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第21話

灯くんとの関係に、明確な方向性を示して話し合った数日後

俺は芹沢くんと会う約束を立てて、デートを楽しみにしながら当日を迎えた。


だがしかし・・・


「あ~~~~~~め・・・」


天気予報を確認する癖がないのは、こういう時がっかりするもんだ。

ベッドから起き上がって、やけに外が暗いなと思いながらカーテンを引いたら、肉眼で確認出来る程しっかり降っていて、思わずため息が漏れた。


「どうすっかなぁ・・・」


せっかくの週末、せっかくのデート・・・

出かける場所は色々プランを立てていたけど、これじゃあ致し方ない。

残念に思いながら、リビングのテレビをつけて、天気予報士を恨めしく思いながら眺めた。

今日は終日雨らしい・・・。

午前中から出かける予定だったので、とりあえずスマホを持って芹沢くんに連絡を入れることにした。


するとちょうどタイミングよく通知音が鳴って、彼の名前が表示された。

さっとメッセージを開くと、「通話したいからかけても大丈夫?」とあった。

二つ返事で了承すると、すぐにかかってきて緑のボタンをタップした。


「もしもし~?」

「あ、おはよう理人くん」

「おはよ~~♡芹沢くんのモニコとかテンションあがるわ~。」

「もにこ・・・?あの・・・今日はずっと雨みたいだし・・・どうしようかなぁって考えてたんだけど」

「おん」

「その・・・良かったらうちに来ない・・・?」

「・・・・お~・・・」

「あの!前に話してくれたことはちゃんと覚えてるし、その・・・別にやましい意味で誘ってるわけじゃなくて・・・普通にテレビゲームしたり、映画とか観たり・・・雨なら家で過ごすのは悪くないかなぁって思ったんだけど・・・。友達と遊ぶってそういうのかなって・・・ダメかな・・・」


考えてくれたであろうプランは、俺にとって美味しそうな物を前に、我慢し続ける拷問でしかない。

けど彼の言う通り、友達と家で遊ぶというのは、本来そういうもんだ。

芹沢くんはきっと、仲良くなりたいという気持ちが先行して提案してくれたんだろう。


ま、いっか!


「おっけ~♪んじゃ何時に行けばいい?」

「い、いいの?」

「いいよ?まぁ・・・手ぇ出さない保証はしないけど♪」


俺がキッチンの食器棚に手をかけながら言うと、電話口で彼は黙ってしまった。


「・・・一応何もしないよ~♪って言ってはおくね?」

「あ・・・・う・・・・うん・・・」


好きな子の家に呼ばれて浮かれない奴がこの世にいようか!


「そんなビビんなくても取って食ったりしないよぉ♪芹沢くんの意志が固ければ問題ないんだからさ。」

「・・・そう・・だね。」


だいぶ相手任せな適当ほざいてる自覚はあるけど、早く会いたくて仕方なかった。


「てかあれだね、雨の日でも関係なく、家を行き来出来るから便利だよね。」

「うん・・・。傘をさして外を歩く必要ないから、尚のこといいかなって思ったんだ。」


同じマンションであればこういう利点があるのがいいなと、改めて思いつつ

今後も何かと口実を設けて、遊びに行くのは悪くないかもしれない。


通話を終えて、ささっと身支度を終えて家を出た。

どんよりした空模様は、マンションを覆うように太陽光を遮断して、さっきよりは少し弱めになったものの、相変わらず雨音を一体に響かせている。

だけどそんなものにもう構う必要なんてない。

意気揚々とエレベーターに乗り込み、芹沢くんが住む下の階へと降り立ち、あっという間に部屋の前に着いた。


「いやぁマジ便利・・・こんなん半同棲じゃん。」


インターホンを押すと短く返事が返ってきて、芹沢くんがドアから顔を出した。


「あ・・・理人くんどうぞ。」


自分より小さい彼が、ひょこっと嬉しそうな表情で迎えてくれる様に、ニヤつきを抑えられなかった。


「えへぇ~お邪魔します。」


あ~ダメだ、俺・・・浮かれすぎてヤバイかも。しっかりしよ。


「あ、ごめん、手土産的なの何も持ってこなかったや。」


身支度を完璧にしたものの、手ぶらで来たことに気付いて言うと、芹沢くんはお客様用のスリッパを出しながら、ポカンと上目遣いで見上げてきた。

ぐわ~可愛い♡


「そんな・・・わざわざいいよ、友達だし・・・」


「・・・そ~?」


ニコリと微笑む彼は、さっきの通話でもそうだけど

「友達」を強調してる気がする。


スリッパを履いて芹沢くんの背中を追うと、うちと同じ間取りだから親近感が湧くけど、少し違うリビングの雰囲気が、彼とお母さんの空間を作っていた。

可愛いくて落ち着くピンクのカーテンが引かれ、ソファもうちみたいな皮じゃなく、座り心地良さそうな生地にパステルカラー。おまけに大き目のぬいぐるみも置かれている。

ダイニングキッチンはシンプルに片付いているけど、掛けられたフライパンや鍋が可愛い柄物で、冷蔵庫にはキャラクターのマグネットがついていた。


「ふふ・・・」


思わず笑みがこぼれると、芹沢くんは冷蔵庫からジュースを取り出しながら俺に視線を返した。


「どうかした?」


「ん?いや、間取りは一緒なのに、うちとはだいぶ違う雰囲気だなぁと思ってね。」


「そうなんだ・・・」


芹沢くんは不思議そうにしながら、飲み物を淹れたグラスをソファの前のテーブルに持って行った。

部屋に入れてくれるわけじゃなく、リビングに迎え入れられてるのは、警戒されてるってことかなぁ・・・

隣を空けて座ると、芹沢くんもそっと腰かけながら言った。


「理人くんってゲーム好き?」


「・・・ゲーム?テレビゲーム?」


「うん、俺パーティーゲームが結構好きで・・・昔は弟とよくやってたんだけど・・・。友達のうちとかでもやったりするけど、家で一人でしてもつまんないから・・・」


「あ~なるほどね。ん~・・・・・・」


頭の中でどう答えるのが正解か思案した。

正直な所、俺はテレビゲームは全くと言っていい程しない。

小さい頃は買ってもらったことはもちろんあったし、友達と遊んだこともある。

けど小中学生の頃だけの遊び道具だったイメージで、その後は結構真面目に大学に受かるためだけに勉強していた。


けど芹沢くんは、一緒に遊んでもらえることを期待している子犬のような目をして、俺を覗きこんでいた。


「ふ・・・かわい・・・」


「・・・え?」


「あ~いや・・・」


大人しくて気遣い屋な彼に、自分を押し通していいものかわからない。

けど・・・人間関係慎重に行こうって決めたし・・・お互いをよく知る所からだよなぁ。


「実はさぁ・・・小さい頃はゲームやってたこともあるけど~・・・高校生くらいの時から、もう全然やってないんだよね。」


「そうなんだ・・・」


「うん・・・。別段興味がないってわけではないんだけど・・・。俺娯楽というか趣味っていうと、クラブ行ったり・・・バイト帰りにカフェで飯食ってボーっとしたりとか・・・。家だったら、テレビみたり、サブスクでドラマとか観たりさ・・・後は~スマホで動画観るとか・・・。そんな感じなんだよね。」


「へぇ・・・。そういえば理人くんって何のバイトしてるの?」


「え、あ~普通に雑貨屋、チェーン店の。」


「そうなんだ。バイトがない日は友達と遊びに行ってるの?」


「ん~・・・まぁ渋谷とか原宿とか、友達とブラブラしに行くときもあるっちゃあるけど・・・。最近は全然かな。」


「そうなの?・・・」


芹沢くんは「どうして?」と理由を聞きたそうにしていたけど、言葉を飲みこんで、不躾に尋ねることに配慮している様子だった。


「・・・今はさぁ・・・友達と遊ぶっていうよりはさ、とにかく恋人ほしいなぁって頻繁に思うようになっちゃったんだよね・・・。周りにいいカップルが多いのかもしんないけど・・・。結構遊びまわってたからさ、そのわりにはまともに付き合った人いないなぁって思うと、な~んか寂しくなっちゃってね~。」


「そっか・・・」


「んでも・・・今日はせっかく誘ってくれたしさ、芹沢くんの好きなもの一緒にやりたいから、お勧めのパーティーゲーム一緒にやろっか。」


俺の言葉にパッと表情を明るくさせた彼は、もじもじしながら礼を述べた。


その後色違いのコントローラーを持って、昔懐かしいボードゲームがテレビゲーム化したものを遊んだ。

現代版で色々カスタマイズされていて、CPUも強くて、なかなかのいい勝負を繰り広げながら、思いのほか二人で大はしゃぎして楽しんだ。


「ふぅ・・・いや~怒涛の展開だったな~!」


全員がゴール目前のところまで双六は進んで、息をつくと芹沢くんはクスクス笑った。


「うん!昔のよりダメージ大きいマスとかはないから、ラッキーな展開も多くて・・・楽しいよね。」


目一杯笑って、普通の男子高校生らしくはしゃぐ芹沢くんが、ひたすらに可愛くて仕方なくて、脳内ピンク色になってたことも忘れてその日のおうちデートは幕を下ろした。



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