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クリスマスパーティーをしました

「君たちさあ、クリスマスイブだっていうのに他にやることないんですか? 分かってます? ここ美少女の見た目してるだけのおっさんのやってる配信ですからね?」


ゴマ豆腐:他にやることなんてないが?


大豆:むしろひかりちゃんのサンタコスを見ること以上のやることって何って感じ


豆乳:てかサンタコスかわいい


「このコスいいですよね! さっき着て見せた通り何着かサンタコス頂いたんですけど、その中でもこれが一番気に入ってます!」


 ザ・サンタクロースのコスプレといった赤と白の衣装。膝上十センチとサンタコスにしてはやや長めのワンピース。オフショルダーで大きく肩を出すような形状にはなっているが、ケープレットがついているので露出はそこまで大きくない。しかもこのケープレットを留めるお胸のリボンにベルがついていてそこも可愛らしい。そして白ニーソで脚のガードもばっちり。おまけに生地も厚めで寒くもない。

 多くのサンタコスは少し揺れればパンツが見えてしまいそうな超絶ミニスカートだったり、上半身の布面積がぎりぎり胸を覆えるくらいしかない、へそ出し極めましたみたいなものだったりと、とにかく露出すればいいと思っているものが多かった。真冬に着る衣装なのに。サンタさん凍えちゃう。

 そんな中でのこの衣装である。さすがに外に出られるほどではないがかなり暖かい(サンタコス比)。露出すればいいというものではないのだ、こういうのは。

 そしてしかも、この衣装の素晴らしいところはもう一つある。手を大きく上げた時に見える脇。これがちょっと……なんというか、素晴らしい!

 うん、素晴らしい。

 配信が終わったら個人的に撮影会をしよう。


ヒモ太郎:可愛すぎて死んだ


「まあこんな可愛いひかりがこんな可愛い衣装を着たら死人も出ますよね。うんうん。分かるわぁ〜」


 もう、こればかりは純然たる事実なのだからしかたない。


「と、衣装の話はきりがないのでこの辺にして、今日はちょっと君たちに訊きたいことがあるんです。ズバリ友達へのクリスマスプレゼントを何にするかって話なんですけど、プレゼント交換でランダムに渡すやつだから無難なのがいいんですよねえ。小学生の女の子って何を貰ったら嬉しいのかな」


もやし:そんなこと俺らに訊かれても……


枝豆:女子小学生どころか友達のことも分からん


「君たち……。せめて今日の配信は楽しんでいってくださいね……」


豆苗:ひかりちゃん……優しい……


節分:ロリコンに優しいロリは存在したんだ……


「まあ本当はロリじゃないですけどね。ていうかこれだけ視聴者がいればひとつやふたつくらい案ありますよね? ちなみにひかりはいまのところバスボムとかアロマキャンドルとかでいいかなあって思ってますけど。知らない人のブログでオススメされてたし」


納豆:俺女子小学生だけどクリスマスは赤ワインが飲みたい


「ひかりはおっさんですけど、正直ぶどうジュースでいいかな」


豆腐:プレゼントはひ・か・り(リボンだけを身にまといながら)っていうのはどうだろうか


「ふーん、えっちじゃん。でも小学生には過激すぎますね……」


味噌:やっぱ人類共通して嬉しいのは金よ、金


「いや、そうだけど、プレゼントに現金はなんていうか心がないですよ! いや、まあ要らないもの貰うくらいなら現金の方がいいっていうのも分かりますけど……。少なくともプレゼント交換で他のものに紛れて金一封が回ってるのはマズイですよ!」


ロリコンじゃないよ:ひかりちゃんに貰ったものならなんでも嬉しいと思いますよ


「ありがとう! きっと友達のみんなもそう言ってくれるけども、なんていうかもっとこう、具体的に!」


醤油:マジレスするとひかりちゃんからの愛


「ていうか君たちが欲しいものじゃないですからね」


ずんだ餅:ひかりちゃんが着てリング〇フィットしたコスプレを洗濯せずにプレゼント企画するのはどうだろう


「どうだろうじゃないが。まあ、君たちにこの質問はちょっと酷でしたね……。変なこと訊いてごめんなさい、忘れてください」




「こんにちはー。おじゃましまーす」

「いらっしゃーい!」


 まなは今日も可愛い。ふわふわもこもこな白のダウンコートに俺が買ってあげたうさ耳リボン。これはうさぎだ。小動物可愛い。今日も優勝!

 そしてコートを脱いだらセーターにロングスカートというやや大人っぽい服装。うん、これも優勝!

 可愛さの総合優勝だな。


「今日も寒いね……」


 脱いだコートを玄関のハンガーにかけたまなは、息で手を温めながらまっすぐ洗面台に向かう。


「ねえー。今朝境内の掃除に出た時は凍るかと思ったよ。まなさんはココアでいいかな?」

「お構いなくー」


 水道の音を遠くに聴きながらポットのお湯でココアを作る。それをちょうど戻ってきたまなが座った席に置いた。超絶可愛い女子小学生が遊びに来たらお構いするに決まってるだろ。


「葉子さんたちももうすぐ来るって」


 ココアありがとう。いただきます。とカップに口をつけたまなにも見えるようスマホをテーブルに置いてチャット画面を見せる。葉子と今日香のいるチャットで、最新の受信は葉子から送られてきた自撮り写真だ。バス停からこちらに向かってふたりで歩いているらしい。


「葉子さん、ホットパンツで寒くないのかな……」

「子供は風の子っていうしね……」


 小学校のクラスに一人はいるよな。年中半袖半ズボンの子。まあ葉子の場合さすがに上は長袖ジャージだが。てか普段着にジャージって。しかもホットパンツとの合わせって。


「とりあえず元気そうでよかったよね」

「元気すぎるのも考えものかもしれないけど……」


 まなはほっと息を吐いて柔らかく目を細めた。

 まなには歪物葉子との戦いの顛末を説明してある。歪物葉子と戦い、修正したこと。月姫が葉子を歪物にしたであろうこと。その月姫と戦闘になったこと。そしてそんな月姫が飯田や桃花の先輩であること。

 それからまなは葉子のことをかなり心配していたが、昨日の終業式で彼女がいつも通り元気に登校してきて心から安心した様子だった。安藤があんなことになって思うところはいろいろあるだろうが、楽しそうに笑えるのならば一安心と言って差し支えないだろう。


「……服装の話でいえば、ひかりさんはきょ、今日は普通の格好なんだね」

「え、あんまり可愛くなかった?」


 確かにこのデニムのオーバーオールはいつもに比べたら地味かもしれないけど、結構気に入ってたんだけどなあ。


「か、かわっ、かわいいよっ!」

「だよね。よかった。ありがとう」


 今朝鏡の前で一時間くらい見入っちゃったし。割といつものことだけど。


「で、でも、その、サンタさんの服、とか……」

「あー、コスプレの方がよかった? パーティーだもんね。でもひかりだけそういう感じだと浮かれすぎかと思って」

「そ、そうだよね……」


 なんでそんなに残念そうなの。ていうかどうして俺がサンタコス持ってること知ってるの……。


 ……ん? あれ?


「……どうして俺がサンタコス持ってること知ってるの?」

「き、昨日の配信見てたから……」

「あ、ま、まあそうだよね」


 配信も陽ノ下ひかりの名前でやってるしいつかバレるとは思ってたけどね。バレたらバレたでなんというか恥ずかしいというか……。

 ていうかどうしてまなの方が恥ずかしそうに顔を赤らめてるんだ。


「その、やっぱりサンタさんの格好はしない……?」


 昨日の配信を見ていたということは、脇にそこはかとないフェチズムを感じるあのサンタコスをまなは見ているわけだ。これは小学生の教育上良くないよな。大人としてしっかり注意しないと。


「その前にひかりの配信は見ない方がいいんじゃないかな……?」

「どうして?」


 サンタコスだけじゃあない。色んなコスプレをする都合、健全な少女の成長に悪影響を与えかねない衣装を着ることもないことはない。いや、あくまで全年齢対象の範囲でだけれども。


「どうしてって、それは……。ほら、まなさんが見てもあんまり面白くないでしょ」

「え、面白いよ。……可愛いし」

「そ、そっか……」


 まあ可愛いのは事実だから仕方ない。これからはもっと健全なコスプレをするようにしよう。誰が見ても悪影響がないように。


「それで、サンタさんの衣装は……?」

「もしかして着てほしいの?」


 まなはうつむき加減にこくりと頷いた。

 まあそこまで言うなら着替えてくるか……。




「えー、それではみなさん、こんにちは。本日はですね、我が家……というか飯櫃神社でのクリスマスパーティーにご参加くださりありがとうございます。神社でクリスマスパーティーなんてしていいのかー! なんて思わないでもないんですけどね――」

「ひかりん、早くケーキ食べたいぞっ!」

「ちょっとお堅すぎないかしら……」

「え、そ、そうかな」


 せっかく挨拶、考えてきたんだけど……。


「私はいいと思うよ」


 まな以外は不満顔だ。ちなみにサンタコスに着替えてから今までまなとは一度も目が合っていない。


「うーん、じゃあ挨拶はこのくらいにしてケーキ食べよっか」

「それじゃあ切り分けるわね」


 と、何も言わなくてもホールのショートケーキを綺麗に八等分してそれぞれの皿に取り分けていく今日香。女子力が高い。葉子なんてよだれを垂らして見てるだけなのに。


「ていうか葉子さん、その服寒くなかった?」


 ホットパンツからは健康的な生足が大胆に飛び出している。


「寒くないぞ! というかえっちなかっこしてるひかちんには言われたくないぞ」

「え、えっちじゃないし。全年齢対象だもん! えっちって言う方がえっちなんだもんねえ。ね、まなさん!」


 とは言ったものの、この衣装のエッチさが分かるとはやるな、葉子。将来有望……いや、心配だ。


「え、あ、うん、えっちだよね……」


 まなはちらっとこちらを見ると、すぐに目を逸らす。

 まなさん……?

この子も将来が心配だ。


「はい、くだらない話してないで早く食べましょう」

「よーし、かんぱあーい!」


 葉子の掛け声に続いてシャンメリーの注がれたグラスを合わせる。

 友達とクリスマスパーティーなんてえらい久しぶりだな!


 と、そんな風に始まったクリスマス会は終始盛り上がった。

 ケーキは美味しかったし、プレゼント交換で用意したアロマキャンドルはまなに大喜びしてもらった。葉子からもらった兎と蛙が混ざったような謎生物のぬいぐるみはやや不気味だが、枕元にでも置いておくことにする。こんなものでも友人からのプレゼントというのは嬉しいものだ。ついでに引っ越してきてから押し入れにしまいっぱなしだったぬいぐるみも出して並べてやるか。

 ケーキを食べ終わって、プレゼント交換をした後はいつも通りだ。雑談をしたりパーティーゲームで遊んだり。毎日顔を合わせている仲だし、クリスマスだからといって今更特別なことなんてないのだが、こういうなんでもない友達との時間っていうのは大人になると全部特別に感じられるんだよなあ。なんちって。




そんな楽しかったクリスマスパーティーは陽が沈んだ頃に終了。すっかり暗くなった住宅街を女子小学生だけで帰らせるのは不安なので、バス停まで見送ることにしたそんな道中。まなと今日香が流行りのファッションがどうだのと女子女子したトークを始めてしまったのですっかり話題から置いてけぼりだ。そして置いてけぼり仲間の葉子と俺は彼女らの背中をダラダラと追いかける。


「いやあ、お腹いっぱいだぞ」

「葉子さんは四切れくらい食べてたからね。あのホールケーキ半分食べたらそりゃそうなるよ」


 六号もあったからな。男だった頃の俺でも多分そんなに食べればお腹いっぱいだっただろう。というかその前に胸焼けする。


「そういえば葉子さん、いまさらかもしれないけど、その、大丈夫……?」


 事情を知らない今日香がいないタイミングで話を切り出す。

 歪物化して俺と戦った傷は見当たらない。彼女の動きもいつも通りだしおそらく体調に関しては何も問題ないのだろう。しかしそれだけではない。安藤が学校を辞めることにもなったし、精神的にはダメージを受けているはずだ。


「大丈夫って何が?」

「安藤先生のこととか」

「ああ! 全然大丈夫だぞ」


 葉子はにっと笑った。きっと強がりもあるのだろう。安藤のことをあれだけ慕っていたのに本当に大丈夫だとはとても思えない。だが隠した感情をわざわざ掘り返すのも違うか。


「そっか、それならいいんだ。それで、どのタイミングで言うべきなのか迷ってたんだけどさ」

「どうした、ひかちん。急に真面目な顔して」

「明明後日、安藤先生が学校来るらしいんだよね。片付けとかで最後の出勤だって。保健の飯田先生が教えてくれた」

「そうなのか、それで?」


 葉子はいつも通り呑気に笑っている。


「昨日の終業式にも安藤先生いなかったし、会えるとしたらその日が最後になっちゃうよって話」

「ふーん、そっか。でも今日から冬休みだからどっちみち会えないな」


 ……?

 なんだ、この違和感は。

 安藤の話をしているというのに葉子の表情が少しも変わらない。


「冬休みでもさ、付属の中学、高校の人達は部活とかやってるだろうし全然学校には入れるよ。一緒に見送りに行かない? それとも大事な用事とかある?」


 葉子なら校内に入れなくたって門の前で待ってでも安藤に会いに行くだろうと思っていた。違和感の正体はこれだ。安藤のことを話しているのに赤の他人の話をしているような、そんな態度なのだ。

 強がりとかそういうレベルの話ではない。


「兄ちゃんとゲームする予定! 楽しみ!」


 は? そんなことで……?

 いや、落ち着け俺。家族との予定だって大事なことだろう。葉子がよければそれでいいじゃないか。


「なんかひかちん怒ってる?」

「いや、ごめん。ただ安藤先生が学校辞めちゃって、もう二度と会えないかもしれないってことちゃんと分かってる?」

「分かってるぞ。でもまあ別にいいかなあって」

「別にいいって……」


 俺は戦いの最中葉子の記憶を見た。彼女の安藤への気持ちは本人の次くらいには理解しているはずだ。それはたったの数日で「別にいい」で終わらせられるほど弱い気持ちではなかった。


「葉子さんは安藤のことが好きなんでしょ。なら――」

「もう好きじゃないぞ」

「……は?」

「好きとかってよく分からなくなったんだ。この間まで好きだったと思うけど、好きっていうのがどんな気持ちだったか思い出せなくなっちゃった。今は安藤先生のこと考えても不思議なくらい何も思わないし感じない」

「それってどういう……いつから……?」


 人間なのだから人を好きになって、やがて好きじゃなくなることもあるだろう。しかし数日前まで大好きで特別だった人に対して何も感じなくなるなんてことはあるだろうか。いや、あるわけがない。少なくとも自然な心の変化とは到底考えられない。


「保護者説明会のあと辺りかな。あの日のことはあんまり覚えてないんだけど……」


 その日は俺が歪物葉子と戦った日だ。



「お友達の根源を砕くのってどんな気持ちなのお? やっぱり最高な感じい?」



 白髪ゴスロリ少女の笑みが頭をよぎる。ずっと頭の片隅でその意味が気になっていた言葉だ。

 まさか、俺が歪みの根源を砕いた影響か……?

 いや、そもそも吉田月姫が葉子を歪物に変えた時点でそうだったのではないか……?

 それは違う、か。

 俺は触れたのだ、歪物になった葉子の中にある温かい心に。そしてそれを砕いた。

 俺が葉子から安藤を奪った、のか……?

 だとしたら、葉子だけではない。これまで戦ってきた歪物全員の根源を俺は砕いてきた。彼女らはどうなった?

 俺はこれまで何を砕いてきたんだ……?


「ひ、ひかりさん!? 具合でも悪い? すごい顔色悪いよ?」


 振り返ったまなが顔を覗きこんでくる。


「……大丈夫」

「ほんと、顔真っ青だわ。葉子さん、ちゃんと謝った?」

「う、うち!? うちは何も……ご、ごめんなさい……」

「いや、葉子さんは何も悪くないよ。ちょっと良くないこと思い出しただけ」


 心配そうな三人を少しでも安心させようと笑ってみせる。


「……ごめん、やっぱりちょっと先に帰るね。バス停まで送るって言ってたのにごめんね」


 きっと上手く笑えていなかったのだろう。大人なのに子供にこんな顔をさせてしまうなんて情けない限りだ。本当に。

 ついてこようとしたまなを振り切るように走る。脱兎のごとく。


「……ごめん、葉子さん」


クリパ回です。

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