第八話
「この手紙によるとアルフレート王太子殿下は、明日にでも、こちらに到着されるようだ。くれぐれも粗相のないようにな」
父がアルビニア王家の紋章の入った手紙を私に手渡しながら、アルフレート殿下が明日到着するということを伝えます。
手紙は昨日到着したとのことですから、かなり急いで出発されたのですね。
何だか、急かしてしまったみたいで申し訳ない気持ちになってしまいます。
しかしながら、早く迎えに来てくれるという連絡に私の胸は高鳴りました。
「ええーっ! シャルロットお姉様、明日もう隣国に行ってしまいますのぉ?」
「明日、すぐには行きませんよ。アルフレート様はしばらくこちらに滞在すると言ったじゃないですか。……聞いてなかったのですか?」
「うふふ、お姉様ったら。いくら、ミリムよりも幸せになれないからって、怒らないで下さいな」
ミリムが私の話を全く聞いていないことに苦言を呈すると彼女は私が嫉妬しているとか、勝手なことを言い出します。
昔から、この子はマイペースでそれでいて被害者ぶるスピードだけは早いので、まともに会話にならないことが多いのです。
困った性格をしていますが、いくら咎めても治りませんし、もう慣れてしまいました。
「ミリム、まさかとは思いますが、リーンハルト様にもこのような態度は取っていませんよね? そんなことだと、いつか愛想を尽かされますよ」
「リーンハルト様とわたくしは愛し合っているのですぅ。愛想なんか尽かされません。お姉様の妄想には付き合いきれません」
どうやら、リーンハルト様とは上手く行っているみたいですね。
こんなにも自信満々という態度なら、流石に彼の前では少しは集中力を持っておりしっかりしているのでしょう。
私と会話をしているときは話の内容を全く聞いてないことが頻繁にありましたので心配してしまいました。
「シャルロット、その辺にしなさい。ミリムの婚約についてお前が物申したい気持ちはあるのだろうが、お前は妹の婚約よりも自分の婚約を心配しておけば良い」
「わかりました。お父様……」
私がミリムの態度に物申すと、父はそれを咎めました。
父も私がリーンハルト様との婚約を台無しされたことを根に持っているとお考えみたいです。
それは邪推も良いところなのですが、意味のない反論をすることは止めました。
「ふふ、お姉様が怒られていますの」
「ミリム、私はあなたのことが心配で――」
「もう良いと言っているだろう」
私のことを笑うミリムに対してその態度を咎めようとすると父はそれを止めます。
ミリムはすぐに泣くので、それを面倒くさがって叱らないのはどうかと思っているのですが……。
それで、この子はここまで増長していますし……。
「旦那様、シャルロットお嬢様、リーンハルト様がお嬢様に謝罪がしたいといらっしゃいましたが――」
「「――っ!?」」
そのとき、使用人のメアリーがリーンハルト様が訪問して来られたことを私たちに伝えました。
私に謝罪とは今さらですね。
謝罪のタイミングなんて、いくらでもあったにも関わらず、こんなに時間を置いて……だなんて。
「ええーっ! ミリムに会いに来た訳じゃありませんのぉ?」
「まぁ、リーンハルト殿もきちんとケジメをつけねばと思ったのだろう。シャルロット、許してあげなさい。いつまでも恨みを抱えておっても幸せにはなれんだろう」
父に促さられるまま、私はリーンハルト様と話すために中庭のテラスに向かいました。
そうですね。根に持っているほどではありませんが、きちんと謝ってもらえれば私もスパッと忘れて隣国での新しい生活に集中出来ると思います。
そう思って彼と二人きりで話をしようとしたのですが、リーンハルト様の謝罪は私の想像と全く違いました――。
「シャルロット、僕が悪かった。ミリムと別れるから、やっぱり僕と結婚してくれ!」
「はぁ?」
これ程までに、はっきりとお腹の底から「はぁ?」と声が出たのは初めてかもしれません。
どうして、こんなに早く復縁などしようとしているのですか?
まったくもって、意味が分かりませんでした――。
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