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第八十三話 仕掛け篇

 ミカと吸血鬼は館の中に入り、大広間の隣に位置する廊下で周囲を見渡してみた。しかし、館の外から見た時にあった、壁の穴は見当たらない。エリザベスは大広間にある最後の壁の穴を直して、ミカと吸血鬼に合流した。彼女は大広間から出てくると、廊下の奥へと目をやりながら不思議そうに首を傾げる。


「あら? 穴はもうぢょっど左に見えまじだわ」

「じゃあ、やっぱり食糧庫かな」


 大広間と廊下を挟んだ左隣は、食糧庫になっているはずだった。ただ、食糧庫の入り口は厨房の中にしかなく、窓もないため、左側を見ても白い壁と壁掛けの絵画しかない。「食糧庫かな」と言った吸血鬼は、ミカたちに少し待ってて、と言って食糧庫を見に行く。基本的に、食糧庫や厨房は吸血鬼の管轄だ。こういう時コウモリたちがいれば、すぐに館全体を調べてくれたのにと思う。コウモリたちを殺してしまうのは、ミカたちの生活を困らせるのに本当に的確な手段だった。


 そこまで考えたところで、ミカははたと気がつく。ミカは、大事なことをまだ他の二人に伝えていなかった。

 「館が住人を殺そうとしている」ということ。

 もしかしたら吸血鬼たちもすでに気づいているかもしれないが、みんなで考えて対処しなければいけないことだ。


 しばらくして帰ってきた吸血鬼は、ミカとエリザベスを見て首を横に振った。


「食糧庫に穴は空いてないよ」

「だって、食糧庫じゃなかったっすもん」

「でも、この壁の裏は食糧庫だろう?」


 吸血鬼は絵画の掛かった壁に手を置き、それから絵画をまじまじと見た。


「これ、悪魔の絵だね」

「悪魔?」

「強欲の悪魔、マモンでずわ」


 エリザベスは前に出て、絵に描かれた醜い男を指さした。


「マモンは、ごのように金袋を人に与える姿で描がれるのでず。ごの絵では袋がら金貨を出じで、ばら撒いでいるように見えまずわね」

「あっ!!」


 唐突に声を上げたミカは、マモンの背後の机を指さした。


「これっすよ、俺が外から見た時にあったテーブル!」

「ぞればビリヤード台……。描がれるのば珍じいでずわね。遊びすらも強欲であるとじて、諫めた絵なのでじょうか」

「ちょっと待て、ビリヤード台を見ただって?」


 吸血鬼は顎に手を当て、もう片方の手で絵画の額縁をなぞり始めた。


「レディ・エリザベス、今更なんだけど、昔の貴族の家には遊戯室があるのが当たり前だったよね?」

「ごごは離れでずがら、ぞういう接待に必要なものは作っでいないはずでずわよ」

「大広間があるのにか?」

「ぞれは……大広間は何にでも使えまずがら」


 吸血鬼は絵画に両手をかけ、絵全体を少し上にずらす。すると、壁の裏側からガコンという音がして、絵画が横にスライドした。絵画の裏は四角く凹んでおり、その中にレバーのようなものがある。


「ぞんなはずありまぜんわ! わだぐじは館の主人であったのに、聞いたごどもございまぜん!」


 現れた仕掛け扉に、エリザベスが素っ頓狂な声をあげる。


「君より前の世代の当主に、隠されたものなんだろう。そうでなければ、こんな秘密の仕掛けを作る必要なんてないさ」


 レバーを引くと、絵がかかった壁は一般的なドアの大きさに切り取られ、横にずれて未知の室内を露わにした。長年密閉された部屋の臭いに、ミカは顔を覆いながらも、目をキラキラとさせている。


「すっげぇ……! 地下の迷宮みてえ……!!」

「地下でもないし、迷宮でもないがね。どこのファンタジー小説から得た知識なんだい」


 吸血鬼は袖で鼻と口元を覆いながら、ほこりを手でかき分けて室内に入る。しばらく行ったところで、腰より少し下の辺りに何かの角が当たった。無論、部屋の中央に置かれたビリヤード台の角である。


「ミカ、君の言うとおりだ」


 エリザベスも吸血鬼の後を追って、わずかながら明るい場所を見つけた。それは、光源のない室内よりもいくらかマシな外の景色が覗ける場所で、本来塞がれている場所だが、茨の木によって貫かれてできた風穴だ。

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