第4話 学園生活
「申し訳ありませんでした!!」
深々と頭を下げて謝ってきた。
理由は不明。
何かされた覚えはない。
というか、まともに口を聞いた覚えがない。
困惑していると、サーヤが口を開いた。
「い、いきなり謝られて困惑しちゃいますよね……すみません……でも、どうしても自分の感情に決着をつけるためには、謝らないとと思ったから」
「どういう意味ですの?」
「あたしはアリア様を強い偏見で、決めつけてしまっていました。公爵令嬢だから何か不正な手を使って、首席になったと最初は思っていました。でも、ここ数日、アリア様の努力を見て、そんなのは失礼すぎる勘違いだと思い知りました」
努力というのは、私が悪役令嬢として優秀さを保つためにやっている、日々の勉強や戦いの訓練の事だろう。
まさか、ストーキングでもされていたのだろうか。勉強などの努力は、ひとめにつかないようにやっているのに。
てか、サーヤは心で思っただけのことで謝ってきているの?
確かに正義感の強い性格のキャラだけど、それで謝るなんて……かなり変わってる。
「心の中で人にどう思われようと、わたくしの知ったことではありませんわ」
「そ、それはそうですが……でも個人的に謝らないとスッキリできないと思ったので。申し訳ありません、あたしの事情に貴重なお時間を取らせてしまって」
サーヤは申し訳なさそうな表情を浮かべた。
しかし、冷静に考えてこの状況は良くない。
明らかに、主人公であるサーヤからの評価が、急上昇している。
これは良くない傾向だ。
彼女には嫌われないと。
「そうですね。わたくしは忙しいのに、くだらない要件でしたわね。謝るなんて無駄な時間を過ごさずに、その期間勉学なり剣術なりに練習をすればよろしいのに。だからあなたはわたくしに勝てないのですわ」
嫌味を思いっきり込めて言った。
これで敵意を持つだろうと予想したけど、
「そ、そうですよね……全てアリア様のお言葉通りです」
案外素直に言葉を受け取っていた。
「あたし今まであった貴族たちが、大して努力もしていないのに平民だというだけで見下してくる人たちだけだったので、アリア様みたいな人もいるんだと思いました。将来はアリア様みたいな人の騎士になりたいです」
サーヤはそう発言した。
彼女は、乙女ゲームでは、学園に入ったものの進路をどうするかは、かなり悩んでいた。
最終的にどのヒーローを攻略するかで、どうなるかが決まる。騎士もその選択肢の一つではあるが……
私との会話で進路決めちゃダメでしょ。
「ふん、あり得ないわね。わたくしの騎士はわたくしと対等に会話をできるような、有能な人物でないと。あなたでは無理ですわね」
「今は無理でもいつか……」
「無駄な努力はやめなさい」
私は最後にそう言い残してこの場からさった。
今の言葉は好感度を下げるのに十分なはずだ。
これでもう彼女に騎士になるなんて言われることはないだろう。
と思ってたら数日後。
なんか私の親衛隊みたいなのが出来ていた。
サーヤが作った隊みたいだ。
隊員数はそれほど多くはないけど、十人くらいいた。
悪役令嬢として、部下を作るのは良いことであると思うが、主人公サーヤが親衛隊になるのは流石におかしすぎる。
どういう魂胆かわからなかったけど、こうやったら私が認めてくれると思っての行動だろうか。
何というか行動力がありすぎるというか。
そういうキャラなんだけど。
これ、どう対処すればいいだろうか。
やめてと言っても、簡単にはやめてくれなさそう。
放っとけば自然に消滅するかな。
日常的に暴言を親衛隊に対して投げ掛ければ、まあ、普通に考えて私に愛想尽かして解散するでしょう。
そう思っていたのだが……
数週間後。
隊員数がなぜか二百名を突破していた。
全校生徒が五百名なので、40パーセントが親衛隊入りしているという、訳のわからない状態になっている。
なぜこうなった?
サーヤが新規隊員を頑張って募集していたが、普通私の本性を知ればやめるだろうけど、何か全然やめていかない。
暴言を吐いたら、なぜ歓声が上がる。
変な受け取られ方をしているのか、この学園にマゾが多いのか不明だけど、とにかくそんな奇妙な状態になっていた。
男も女も親衛隊に入っている。
逆に親衛隊に入っていない生徒もいるんだけど、その生徒の面子がアレ過ぎた。
乙女ゲーではアリア以外にも酷い目を見る悪役令嬢がいるんだけど、その悪役どもは全員入っていない。
逆にめちゃくちゃ私を敵視してきている。
あの悪役令嬢どもを束ねるような存在になりたかったのに、なぜか逆の結果に?
どういうこと? これではまるで主人公になってない?
そんな馬鹿な。
私は悪役令嬢を目指し、頑張ってきたのに、何で主人公みたいな立場になっているんだ。
おかしいと言わざるを得ない。
さらに気になる点がある。
当然のように私の親衛隊に、ヴァロンが入隊したのだけど、その時、サーヤと会っていたのだが、何というか二人は惹かれ合うどころか、何かいがみ合っていた。
あんまりお互いが好きではないようだ。
理由を聞くとヴァロンは、
「悪い子ではないと思うのですが、長年師匠から教えを頂いていた僕を差し置いて、親衛隊の隊長をやっているのが、モヤっとしてしまいどうしても態度が悪くなってしまいます」
と理由を説明していた。
サーヤは、
「王太子という立場を振りかざして、平民を馬鹿にするような人じゃないので、良い人なのは分かりますが……大昔からアリア様の弟子だったという理由で、色々言ってきますし……というかその事実が羨ましいですし……てか、婚約者ってのが許せないというか……」
若干歯切れが悪く理由を説明していた。
何というか、悪くない人という見解は一致しているみたいだけど、私の存在が理由で仲が悪くなっているようなのである。
仲良くしろとは言ったが、あんまり関係を改善する気はないようだ。
うーん、二人がくっつかないなら、嫌われなくなっちゃうんだけど……予想外の事態。
というか、予想外の事態が多すぎる。
親衛隊の件といいこの件といい。
私は何とか嫌われるよう、過激な発言を何度もしていったが、逆に好感度が上がっていった。
それから学園で過ごしていき、結局私の評価は下がらなかった。
私に敵対する面倒な勢力がいて、そいつらに命まで狙われていたので、流石に殺されたくはないと、徹底的に叩き潰したり、学園に困った男が複数侵入するという事件があった時も、率先して指示を出して侵入者を捕まえたりするなど、予想外の事態が起きた時、私がそれを解決してしまったので、むしろ評価は上がっていた。
私を嫌っている勢力も、ほぼ全員排他されて、私に賛同する人しかいないような状態になっていた。