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【短編】悪魔の瞳と、バカの黄金

『えぐっ……えぐっ……翔、ごめんね。私の事は忘れて幸せになってね……』

『さぁルミ、こっちに来るのだ。そして翔くん。これが力だ』

『くっ……やめろ! ルミを連れて行くな!』

『クククッ……力の無い者は何も出来はしない。そう……翔くん。キミの小説が、キミそのものなのだ』

『ちくしょう……ルミーーーーーー!!!』



 

 そう叫びながら目を覚ますと、いつものボロい部屋の光景が目に飛び込んできた。


「なんだ……またあの夢かよ。くそったれ」


 俺はそうボヤくと、憂鬱な気持ちのままシャワーを浴び身支度を整える。

 まあ、とは言っても、いつも通りくたびれたジャケットに袖を通し、ボロい靴を履いて外に出るだけだ。

 そして、紙タバコに火をつける。

 電子タバコなんかクソ喰らえだ。

 あんなのは、タバコもどきに過ぎない。

 言ってみりゃあ同族嫌悪だろう。


 この、クソ売れない作家である自分に重なるのだ。


 そんな俺が今からどこにいくのか?

 パチンコ? 競馬?

 いやいや、これでも作家の端くれ。

 原稿の持ち込みだよ。


 今の時代、スマホかパソコンじゃないのかって?

 この前ぶっ壊れちまって、直す金もないのさ。

 だから時代に逆行しても持ち込みだ。


 けど持ち込んだ先で、さらにクソみたいな出来事が起きやがった。

 たまたま来てた売れてる作家に、俺の原稿を踏みつけられたんだ。

 こんな様子じゃ何も進みやしない。


 ただ、こんなクソみたいな俺にもどうしても叶えたい夢がある。

 取り戻したいんだ。

 こんな俺を、唯一愛してくれた『朝比奈 瑠美』って女を。


 あの子は天使だった。

 はっ。いい年したオッサンが何を言ってんだと思うかもしれないが、こんなやさぐれた俺を愛してくれたんだから、天使に決まってる。


 出会ったのは偶然だ。

 俺が不安や苦しさに押しつぶされそうになった時、つい、


『負けられないんだよっ!』


 って叫びを聞かれたのが、出会ったきっかけだ。


 んで、アイツはなぜか俺みたいな奴の事を、好きになってくれたのさ。

 もちろん、最初はむしろ突き放したよ。

 俺みたいな売れない作家と一緒にいたって、ロクな事にはならないから。


 けど、あの子は惚れてくれたんだ。

 誰も見向きもしない俺の小説と、俺自身の事を。

 だから、ルミを全力で幸せにしようとしたさ。


 でもな、幸せなんて長くは続きやしない。

 むしろ、不幸の為のスパイスかって思うぐらい、最高のタイミングでやってきやがるんだ。


 奪われたんだよ。

 誰に?


 彼女の父親にさ。


 ん? 相手の父親に認めてもらえないぐらい、大した事ないって?


 じゃあ尋くが、相手が財閥のトップでもか?

 警察なんていくらでも黙らせる事の出来る権力と、屈強な部下達を従えて娘を連れ戻しに来ても、アンタには大した事ないか?


 もしそうなら、是非アンタがやってくれ。


 無論、俺も戦ったさ。

 なんたって、ルミから全てを明かされた翌日に来たんだからよ。

 あの悪魔のような笑みを浮かべ、圧倒的なオーラを放つ、『朝比奈 拳武』がよ。


 そして無惨に敗れて、あの夢のようになったのさ。

 あれ以来、俺は抜け殻だった。


 ん? だったって、どういう事だよ。

 抜け殻なんじゃねーのかって?


 んな訳ねーだろ。

 誰がそんな、クソつまんねーー話で終わらすんだよ。


 俺がここで寝るのは、これで最後だ。

 あのクソ拳武にボロクソにやられた時、俺は出会っちまったのさ。


 何に?


 悪魔にだ。


 悪魔のようなじゃない。

 正真正銘の悪魔だ。


 奴は異世界で勇者にやられ、復活のエネルギーを得る為に俺の魂を欲しやがった。

 

 ん? その悪魔を倒した勇者の名前?

 あーー確か、イデア・アルカナートとか言ってたな。

 まあ、それはどうでもいい。


 大事なのは、俺は悪魔と契約して、全てを見通す『悪魔の瞳』を手に入れたって事だ。


 今や俺には全てが見える。

 人の心から世の中の流れと、その先の先まで。


 だからまず、かろうじて持ってたクソみてぇな残金を、ついさっき数千万に増やした。

 敢えてこのボロアパートに一回寝てみたのは、悔しさを感じる為さ。


 案の定、見たくもねぇ夢まで見させられた。

 狙い通りとはいえ、ウザってぇ。


 悪魔に魂を売って『天翔 零』になる前の俺『空見 翔』は、本当にバカで真っすぐで情に厚く、いつも笑ってる下らない野郎だった。


 けどもう違う。

 ルミを助ける為に悪魔に魂を売って、完全無欠な男になったんだからよ。




 で、そんなこんな言ってるウチに、俺の資産はあっという間に増え、拳武の腹心の部下も奴自身も、全員俺が生き地獄に叩き落としてやった。


 それに何より、今や俺は悪魔の瞳を使ってベストセラーを連発しまくる大作家様だ。


 見ろよ。

 ここに並んだ数多の黄金のトロフィーを。


 クククッ……笑えてくるぜ。俺の書いた作品に、魂なんてありゃしねぇのによ。だから読んだって、現実に戦うエネルギーなんかにゃ、1ミリもなりゃしねぇ。


 なのに、なんで出す作品全てベストセラーになるのかって?

 決まってんだろ。

 全て見えてるからだよ。


 何を書きゃ、バカどもが喜んで金出すかをだ。


 この国の人間はバカばかりだ。

 為になる厳しい言葉よりも、役に立たない甘い言葉。

 戦う力を宿すより、一時の安心を与えてくれる物語。


 そんなもんばっか愛してやがる。

 マジで下らねぇ。


 この数多のトロフィーも有り余る資産も、バカを騙して積み上げた黄金だ。


 こいつを踏み台にして、そろそろルミを迎えにいくか。



「ルミ、久しぶりだな」

「翔……? 翔ーーー!」


 俺は抱きついてきたルミを優しく抱き、久々にデートをした。

 そして、あの頃とはまるで違う豪華な家や食事。

 庶民が一生縁の無い、様々な場所に連れてった。

 その辺のカス共には、決して出来ない事ばっかだ。


 俺は全てに勝利した。

 いくら書いても売れなかった、あの頃の俺じゃない。

 それに悪魔の瞳がある限り、これからも無限に積み上げていけるんだ。

 バカどもから奪った黄金を。


 が、異変はそんな時に起こった。


「……おいルミ、なんで離れんだよ?」

「翔じゃない……」

「はっ? 何言ってんだよ。俺は翔だ」

「違う。誰? アナタ誰なの?!」


 チッ、意味が分からねぇ。

 マジで何ってんだよ。

 俺が悪魔と契約した事は誰にも話してねぇし、何より……


「見た目は翔だけど、違う。翔はお金も無いし、ドジでバカでおっちょこちょいだったけど、もっと笑ってたもん!」

「はあ? 笑う? それに何の意味があるってんだ。下らねぇ」

「翔は……翔は……いつも大変な時でも明るくて元気で、今よりずっと優しかったもん! 伝わってくるのも温かった!」

「だから、それが何の意味があんだよ……」


 俺はマジでムカついてきた。


「いい加減にしろ! 俺は、金も唸るほどあって、次々にベストセラーを連発する大作家だぞ! あんな売れないクソ小説書いてる貧乏作家の、どこがいい!」

「うるさーーーーーーい!! アンタなんかより、ずっと素敵だよ! 翔を……翔を返して!!」


 くっ……この女、ヤバい。

 頭が割れるように痛くなってきた。

 チッ……この女から発せられる光は、まさか……やっぱり思った通りか。

 コイツは俺ら悪魔に仇なす光の巫女の末裔だ……くそったれ! ここまできて……


「ふざけるな……俺はこの悪魔の瞳でこれからバカ共を……」

(もうやめろ零)

「翔……! テメェ、なんで……なんでまだ消えていやがらねぇ!」

(消えたと思ったさ。それにあの時は本当に消えてしまいたいと思ったよ。ルミを奪われて)

「そうだろうが……テメェは、クソ無力なんだよ! テメェの小説なんざ、誰からも認められねぇだろうが!」

(零の言う通りだ。でも、そうじゃないんだよ零)

「なんだと?」

(確かに小説は、物語は、売れた方がいい。でも、本当は違うんだ。自分の書く物語(しょうせつ)を、愛してくれてる人の為に書くんだ)

「黙れ黙れ黙れ!!」


 ふざけるなよ翔! そしてルミ! 何より凄いのはこの俺だ!

 けど……


「翔! 翔なの?!」

「ルミ、そうだよ。ごめんな、俺の弱さのせいで、辛い思いをさせちゃって……」

「ううん! 翔、戻ってきて! ううっ……あのお話の続き書いて、私に見せて。翔にしか書けないあのお話を」

「ルミ……でもいいのか? 俺は売れない貧乏作家だぞ」

「いいよ! 私がずっと翔のファンだから。それじゃダメ?」

「ルミ……ありがとう! 俺は、ルミの為に書き続けるよ。俺の魂を込めて」

「う〜〜〜〜翔ーーーーーーーー!!!」


 くぅぅぅぅっ……もうこれ以上、俺の自我を保てねぇ。

 悪魔の力で作られた……最強のこの俺が……オォぉぉぉッ!!





 ハァッ……消えてしまいましたか。

 完全に失敗です。

 全く……人というのは分かりませんねぇ。

 天翔零という完璧な別人格まで用意して、光の勇者の魂を完全に消し去った上で、復活しようと思ったのですが……


 まあいいでしょう。

 我らの仲間達と共に今度は国家を裏から操って、絶望と共に葬ってやります。


 そう……剣聖アルカナートの意志を継ぐ光の勇者。

 アナタは殺されるのです。

 真実を知り絶望した上に、アナタの大切な仲間達から逆賊の汚名を着せられてね。

 フフッ、実に楽しみです。


 クククッ……ハハハハッ……アーッハッハッハッ!

この話、面白いと思って頂ければブクマと★評価して下さると嬉しいです。

後、この話はコレのスピンオフみたいな物なので、よかったら、こちらもご覧になってみて下さい♪


ブレイキング・クリスタル〜無魔力追放からの冒険譚〜

https://ncode.syosetu.com/n1305il/

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