第33話
はぁ・・・もう付き合いたい。
自宅での勉強会を、またしても何も進展なく終えてしまった。
いや、進展なしでもないのか・・・?
ある意味友達として関係性は築けていっているのかもしれない。
芹沢くんにとっては不可抗力だったかもしれないけど、彼の下の名前を知ることが出来た。
恥ずかしくて知られたくなかったみたいだけど・・・
俺自身、男であるのに男の子が好きだし、別にそれを珍しいこととも思わない。
男色なんてもんは、遥か大昔の時代からあったことだし、女性同士も然り。
可愛い名前だろうが、勇ましい名前だろうが、芹沢くんの中身は変わらない。
少なくとも前よりは仲良くなれてきていると思う。
いつものようにバイトを終えて帰宅し、自室で以前貰った名刺を頼りに、あるサイトにアクセスしていた。
「・・・へぇ・・・男性用風俗って行ったことないけど・・・色んな人いるんだなぁ。」
バイト先で声をかけてくれた見た目も声も可愛らしい男の子は、恐らく成人済みの俺より年上で、画面に映る風俗店で働く一人だ。
宣材用写真みたいなものもあるし、可愛いを全面的に売りにしてるっぽい彼は、バッチリ化粧をして、可愛いポーズを取っている。
「真白くんかぁ・・・」
源氏名が書かれた名刺を手に、試しに行ってみようかどうか悩んでいた。
でもこういう店って・・・一回で2、3万はするよなぁ・・・たぶん・・・
目移りする程イケメンや可愛い子が並んでいると、最高に惹かれる部分はあるけど・・・稼ぎがない学生が手を出すもんでもないのは事実。
でも一回くらい行ってみてぇ・・・ってのも事実・・・
「でも・・・ハマっちゃったら終わりだよなぁ・・・。」
ジレンマを抱えながらも、いい加減な人付き合いはやめて一途になろうと決心したこともあり、欲を何とか抑えていた。
その時充電していたスマホから通知音がして、さっとメッセージを開く。
そこには久しぶりの灯くんからの連絡だった。
『元気にしてる?』と、たった一文だけのシンプルな質問に、俺は即座に返信した。
すると俺が暇してることを悟ったのか、今度は通話がかかってきた。
「もしもし」
「理人久しぶり、今大丈夫だった?」
「うん、暇してた~。灯くんも元気?」
「うん、仕事はある程度忙しいけど、一区切りついて休憩してたとこで・・・」
「そうなんだ。」
灯くんはゲーム会社のSEをしていて、ほぼ出社することなく在宅ワーカーだ。
「そういや灯くん一人暮らししてそれなりに経ったけど、どう?不自由ない?」
「うん、閑静な住宅街だから特に治安の問題もないし、ご近所さんともあんまり顔合わせることなくて、環境音も気にならなくていいとこだよ。」
「そっかそっか・・・。在宅ワーカーだとほぼ家にいるもんねぇ。」
「そうだね。引きこもってるも同然だね。」
「ふふ・・・つっても買い出しにスーパーとかコンビニくらいは行くでしょ?」
「まぁ・・・たま~に出社した帰りとかにスーパー寄ることはあるけど・・・ほとんどネット注文だよ。」
「あ~そっかぁ・・・。まぁ今やネットスーパーもあるから家で何でも解決するもんなぁ。」
「そうだね。・・・理人はどう?・・・こないだうちで話してた・・・例のイケメンのお兄さんとは連絡ついたりした?」
「あ~・・・」
そう聞かれて、あの時しばらく憂鬱な気分なまま気になっていたのに、いざ時間が経てば忘れている自分に気が付いた。
「ん~・・・特に連絡取ってないからわかんないや。」
「そっか・・・」
「んでもさ、好きな子とはちょっと仲良くなれてきたよ。」
「そうなの?それは良かったね、進展あったんだ?」
「まぁ・・・進展って程じゃないけどね。」
自分のことを好いてくれてる灯くんに、恋愛相談するのは気が引けるけど、そんな風に気を遣っていたら逆に失礼というもので、気にせず自然体でいることにした。
静かに相槌を打ちながら俺の話を聞いていた灯くんだけど、やがて話題も尽きたのか沈黙した。
「・・・灯くん」
「ん?」
「あ~・・・・・・・・・」
「・・・?」
まだ夕方だったし、どうせ母の帰りは遅いので、会いに行ってもいいか聞こうと思ったけど、果たしてそれはいいんだろうかと踏みとどまる。
「どうしたの?」
「・・・あ~~・・・え~~っと」
会ってまったり話したり寛いでて、親戚同士のままでちゃんと理性は保てるだろうか。
いや・・・保つべきであって、保つ練習をするべきじゃないだろうか。
「あ~~・・・いや、でも灯くんまだ仕事中なんだよな・・・」
「・・・?別に俺は余裕をもって進めてるし、用があるなら仕事は明日に回せるよ?」
「ん~・・・」
灯くんは俺を気遣って無理してそう言っているのか・・・推し量れねぇ・・・
「いや、別に特に用事はないんだけどさ・・・どうせなら暇だし、もうバイトから帰ってきて何もないからさ、うちに行って一緒に晩御飯とか適当に食べて、まったり一緒に過ごしたいなぁ的な・・・特に目的もない提案をしようとしたんだよね。」
「そうなんだ。いいよ、来る?」
あ~~~~ダメだなぁ・・・灯くんは俺の誘いだと絶対オッケーしちゃうんだよな~~
「いや、灯くんに無理してほしくないからさ・・・。仕事のルーティンとかもあると思うし、学生ノリで誘っちゃいけないとは思ってるんだよ。社会人としての暮らしぶりはまだわかってないから、灯くんが無理なら無理でいいから。」
「・・・・」
そう付け加えると、灯くんはしばし黙り込んで考えている様子だった。
「そんなに・・・気を遣われるのはちょっと悲しいけど・・・」
「えっ!いや・・・」
「前に話したように、気軽に付き合いを持てる親戚同士になりたいんでしょ?」
「・・・うん・・・」
「じゃあおいでよ。ご飯は適当に宅配サービスで頼もう。もちろん奢ってあげるから。」
「えええ~?も~~別に奢らなくていいし!」
「ふふ、いいじゃん・・・俺は社会人なんだから、それくらい甘えてくれても・・・」
「・・・あ~わかった行くから、ご飯は自分で・・・いや・・・うん、とりま行くね。」
「うん、待ってるね。」
灯くんの嬉しそうな弾んだ声が聞こえて、ニヤけてしまうのを堪えながら通話を切る。
ん~~~~~俺はなんかダメだなぁ~~!
灯くんと一緒にいるとペースに巻き込まれちゃうんだよな~!気を付けないと!
容姿端麗で、優しくて頭が良くて、おまけに相当な策士。
それが灯くんだ。
一度決めたことだし、絶対絆されちゃダメだ。
そう心に誓いながら、出かける準備を始めた。




