江戸っ子。名も知らぬ子供を育てる
てやんでぇ!べらんめぇ!こちとらチャキチャキの江戸っ子でい!結婚?子供?興味がねぇやい!オイラにそんな甲斐性はありゃしねぇ!
「うぅ。うええん」
な……なんでぇなんでぇ!このガキは!おう!お前。お父ちゃんとお母ちゃんはどうしたい?いないのかい!?泣くんじゃない!泣くんじゃないよ!
しょうがないねぇ~。坊や!おいちゃんが面倒見てやるよ!今日からおいちゃんがおめぇのお父ちゃんだ!
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かーっ!最近のガキは贅沢だねぇ!好き嫌いばっかり言いやがって!黙って食えってんだよ!お父ちゃんの言うことが聞けないってのかい!?
「料理を作ります」
参ったねぇ!料理だって!江戸っ子はなんでも生!刺身もそうだろ!?しかし坊やは器用だね。よくそんな繊細な仕事が出来るもんだ。天才かい?将来はすげぇ大人になるかもな!俺も親バカになったもんだ!しょうがないねぇ~!
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なぁんだってぇ!結婚!?坊やがかい!?相手は?いやっ!いいっ!坊やが選んだ女だ。お父ちゃんは大賛成だぜ!
「新居に部屋を用意しました」
かーっ!呆れたねぇ!親バカならぬ子バカかい?お父ちゃんはもともと孤独にゃ慣れてる。気にしねぇでオイラなんて置いてって夫婦水入らずで新婚生活すりゃあいいのに。
「嫁も賛成してくれてます」
「うーん。おめぇがそこまで言うならよぉ!」
しょうがないねぇ~!二世帯住宅ってやつかい?おう!分かったおめぇ達夫婦のテリトリーにゃ近寄らねぇよ。お父ちゃんにもデリカシーってやつがあるんでぃ!
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「あうー。んぶー」
あー!こりゃあ、りっっっぱな赤ん坊だぁ!坊やにそっくりじゃあないか!そうかいそうかい。オイラもとうとうおじいちゃんかい。坊や。いや!おめぇも立派なお父ちゃんだ!オイラから言うことはもうなんもねぇ!
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「……しょうがないねぇ。そんな悲しそうな顔しちゃあいけねぇよ。おめぇがそんな顔してたら嫁さんも子供も不安にならぁ。いいかい?少ないがオイラにも蓄えがある。オイラが死んだら縁の下を探してごらん?仲良く分け合ってくれぇ」
オイラもここまでか。ありがとよ。坊や。おめえのおかげでオイラぁ楽しかった。おめぇはオイラの自慢の息子だよ。じゃあな。長生きしろよ。
「坊や。愛してるぜ」
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猫のハチワレさんが亡くなって一週間。縁の下から大量のおもちゃとキラキラした小石が出てきた。
ハチワレさんが遺してくれた物だと俺には分かった。
「ハチワレさんの形見ね」
「うん」
妻は猫アレルギーでハチワレさんに触れたことは無く。顔を合わす程度だったが彼女もハチワレさんを愛してくれた。
今でも覚えている。会社をクビになって公園で泣いていた俺をハチワレさんはニャーニャーと慰めてくれた。
それから家に連れて帰って俺たちはずっと一緒だったんだ。
ふふっ。いつもネズミや鳥を捕って見せてくるからハチワレさんに気づかれずに逃がすのが大変だったな。
さよなら。ハチワレさん。天国でも偉そうにしてて下さい。
『しょうがないね~』
「ん?」
空からハチワレさんの『ニャー』が聴こえた気がした。