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第30話

黎人さんと会ってから、半月が経って二月に入った。

受験期を挟むので、大学生はひと月以上の春休みだ。


「マジ暇かよ~~~~~~」


ソファでゴロゴロしながら、やりつくしたスマホゲーにも飽きて、バイトの時間まで時間を潰せなくなっていた。

ん~・・・この長い休みで出来ること・・・

春になったら俺も2年生か・・・来年には就活・・・え・・・はや・・・

するってーと・・・もう早めにどういう職種に就きたいか考えとく?んで資格とか取ってみるとか

え~・・・違う・・・俺は恋人作ってイチャイチャしたいんだよ毎日・・・


大学生の長期休みと言えば、皆こぞってバイトに勤しむもんだ。

んで友達と旅行行ったりとか。

ふと連絡が来ていたグループの連絡先に目を通すも、計画されてる予定は、スキーだの、合コンだの、温泉旅行だの・・・

思わずスマホを持つ重たい手をパタっと落として天井を見つめた。


違うんだよな~・・・そりゃ楽しいだろうけど・・・誰と一緒に行くかなんだよな~~

芹沢くんと旅行とか行きてぇええ。浴衣とか着てたら可愛いんだろうなぁ~

旅館の部屋でラブラブご飯食べて、プライベート露天風呂一緒に入って、そこで一回エッチしつつ、お風呂上りにまた布団で浴衣の帯解いてエロイことして~~


「はぁ・・・・」


実現しなさそうな妄想を、ため息で消し去る。


よし・・・誘い入れよ。

こういうのはガンガンアピールしていくしかない。


もちろん高校生がまだ学校ある時期なのは承知の上だけど、とりあえず週末にでも予定を合わせて会えないか、伺う旨を送信した。

スマホから画面を離して体を起こすと、いつぞやから置きっぱなしにしている、黎人さんが表紙の見本誌が目に入る。

世間に出ることない、あくまでサンプルであるその雑誌は、母も特に使い道があるわけでもないようなので、リビングのガラステーブルの下に放置されていた。

結局怖くてその後は、ネットで彼の名前を検索することも、ニュース番組を観ることも辞めていた。

そういうニュースを避けていたとしても、母の仕事相手ではあるわけだし、最悪母から訃報を受けなくもないけど・・・

ビクビクして暮らしてるって程じゃないにしても、内心気が気じゃなかった。

けど何となく、元気に過ごしてくれていたとしても、別段俺が知る権利もないのかもしれない。


灯くんのように、幼い頃から家族同然で付き合いがあったわけじゃないから

将来を想ってしかったり見守ったりする立場でもなく

幸せを願ってあげられる程の関係値もない。


けど心のどこかで、俺は黎人さんが特別で、思い浮かべれば好きだな、と思う相手ではある。


そしてもう今更ではあるかもしれないけど

自分が年上男性に愛情を求める理由は、気付かされていた。

でももう・・・


暖房の効いたリビングのソファで、若干眠気を感じて目を閉じると、徐にスマホの通知音がして、また画面に視線を戻した。

芹沢くんからの返信だ!

ガバっと体を起こして、いそいそと文章に目を通す。

そこに書かれていた内容は、

以前のテストの成績が芳しくなく、次の試験までみっちり勉強をしたいから、しばらく遊ぶことは控えようと思う、とのことだった。


「・・・うぅ・・・・」


残念な想いで、再びソファに体をズリズリと垂らした。


「熱心だなぁ・・・えらいなぁ・・・。勉強か・・・勉強・・・?はっ!俺が教えてあげればいいんじゃん!」


俺は腐っても国立大学法学部の学生!高校生の勉強なんて余裕よゆー!

意気揚々と画面に指を滑らせて、家庭教師をいくらでもする旨を返信した。

下心見え見えだったとしても大丈夫!前回芹沢くんのうちでテレビゲームをして遊ぶ、というだけの付き合いのいいお兄ちゃんっぷりを発揮できたし、印象は悪くないだろう。


ワクワクしながら返信を待つと、お昼時ということもあってすぐに返事が来た。


「なになに~?・・・・・・・・よっし!!!」


芹沢くんから自宅お勉強会の快諾を得て、思わずガッツポーズをとる。


「あ~どうしよ!今度こそちゅーくらいしてもオッケーかな~♪」


加速していく妄想を止めることも出来ず、脳内ピンク色はどんどんバラ色に満ちていく。


「は~~!可愛い芹沢くんと付き合いて~~!」


自室に戻って、どちらの家で勉強をするか決まっていないものの、一応散らかった部屋を片付けておくことにした。

ベッドに座りなおして、ささっと直近のバイトの予定を確認し、空いてる日を間髪入れずに連絡しておく。

普段から課題はさっさと終わらせておく派だし、単位がやばいなんてこともないから、こっちはなんら焦る必要はない。

逸る気持ちを抑えるように部屋に掃除機をかける。

するとふとかなり伸びてきた前髪が気になって、洗面所まで鏡を確認しに行った。


「ん~・・・だいぶ伸びたなぁ・・・。」


肩につくまで伸びてしまった後ろ髪も含め、そろそろ切り時かもしれない。

産まれた頃から直毛なので、染める以外に特に髪の毛が傷む要素はなく、こだわりがあって伸ばしてるわけでもない。

強いて言うなら冬場は何となく暖かい。


「ま、そろそろ色抜けてプリンになりつつあるし、長さ調整も含めて、おうちデートの前に美容院行くか。」


またソファに戻って、ささっとスマホで美容院の予約を入れる。


あ~ヤバイ、楽しみ過ぎる・・・♡


逸る気持ちを抑えるために、バイトまで時間もあるし、近所のスーパーに買い出しに向かった。

お買い得な食材を買い漁って、帰宅後冷蔵庫に押し込み、そのまま身支度を整えてバイト先へ出発。


そういや・・・灯くんにあんま連絡取ってないけど・・・元気かなぁ・・・


駅を出て歩き進めながら、もうすぐバイト先に着く道中、何となく彼のことを考えた。

優しくて気遣いが出来て、控え目で・・・色白で華奢で、柔らかい髪の毛に落ち着く声

弱々しそうに見えていつも毅然としていて、ハッキリした物言いをする大人な灯くん。

産まれた時から一緒にいるお兄ちゃんな彼は、今も俺のことをまだ、好きだと思ってくれてるんだろうか。

俺と違って、理屈じゃ説明出来ない「好き」を、灯くんは持ってる。

存在自体が大切なのは、俺だって昔から変わらないのに

お互いの気持ちは、いつからかどこかで違う方向へ動いて行った。


灯くんのことを考えれば考える程、悲しいくらい自分の気持ちは変わらない。

バイト先に着いて、スタッフルームの扉の抜けて、適当に挨拶を交わしながら制服へと着替える。


「理人~こないださ~」


「はい~?」


先輩である少し年上のスタッフに声をかけられて、バックルームから出る足を止めた。


「ほら、何回か来てたロリータ系のお客さんいるじゃん」


「・・・あ~・・・化粧濃いめの小さい女の子ですか?」


「そ~。その子がさ、こないだキョロキョロしながら会計来てさ、『武井さん今日いないんですか?』って聞かれてさ。休みですけどどうかしました?って聞いたら、ニコニコしながら『大丈夫です、すみません。』って何も買わずに帰っちゃってさ・・・。知り合いとかじゃねぇんだよな?」


「・・・・まったく知り合いじゃないっすね~・・・。」


「そうなんか・・・じゃあ何だったんだろ・・・」


・・・接客中も何度か声かけられたことあったし・・・何なんだろうなぁ・・・


友達じゃない限り、女の子と関わりたくなさすぎて、そういう態度すら周りから反感を買うことも理解しているので、何となく嫌な予感がするのを振りほどくように仕事を始めた。


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