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「あっつぅ……」


 思わずそんな言葉が口をついて出たのは、戦闘で身体を動かした直後だからというだけではない。気候が真冬のそれではないのだ。小春日和といったところか。適切な服装であれば暑くもなくかと言って寒くもなく非常に過ごしやすい気候と言えるだろうが、冬服ではあまりに暑い。

 半ば剥ぎ取るようにダウンコートを脱いで、トレーナーの袖をまくる。


「なんだ、ここは……」


 石畳の上に立っていた。

 左右にはどこまでも続く白い玉砂利の枯山水。そして異様なことに右手側は満開の桜、左手側は紅く染まった紅葉が一定間隔で並んでいる。季節感がチグハグだ。

 そんな並木道の先には巨大な建築物がそびえ立っている。白い土壁に木製の梁。黒い瓦。金色の装飾。豪華だが下品ではない。そんな外装の建物の高さは十メートル弱と言ったところだろうか、マンションだと三階建てくらいだ。正面からでは奥行は分からないが横幅は百メートルくらいはありそうだ。とにかくでかい建造物だ。


「ようこそだわ、飯櫃神社の本社へ」

「あんまり神社って風貌じゃないですけど……」

「ここはまだ入口だもの。まあでも、この先に行ってもいわゆる神社って感じではないわね」


 そう言って建物の方へ歩き出した濃沼空のポニーテールについていく。ていうかその紐みたいな服、変身してるからとかじゃなくて常にそんな感じなの? もしかして。


「その格好風邪引きますよ?」


 なんかシンプルに心配になってきた。

 中学生くらいの女の子がこんな肌を露わにする服装ダメだろ。とりあえずお腹は温めた方がいい。この空間が暖かいとはいえ。


「今どきへそ出しは普通だわ」

「へそ、出し……?」


 大事なところだけが隠れているのを世間ではへそ出しと言うのだろうか。おっさんには分からんね。


「ていうか空さんって見た目通りの年齢ってことでいいんですか?」


 見た目から勝手に中学生くらいだと思っていたが、小学生に見えた吉田月姫は桃花や飯田の先輩でおそらくアラサーだ。俺だって似たようなものだし、そもそも性別すら違っている。

 見た目だけでは何も分からない。


「乙女に年齢を訊くのはマナー違反だわ」

「まあ、おっしゃる通りで……」


 普通に怒られてしまった。

 と、そんな話をしているうちに高さ三メートルくらいある観音開きの扉の目の前まで来ていた。空は中空からにゅっと出てきた触手で扉を押し開ける。

 扉の向こうは体育館のような板張りのフロア。直径二メートルはありそうな黒い円柱の柱が十メートルおきくらいに並んでいる。

 正面、百メートルほど先には今入ってきたのと似たような扉がある。

 だだっ広い空間なのに柱以外には特に物もなく、装飾も最低限だ。


「なんすか、この部屋」

「私も知らないわ。でもここを抜けないと神社には行けないのよ。廊下みたいなものだわ」


 キョロキョロ上下左右を観察する俺とは裏腹に空はただ前を見て歩いてすたすたといってしまう。


「この空間って濃沼さんが創ったんじゃないんですか?」

「私はもともとあったものを空間に取り込んだだけだわ。私が生まれるよりずっと昔から飯櫃神社はあるもの」

「なるほどですね」


 どこからどこまでが歪みの力によるものなのかは分からないが、やはり空は空間を創ったりするのが得意なのだろう。


「質問ばかりで申し訳ないんですが、曲守ってなんですか? たしかさっきそう名乗ってましたよね、濃沼さん」

「曲守っていうのは、本社に所属する歪み使いのことだわ。本社を守るお役目はもちろん、分社の歪み使いでは対処できない歪物が出た時の対処、その他もろもろいろいろなことをやってるわ」

「なるほど……」

 ふふん、と得意げにしている空の様子を見るに、曲守というのは特別な存在なのだろう。


「ひかりちゃんもなかなか見込みがあるわ。将来は曲守になれるかもしれないわね」

「それは、どうでしょうね」


 建前上俺は元に戻ることを目標にしてるしな。そもそも全国各地の強い歪物と戦うわけだろ。役目自体はやぶさかではないが、如何せん実力があまりに不足している。この不足を埋められる自信が正直ない。

 空が本気ならさっきの戦いもあっさりやられていただろうしな。


「心配しなくていいわ。俺が鍛え直してやるって宮司様張り切ってたもの」

「宮司様ねえ……」


 先ほども話題に上がっていた。

 やはり歪み使いなのだろうか。だとしたらまた少女だろうか。

 雑談をしながら二人並んで柱の間をひたすら歩き、入口と真反対の壁にある扉にたどり着くやいなや、また空の背後に現れた触手が扉を押し開ける。


「ひっ」


 扉の隙間から立派なお屋敷が見え始めた時だ。短く甲高い悲鳴が上がったのは。

 まあ、悲鳴をあげたのは他でもない俺自身なのだが。

 反射的に左手に木刀を創り出し、振り向きの遠心力を切っ先に乗せて振り抜く。

 狙いは背後。

 背中をそっとなぞるような違和感を振り払う。

 ……が、そこには何もない。

 確かになにかに触られたように感じたのだが……。


「はあーん、歪みの発生は早いねえ。だが反応は大分遅いかあ?」


 低く渋い声音からは信じられない軽い口調。それが聞こえてきたのは正面、既に開ききっている扉の先だ。

 細身で高身長な初老の男。まだいくらか黒髪の残った白髪は長く、後頭部で結われている。甚平に下駄という服装。近所の花火大会に来たおっさんか何かなのか?


「あなたですか? 今触ったの」


 口ぶりからするとそう考えるのが自然だろう。

 しかし半信半疑だ。今正面にいる男がコンマ数秒前に背後にいたとは考えづらい。

 歪みが使えれば可能かもしれないが、男は歪みを扱えないはずだ。


「ああ、そうだな」


 うわ、このおっさんマジか。

 背後に回り込んで女子小学生にお触りとか普通に犯罪じゃん。

 より一層の警戒を高め、木刀を真剣に創り替える。


「おっと一応言っとくが別にガキの身体に興味があるわけじゃあないんだ。相手が男ならなおさらなあ。空ちゃんまでそんな目で見ないでくれよお」

「最低だわ、宮司様。いつもの事ながら」


 え、この人が噂の宮司様なの?

 ……マジ?


「にしても正太郎に教わってる割に弱っちいなあ。あいつの教え方が下手くそなんだなあ」


 宮司と呼ばれた男は誰に言うでもなく独り言ちる。正直いままで戦ったどの歪物よりも底が知れない。さっきの一瞬で実感させられた。

 くそ、次から次へと強いやつらが出てきやがって。


「えっと、あなたは……?」

「おっとすまんな。俺は飯田 真助ってんだ。飯櫃神社の宮司なんかをやってる」

「飯田……、ということは飯田先生の親族の方でしょうか」

「ああ、正太郎は息子だよ。と、こんなところじゃなんだしさっさと屋敷の方へ行くぞお」


 ということは飯田って飯櫃神社の跡取り? 歪み界隈ではめっちゃ偉い人なんじゃね?




 先程の建物を出るとサザエさんの家を十倍大きくしたような屋敷が現れた。

 宮司に案内されるまま屋敷に入ると、スーツを着た男たちが廊下の壁沿いに整列し頭を下げて出迎えてくれた。こういうのマフィアのゲームで見たことあるなあ、なんて思いながら案内された部屋の襖を開いた。


「ひかりさんっ! 大丈夫だった!?」


 客間であろう和室に入るなり、涙目の俺の身体のあちこちをペタペタ触ってきた。相当心配させてしまったようだ。


「よかった、ケガはしてないみたい」

「大丈夫。心配かけてごめんね」


 まあ、痣とか擦り傷とかは歪みで治したんだけどね。幸いそれ以上大きな傷はなかったし。

 むしろまなの方こそ何事もなかったようでなによりだ。


「うんうん。良かったわ。無事再会できたわね」

「あなたが余計なことしなければはぐれることもなかったですけどね」

「そ、それは……」

「それは俺の指示だ。空ちゃんは悪かねえよ」

「……まあ、いいです。悪意があってやったわけじゃないようですし」


 つい嫌味が出たがそこまで怒っているわけではない。結果的にはまなや俺の身に何かがあったわけでもなかったしな。


「さて今夜は寿司だ。年末だし、歓迎会だからな。少し休んだら居間に来いよお」


 どうやらおもてなしを用意してくれているらしい。宮司は手をひらひらさせて、廊下を歩いていってしまった。空もそれについて行くように、また後でねとてをひらひら振って襖を閉めた。


「このお部屋はふたりで好きに使っていいって……」

「そうなんだ……」


 今回のおつかいはリフレッシュも兼ねているので数日滞在することになっているが、まさかまなと相部屋とは。あの宮司俺の正体を知っているだろうに配慮というものを知らないらしい。

 十六畳の和室。中心にはテーブルがあり、それを囲むように座椅子が四つ。旅館の一室のようだな。障子を開けると立派な枯山水と燃えるような紅葉が視界に飛び込んだ。

 風情あるなあ。季節感はないけど。

 まなとはいつも一緒にいるし、彼女も同じ空間で過ごすこと自体には今更どうとも思わないだろう。むしろ友達とお泊りなんて小学生にとって最高に楽しいイベントかもしれない。いまさら別部屋にしろとも言いづらいしな。

 幸い部屋は広いし、寝る時には隅に布団を敷くことにすれば問題もないか……。


「……いい部屋だね」

「うん、いいリフレッシュにはなりそうだ」


 ていうかまなさん、それそろ離れてくれませんかね。心配してくれてたのは分かるけど安否の確認はもう十分だと思うんですよ。


「お、温泉もあるって」

「温泉かあ。温泉もいいなあ……」

「だよね! あとでい、一緒に……」

「あー、それはちょっと……恥ずかしいじゃん?」


 さすがにまなと風呂に入るのはライン越えだ。

 ふむ、大浴場なら温泉は我慢だな。

 男湯もさすがにこの身体だと入れないもんなあ。宮司を始め男性も結構いるようだし。こんな可愛い俺がそんな環境で男湯に入ろうものなら大変なことになってしまうこと間違いなしだ。


「ぬぬぅ……」


 どうしてまなは俺よりも残念そうにしているのか。

 あー、まな人見知りだからな。一人きりで大浴場というのは心細いのかもしれない。こればかりは助けてやれないが。


「ま、とりあえず居間に行こうか。歓迎会をしてくれるらしいからね」

「……うん」


 まなは不服そうに頷いた。

 歓迎会とか気乗りしないの分かるよ。俺も上司との飲み会行きたくなかったもん。




 襖を開けると巫女服を着た女が待ってくれていた。桃花のせいで巫女服も見慣れてしまったものだ。

 ご案内しますとの事で彼女の後について広い屋敷の長い廊下を歩くことしばし、案内されたのは居間だ。もっともイメージしていたリビングのようなものとは少し違っていたが。

 客室とちょうど同じくらいの部屋の中心に一枚板のでかいテーブル。高級そうな座布団がそれを囲むように――誕生席にひとつずつと左右に四つずつの合計十人分用意されている。

 ちょっとお高めの居酒屋の座敷席を広くしたような部屋だ。ただテレビや棚なんかもあるからそれよりいくらか生活感はあるな。

 テーブルには大皿に並べられた寿司。パッと見だが、めちゃくちゃ高級というわけではないだろうがそれなりに値が張りそうだ。


「おお、来たなあ。座れ座れ」


 どこに座るべきかほんの一瞬だけ逡巡したが、宮司にここに座れと促され彼に一番近い座布団に腰を下ろす。すかさずまなが俺の隣にちょこんと腰を下ろす。


「改めて飯櫃神社の本社にようこそだわ」


 まなの正面に座っていた空は相変わらずハレンチな格好をしている。


「……陽ノ下ひかり、空を見すぎ」


 そしてハレンチの隣、俺の対面ではない方から、こちらをジッと見ている空色の瞳。

 いや、なんか虚ろな感じで焦点が合ってないから本当にこっちを見ているのか怪しいぞ。

 ていうか発言するまでこの少女の存在に気づかなかった。正確には存在には気づいていたが意識が向かなかったとでも言うべきか。自分でも不思議だがそんな気がする。

 こんな目立つ子がいたら嫌でも意識が向きそうなものだが……。

 なぜなら彼女の小さな身体の二倍ありそうなボサボサな髪が虹色に輝いているから。無敵マリオかゲーミングデバイスでしか見ない輝きだ。まあそれらよりは落ち着いた感じの光り方でいくらか目には優しいけど。どちらかと言えば綺麗とまで思うけど。

 いずれにしても相当目立つことには変わりない。

 意識が向かなかったのは歪みの影響か?

 こんなところにいる女の子が魔法少女じゃないわけはないからな。


「……うちも見ないこと」

「ご、ごめん」


 ジロジロ見るのは失礼だと思いつつも一度気になるといつまでも気になる。どうなってんの、あの髪。


「わ、わたしも髪染めようかな」

「えっ、どうして!? まなさんはそのままのが可愛いよ!」


 もしかしてまな、あの髪色見て自分もやりたいとか思っちゃった感じ?

 若気の至り?

 ここは大人として全力で止めないと。せめて色の数は抑えめにした方がいい。


「か、可愛い……かな? そのままで」

「うんうん。そ、それに校則で髪染めるの禁止じゃん?」

「そ、そっか。それなら染めない方がいいかなあ」


 まなはなぜかほんのりと笑みを浮かべて前髪をくるくるいじっている。

 どうやら思い直してくれたらしい。校則のお陰でまなのゲーミング化を防げたよ。ありがとう、我らが小学校。


「さて、全員揃ったしひとまず乾杯するかあ。話は食いながら進めよう」


キャラ増えましたね。

次はもっと早く更新したい気持ちです。

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