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本気になれない理人くん  作者: 理春


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第34話

外は馬鹿みたいに寒い。

灯くんちは歩いて20分程だ。


「あ~~~灯くんも同じマンションだったらな~~。」


人の少ない住宅街を歩き進めながら、都合のいい呟きを白い息とともに吐きだして、もうすぐ彼のマンションが視界に入ろうかという時だった。


「・・・ん?」


ちょうどマンションの入り口付近で、キョロキョロしながらいる灯くんを見つけた。

遠目でも当然わかる。

細い足に、ふわふわした柔らかい髪の毛と、いつものように俺が好きそうな服装をして、スマホを時々眺める彼は、片手にコンビニ袋を持っていた。


こんな寒い中・・・いつから待ってんだろ・・・


そのうちある程度近づくと、パッと俺の方に気が付いて手を振った。

手を振り返して入り口前に到着すると、灯くんは用意していたセリフように言った。


「飲み物とかお菓子とかなかったから、コンビニ行ってた。」


「・・・そっか、ありがと。」


まるで彼氏の到着を心待ちにしていた彼女のように、俺の顔を見上げて微笑む灯くんは、相変わらずその整った顔立ちが綺麗で、雪みたいな真っ白な肌が、寒さのせいかちょっと赤く染まって、何ともソワソワする。

どうしようもないそのソワソワを悟られまいとしていたけど、一緒にエントランスに入ってエレベーターに乗り込む頃、ついに不思議そうに尋ねられた。


「理人・・・どうかした?」


「え・・・いや?」


「・・・?」


「・・・あ~・・・その・・・灯くんのほっぺがすっげぇ寒そうだから・・・ぎゅ~って手であっためてあげたくなって・・・」


正直に言うと、彼はポカンとしてからまた、その名の通り灯りが灯るみたいな柔らかい笑顔を見せる。


「ふふ・・・何それ・・・」


「だってさ~・・・」


エレベーターから降りて、部屋の前に着くと、灯くんは鍵を回しながらポツリと呟いた。


「そういえば・・・何となく思い出したけど、小さい頃の理人にそういうことされた気がするなぁ。」


「え、マジで?」


「うん・・・ふふ・・・『灯くんほっぺあか~い』って・・・手袋した可愛い手でさ・・・」


「え~~・・・小さい頃の俺可愛くな~い?」


気恥ずかしさを誤魔化すように言うと、玄関で靴を脱いだ彼は俺を振り返った。


「今も昔もずっと理人は可愛いよ。」


「・・・全肯定灯くんいただきました~~。」


何気ないやり取りでペースに巻き込まれないようにと、心の中で自分に言い聞かせる。


部屋に上がって簡素なリビングへ入ると、灯くんは温かいココアを淹れて俺の前に出した。

それから隣同士ソファに腰かけて、何となくテレビをつける。

二人で適当に近況を話してはお笑い番組を流し見つつ、灯くんのスマホを覗いて、宅配して食べる料理を決めあぐねていた。

灯くんは終始自然体だけどニコニコ楽しそうで、時々隣にある俺の手をぎゅっと握って弄んだり、太ももをペチペチ叩いてきたりと、スキンシップ多めだ。

そのうち何とかある程度料理を決めて注文し、灯くんは自分のマグカップを取ってココアを飲む。


灯 「そういえばさ・・・ふと思ったんだけどさ」


「ん?」


「俺と理人って兄弟みたいに一緒にいた時期あったり、再会してからもそれなりに話す機会あるけど・・・今まで喧嘩とかしたことないよね。」


「あ~・・・言われてみればそうだね。」


「ね。・・・」


「梨花ちゃんとは喧嘩したことあんの?」


「そりゃあったよ~。梨花思春期の時はすっごい俺や母さんに当たり散らかしてたし。」


「え、そうなの?」


「そうだよ。」


「え、でも俺にはそんなことなくなかった?」


「そりゃ・・・理人はそこまで会う頻度高くないし、可愛い弟みたいに思ってたから粗暴には振舞わなかったんじゃない?」


「え~・・・そっかぁ・・・。んでも灯くんが喧嘩とかになって、怒ってる様子とか想像出来ないな俺・・・」


「・・・ふふ・・・怒られたいの?」


何でもないその会話なのに、灯くんは急に妖艶な表情を向ける。


「え~・・・?やぁ・・・・そうじゃないけど・・・。てかそもそも灯くんがハイテンションになって喜んだり、キレてる姿とか見たことないもん。灯くん自身、反抗期とかあった?」


「まぁ・・・それなりにあったけど・・・。ちょっと親に冷たい態度取ってたくらいで、癇癪起こしたりしてたわけじゃないね・・・。」


「だよね・・・。」


「そういう理人だって、別に反抗期さしてなかったんじゃない?」


「あ~~まぁ・・・無かったかも?」


「昔母さんと叔母さんが話してるの聞いたことあるけど、理人は思春期なのに全然反抗期ないって。」


「ふぅん・・・。まぁ・・・反抗しちゃったら甘える先がなかったからかなぁ。灯くんちの近所から越してからは、そこまで親しい友達出来たわけでもなかったしさ~」


「そっか・・・。今も?」


「う~ん・・・」


そう言われて自分の友人関係を思い返してみた。

いつメンと言える学友はいるし、バイト先でもそこそこの友人関係は築けている。

他学部の知り合いもいて、たまに一緒に学食を食べたりもするし、中高生の頃の友達とも連絡は取るし、遊びにも行く。


「・・・それなりに友達は多い方だと思うよ・・・。だから今は・・・友達より恋人がほしいかなぁ・・・」


何か月も前からそう思っていた。紛れもない本音。


「そっか・・・」


灯くんが俺の意見を聞いて、どう思うかはわからないけど、特に動揺を見せず、何かを考えながらまた一口飲み物を飲んだ。


「俺さ・・・たぶん誰とでも上手くやれるほうでさ」


また話し始めると、灯くんは頷いた。


「それなりに好意を持ってくれてる相手だったら、すぐ付き合えるとは思うんだけど・・・。いい人だったらそれなりにトキメクし、仲が深まれば嬉しいし・・・誘うことも下手ではないと思うし、よっぽどじゃなければ、ある程度自分に合う人を選べる自信はあるんだ。」


「うん」


「けどなんて言うかなぁ・・・ほら・・・その・・・灯くんはさ・・・一途に俺の事想ってくれてたわけじゃん。」


「・・・今も想ってるよ。」


「・・・・・うん・・・」


「ふふ・・・それで?」


「俺はさ・・・つまり・・・そういうのがなくて・・・。本気で譲れないような気持ちになる程、好きになったことなくて・・・。運命的な相手とか出会わないし、のらりくらりしちゃう性格だからかもしれないけど、自然と・・・この人とずっと一緒がいいな・・・みたいな・・・惹かれ合う関係みたいな・・・そういうのを手に入れたことないし・・・気持ちが中途半端なんだよね。」


「なるほど・・・。」


拙い言葉を繰り返して、要領を得ない俺の話を、灯くんは飲みこむように真剣に聞いていた。


「つまり理人は・・・何を捨ててもこの人がいい、みたいな相手を求めてるってことかな。」


「・・・そうなのかも?」


「・・・・ふぅん・・・」


「ねぇねぇ灯くん」


「なに?」


「灯くんはさ・・・俺の話をいっつも真剣に聞いてくれて、考えて答えてくれてると思うんだよ。でも・・・なんていうか・・・もっといい加減に、気軽に接する友達みたいにさ、どうでもよく返答してくれてもいいんだよ?」


「・・・どうして?」


「・・・だってその方がさ・・・もっと仲良くなれる気がするんだよ。」


灯くんはまた可愛い笑顔で「ふふ」とこぼした。


「そっかそっか・・・それもそうかもしれないね・・・。ん~・・・そうだなぁ・・・。ぶっちゃけ理人が言ってることとか感じてることは、年相応で何となくモヤモヤしてる気持ちもわかるんだけど。正直、別に適当なお付き合いをしながら歳を重ねてもいいんじゃないかなぁって思ってるよ。」


「ふ・・・そう?」


「うん。生涯の伴侶ってさ、そんな簡単に巡り合わないし、出会える人はよっぽど幸運だと思う。一発当ててやろうっていうんじゃなくて、色んな人と関わって、お付き合いして・・・人の気持ちを考えることとか、自分を律することとか、自分や相手のためにどういう人間でいるべきなのかとか、そういう経験値を貯められたらいいんじゃないかな。理人はまだ・・・19歳なんだし。」


「・・・確かに~。俺難しく考え過ぎてたか~~」


「そうだよ。・・・今しか出来ない勉強とか、取り組みたい事とか、恋愛も・・・たくさん選択肢があるわけだけど・・・社会人の先輩として言うと、学生の時こうしとけばよかったなぁなんてことは、結局たらればでさ、今の積み重ねでどうにかしていくしかないんだよ。別に40代50代になったら恋愛出来ない、なんてことないしね。」


やべぇ・・・わかってたけど灯くんお兄ちゃんなことしかいわな~い


「・・・灯くんが身内ってだけで、俺だいぶ優遇された人生に思えてきたわ~。」


「ふふ・・・そう?」


「うん・・・。ありがとね。」


照れ隠しでおどけながら、そっと灯くんの髪に触れて撫でると、穏やかな笑みがふっと消えて、瞬間的にまずいと思いながら手を引っ込める。


「・・・そんな・・・腫れ物に触るようにしなくても・・・。」


「いや・・・気安く触るのはなしかなぁと思って。」


灯くんは苦笑いを落とすと、長いまつげを伏せて寂しそうな目をしていた。


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