第1話 悪役令嬢に転生
昔から悪役に憧れていた。
ただの悪役ではない。
読者に憎悪と恐怖心を与えつつ、認めざるを得ない有能さ、カリスマ性を持ち、最後、やられるときは、物語を盛り上げるだけ盛り上げて、派手に散る。
そんな本物の悪役に憧れていた。
その観点から見たら、私の転生した、乙女ゲーム悪役令嬢の『アリア・トレンスフォード』は最低な悪役だ。
やってることがとにかくせこい。
主人公に足をかけて転ばせたり、水をかけたりなど、中学生レベルのいじめみたいな低レベルな悪事。
自分の手は汚さない陰湿さ。
単純に頭が悪すぎるし、性格も小物。
最後もみっともなさ過ぎる。
泣いて婚約者にすがって追放を言い渡され、号泣するシーンなど見るに堪えなかった。
はっきりと言ってしまえば、私がこんな悪役は嫌だと思っていた、全ての要素を備えていたのが、アリアである。
当然、そんな悪役でいるつもりはない。
――私は……私が理想とする悪役令嬢になってみせる!
〇
「あなたそのようなことで、この国を治めるつもりですの?」
私は侮蔑の意味を存分に込めて、そういった。
私の目の前には、悔しそうな表情で膝をつく、一人の金髪の美少年が。彼の足元には、木剣が転がっている。
彼はこのカントール王国の王太子である、ヴァロン・グランドベル。
私、アリア・トレンスフォードの婚約者だ。
トレンスフォード家は公爵家で、非常に身分が高い。王太子と婚約関係になれるほどだ。
「もう一度、お願いします……」
ヴァロンは木剣を持ち直し、再び立ち向かってきた。
私も木剣を構える。
「やああああ!!」
剣を構えて突撃してくるが、まだ10歳であるヴァロンは、身体能力があまり育っておらず迫力はなかった。
剣の腕も拙い。前世で剣道を8年やっていた私を倒すのは、はっきりいって実力が全く足りていない。
あっさりとヴァロンの剣を弾き飛ばし、勝敗はついた。
こんな風に女の私が剣を握るのは、この国ではあまりいい行為とはされていないので、私たちはあまり人目のつかない場所で手合わせをしている。
なんでこんなことをしているのかというと、理由は複数ある。
まず、単純に自分の腕を磨くため。
自分では何の実力もないのに、でかい顔をしている悪役というのは私は嫌いなので、きちんと練習して体を作っておく必要がある。
技術的な面は、それなりにあるので体を作る事が目的だ。
もう一つの理由は、王子ヴァロンに嫌われるべきだと思ったからだ。
彼は、乙女ゲームのヒーローの一人。
それも、一番人気がある。
最初はヘタレっぽい感じだったけど、主人公との出会いで成長していき、最後主人公の危機を見事に助けるという、王道ストーリーが非常に良くできていたので、それが理由だろう。
ちなみにアリアはそのルートでは、序盤で断罪され追放されている。
私は悪役令嬢である。
そんな人気のキャラに間違っても好かれるわけにはいかない。
普通にやってても、嫌われるようになっている。
だが、乙女ゲームでのアリアは王子ヴァロンには媚びを売って、ほかの奴らには横柄な態度を取っており、そんな態度がバレた後に嫌われるという、超小物行動をとっていた。
流石にそれは出来ない。
本物の悪役は王子ヴァロンだろうと主人公だろうと、平等に見下して虐げるようなそんな存在でないと。当然王子を虐げるのには、リスクがあるが、そんなリスクなどものともしないのが、本物の悪役令嬢というもの。
「もう一回……!」
ヴァロンは剣を構えてまた私に向かってきた。
諦めが悪いな。
何度向かってきても同じこと。
彼の腕では私には到底勝利はできない。
今回もあっさりとヴァロンの木剣を弾き飛ばす。
ヴァロンは地に伏せて、泣き始めた。
な、何か凄い罪悪感を感じる。
まだ10歳くらいの子だし。
顔は美少年でかなり可愛し。
あんまり弱いものいじめをしすぎるのは、本物の悪役令嬢を目指す私としても良くはない。
このくらいにしておいた方がいいかな?
いやいや、可哀想だなんて罪悪感を抱くのは、悪役令嬢には必要ない。
弱った者は徹底的に貶めるのべき。
「泣くなんて情けない……それでも男児ですか? わたくしは素振りでもします。そうして泣いている間に、またわたくしとの差が広がってしまいますわね」
と嫌味ったらしく言った。
ヴァロンは私を睨みながら、素振りを始めた。
ブチ切れて罵倒してくると思っていたから、予想外の行動だった。
でもこの親の仇でも見るような目。
嫌われることには完全に成功したね。
数週間後。
「師匠!! 今日もお願いします!!」
あれ? どこかで間違った?
【読書の皆様へのお願い】
今作を読んで面白いと思われた方
続きが気になると思われた方
大変お手数をおかけしますが
広告下↓の【☆☆☆☆☆】からポイントをよろしくお願いいたします!




