりだなんて平気で話す大人に、俺の気持ちはわかんないよ。」


心残りである灯くん以外に、俺にお兄ちゃんはいないし、彼をもう心の拠り所にも出来ないからと言って、代わりにしようなんて思えない。

けどガキ臭いことを言ってしまった自分が、どれだけ灯くんが大切で、大好きで、一緒に居たかったか思い出させて、涙がこみあげて零れた。

体が灯くんの全てを覚えていて、ボロボロ泣きながら引き留めることを堪えていた彼を思い出すと、こぼれ落ちるものを止められなくなった。


過ぎ去ってくれるまで平気なふりをして生きればいいと思ってた。


みっともなくすすり泣いていると、黎人さんはそっと俯いた俺の頭を抱き寄せて、大事に撫でた。

相変わらずいい匂いが漂って、大きな手が優しく頬に触れる。

そっと顔を上げると、近距離ではあまりに攻撃力の高い顔面が視界に広がる。


「いや、ビジュやば!」


ボロボロに泣きながらも、思わずそう声が出た。


「ふ・・・ははは!!」


黎人さんが声を上げて笑う姿を見て、ポカンとしているとぐしゃぐしゃと撫で廻された。


「お前・・・ふふ・・・絶対ドラマだったら今ので・・・カット!って叫ばれてるぞ・・・くく・・・。」


「・・・ふ・・・そだね・・・」


「はは・・・あ~~・・・ふ・・・笑った・・・はは。」


「・・・黎人さんってさ・・・だいぶ日本人っぽいよね・・・。」


彼はまた仕方ないような笑みを浮かべて、前髪をかき上げて息をつく。


「・・・死ぬのは辞めたけど、代わりに仕事は辞めようと思ってな。」


「・・・・へぇ・・・。あれ・・・でも・・・香水の広告が・・・」


「・・・香水?・・・ああ・・・あの仕事はもうだいぶ前に終わったよ。・・・精神科に行ったら、しばらく休養とったらどうだって勧められてな。ま、金もあるしそれもいいかと思って。」


「そっかそっか。いいじゃん。」


黎人さんはポケットから上品なハンカチを取り出して、ぐちゃぐちゃな顔になった俺に差し出した。

彼なりに言い過ぎたと思ってそうな表情を添えて。


「・・・こっちに国籍移して、芸能活動も全部辞めて、親父の仕事も休んで、静養しようかと思う。」


・・・・・何でわざわざ俺に報告すんだろう・・・


「そ~~~れは・・・世間的に大丈夫なやつなの?」


「・・・お前が心配することじゃねぇよ。・・・じゃあな。」


黎人さんはいつもの連れみたいに、そう軽く挨拶して去って行った。

ドラマチックでも何でもない、また明日学校で会うかのように。



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