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本気になれない理人くん  作者: 理春


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第37話

ぼーっと過ごしていたと思う。

それから何日過ぎただとか、数えなくなって、たまに連絡をくれる芹沢くんにメッセを返信したりしてた。

けどどうしても、頭の片隅に灯くんがいた。

音沙汰なくなった彼は、どう毎日を過ごしてるだろうとか・・・

自分から聞けばわかるようなことを考えて、傷ついていることを隠して生きてるかもしれないと思う度に

現実逃避のようにバイトや課題・・・自分のタスクをこなしていた。


そのうち寒い冬が終わって、あっという間に春が来て、桜が乱暴な春雷に見舞われるようになった頃

突然灯くんからメッセが届いた。


『理人、都合がつく日、夜桜でも見に行かない?』


短くて簡潔な文章は、いかにもいつもの灯くんらしくて、平常心を窺わせた。

俺は内心、一抹の不安を覚えたし、何となく返信することすら怖いと思っている自分がいた。

けどそれと同じくらい、会いたくて仕方なかった。


そして桜の見頃はもう終わるだろうと、気象予報で言われ出した頃・・・


タイミングよく予定を合わすことが出来て、虚無で過ごしていた週末とは違う休日がやってきた。


「灯くん!お待たせ・・・。」


到着すると、彼はニコリと頬を持ち上げて手を挙げた。


「全然待ってないよ。行こっか。」


デート初手の定番なセリフが、何だかむず痒く感じながら、隣に立って歩き出そうとすると、彼はさっと俺の手を繋いだ。


驚いて何も言えずにいると、ちょっと小悪魔っぽい上目遣いとかち合う。


「今日はデートだから。理人も了承したわけだし、手ぐらい繋いでいいでしょ?」


「うん・・。」


ふわふわした髪の毛がゆれて、俺の反応を見てクスっと微笑む様に、悲しいような嬉しいような複雑な気持ちがこみあげた。


そのまま予定していた夜桜が煌々と照らされる広場に着いて、細い道がいくつも四方に伸びている様子を二人で見渡した後、灯くんは言った。


「さて・・・理人どこに行きたい?」


「え・・・あ~・・・えっと、そこまで調べてこなかったんだけど、散歩コースが変わるだけかな?」


「まぁそうだね。どこも一本道でかつ、桜が点在してて、後を追うようにライトが足元に続いていってるみたいだよ。」


「へぇ~!面白そう。」


「ふふ・・・なんで?」


「え、だって先に何があるかわかんないってことでしょ?」


俺がそう言って遠くを眺めて、また灯くんの顔を見ると、何故だかポカンとしていた。


「わからないのに・・・面白そう・・・・」


ふむ・・・と目を伏せて考えこむ灯くんが、何だか可愛くって思わずその頭に触れて撫でた。

灯くんはパッとまた顔を上げてニコリと笑みを見せて、今度は悲しそうに視線を逸らせる。


「・・・理人、こっちに行こう。何があるか、俺もそこまで調べてないけど。」


「・・・うん。」


そこそこ話題になっていた夜桜コースだけど、イベントも終盤だったからか、幸い俺たち以外の客たちは、遠くの方に見え隠れする程度だった。


二人して手を繋いだまま静かに進んで行くにつれて、お互い何があるんだろうと気になって会話も少なくなる。

しばらく光を頼りに歩いていくと、屋根のある小さなものが遠くに見えた。


「・・・あれは~・・・?」


「・・・東屋だね。」


「あ~~・・・」


更に近づくにつれて、東屋の少し先が池になっていることに気付いた。

申し訳程度に明かりがあるけど、そこで休憩する人たちを優しく照らす程度で、柵の向こうにある池の水は真っ暗だ。


灯 「ふぅ・・・ついた。そこそこ歩いたね。」


灯くんは「よいしょ」と東屋のベンチに腰かけるので、俺も向かいに座った。


淡い明りに照らされた目の前の灯くんが、背もたれに体を預けて、開いた足の間に自分の手を組んで座ってる様に、何故か目を奪われる。

とっくに春の装いになった彼は、少し長い袖口で半分手が隠れて、ウェーブがかった髪の毛が風になびくのも気にせず、満月みたいなまんまるで綺麗な瞳を向けていた。


「・・・ふ・・・」


「・・・なに?」


灯くんの薄ら笑いに返事をすると、いつもの小首を傾げる癖を見せた。


「理人・・・俺って、男性にモテると思う?」


「・・・・・・え・・・・」


唐突な質問に、少し考えたけど意図がわからなかったので、考えずに答えた。


「うん・・・。」


「どうして?」


「・・・ん~~・・・可愛いし・・・というか美形だし・・・優しいし・・・魅力的だから。」


「ふぅん・・・・。じゃあ・・・ハイスペなイケメン捕まえられるかな?」


「まぁ・・・出来そうじゃない?」


「・・・・」


長いまつげが伏せて、ほとんど辺りが見えない東屋で、まるで二人きり取り残されている気分だった。


「理人、俺・・・・・」


「うん・・・・」


「結局お手軽でさ・・・誰とでもそれなりにやれるのはお互い似てるとこでもあるし、いつか・・・理人を好きだった気持ちとか、綺麗さっぱり忘れて・・・誰かと一緒に居ることを選ぶと思う。」


「・・・・」


「不幸なことなんて何も起きてなくて・・・幸せな家庭で育って・・・問題なく社会人になれて・・・そりゃあ大変なことも多々あるけど、仕事もそこそこ上手くいってて・・・これからも淡々と生きていくんだと思う。」


「・・・・うん」


「何も始まってないのに・・・・ふふ・・・俺別れ話しようとしてるみたいだね。」


「・・・・・」


灯くんはついに、誤魔化すような笑みを捨てて、自分の手元を見つめた。


「俺が・・・今から言うことに・・・全部『ごめん』って言って。」


「・・・え・・・?」


また視線を合わせた彼は、返事を待つように真っすぐな目をする。


「・・・・・・・わかった。」


「・・・・この世で一番・・・手に入れたいものは・・・・理人だけだよ。」


「・・・・・・」


か細い声が、何でもなく日常会話のように耳に入ってくる言葉が、思考を停止させた。


「ほら・・・」


「・・・あ・・・え・・・ごめん・・・?」


「・・・・ずっと愛してたよ。」


「・・・・・・・・・・・・ご・・ごめ・・・」


その瞬間気付いた。

これは刑罰だと。


「・・・他に誰も・・・喉から手が出るほど・・・ほしいと思う人はいなかったんだよ。」


「・・・・・・・・・ごめん・・・」


いつの間にか俺の方が、目を伏せていたし、また逃げようとしている気がした。


「理人に・・・愛してもらえる唯一無二に・・・なりたい・・・。」


「・・・・・・・・・・・・っ・・・・」


「他に何もいらないから・・・。」


「・・・・・・・ご・・・めん。」


「顔上げなよ。」


淡々とした口調に、追い詰められていいなりだった。

けど顔を上げてみると、真顔でボロボロ涙をこぼしているのが目に入って、反抗心が湧いた。


「理人・・・・大好き・・・・・・」


その言葉を合図に、俺までじわぁっと涙で視界が歪んだ。

落ちていく雫を気にせずに、俺を真っすぐ見つめる灯くんを、どうしたいのかわからなかった。

気持ちは何も定まってないのに、立ち上がって側に寄って抱き着いた。


「俺も・・・大好き。」


「ふ・・・グス・・・・悪い子だなぁ・・・・。セリフが違うぞ。」


ぎゅっと背中に回された手が、力強く締め付ける


「グス・・・はぁ~~~・・・ふふ・・・・理人いい匂い・・・」


「・・・・」


「俺があげた香水だ。」


「うん」


「・・・・理人ぉ・・・・」


「なに?」


「愛してるから・・・俺のものになってよ。」


抱きしめた腕に、力を込める。


「・・・もう・・・『ごめん』はどうした?」


「灯くん・・・・・・・いっぱい傷つけたから・・・清算させてよ・・・・」


「今させてるでしょ。・・・ほら、ごめんって言いなよ。理人は・・・俺を傷つけたことに傷ついて来たんだよ。けど・・・それをもう二度とを起きないようにしないと、理人は俺をただの親戚と思えない。・・・そうでしょ?」


「・・・・・・・・」


逃げ場がなかった。

行き止まりに辿り着くまで、俺は逃げて来たんだ。


「理人・・・俺色々考えてたんだよ。ずっと・・・・理人のことを・・・・考えては、何で好きなのか理由を探したり・・・・。同じくらい嫌いになれるようなことを考えてみたり・・・・。けどそういうことじゃないよね。・・・・会えたら嬉しくて・・・・理人が側で嬉しそうに笑ってくれるだけで、幸せで仕方なくて・・・理屈じゃないのに、俺はずっと理屈をこねてた。理人もそう。」


「・・・・・・」


「俺はもう・・・理人に後悔とか、自責の念とか感じてほしくない。ただ・・・俺が従弟である理人をたまたま好きになってしまって、家族に知られるのが怖くて・・・・何も身の振り方を変えられなくて・・・変えようとしても気持ちが変わらなくて・・・。そんな日常に、終止符を打つ日がとうとうやってきた。・・・・それだけのことだよ。」


灯くんはメソメソする俺の頬を、可愛い袖口で拭った。


「可愛い俺の理人・・・大好き。」


綺麗な唇が重なって、気持ちよさに溺れた。

水を得た魚みたいに、貪るようにキスした。

幼い頃から側にあった安心する感触と、抱きしめると甘えたくて仕方ない気持ちが湧いて出る。

最後だと分かっているから、愛おしさで焦燥感をかき消したくて繰り返した。

何分そうしてたかわからないけど、ようやく息をついて離れると、灯くんは妙にすっきりした笑顔を見せる。


「本当はね、死のうと思ってたんだよ。」


その瞬間また、冷や水をかけられたように頭から血の気が引く。


「けどやめた。・・・・俺はもう、何でもない空気みたいに生きるよ。」


「・・・・空気・・・?」


「うん。どこにでもあって、誰も気にしない、見えないもの。ただ在るだけ。」


「・・・・・」


灯くんはこれでおしまいとばかりに立ち上がる。


「けど理人はきっと・・・ふとした時に俺のことを思い出すよ。・・・生きてる限り・・・。」


その張り付いた笑顔の下を、もう永遠に見せてくれないとわかった。


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