第五十話(リーンハルト視点)
どうもーーーーー! お待たせしました!
そう、この僕こそ、公爵家の真の嫡男として相応しい男――リーンハルト! お久しぶりです!
やはり、やらかしてくれましたよ。
ええ、ええ、やっぱりね。
ねっ? 言ったでしょ? 僕、言ったよね? エルムハルトは必ずやらかすと。
この世は知恵のある者こそが勝ち残る摂理。
悪いがエルムハルト、この僕の踏み台に再びなってもらうぞ。
なんでもさ、聖域にミリムが土足で走っていったんだって。
いやいや、いやいや、どう考えてもおかしいだろ。
なんで、靴くらい脱がせられないんだよ。マナー云々以前の問題だ。
あいつ、責任を取らされてアルビニアから帰れなくなってるんだって。
本当に馬鹿すぎて、笑える。もしかしてミリムよりも頭悪いんじゃないの。
父上もきっと理解したはずだ。
公爵家にはやはり僕という人間こそが嫡男であるべきだと。
ていうか、エルムハルトは無事で帰って来れない可能性もあるんだからさぁ。
不適格なのは間違いないよねーーー。ぷくくくくく。
「僕こそが公爵家に真に相応しい――」
「リーンハルト様……! 旦那様がお呼びですぞ!」
「うぴゃあっ!? なんだ、クラウドか。いきなり声をかけて、驚かすな」
「何度も話しかけましたが、ブツブツ独り言を呟いていましたものですから」
執事のクラウドが大声で、父上が僕を呼んでいることを伝えた。
まったく、この男は……。言い訳ばかりしやがって。
僕はブツブツ独り言なんて、呟いてない。ちょっとハイテンションにはなっていたかもしれないが。
しかし、父上が僕を呼びつけた――ということは。
これはもう、なんの話か一択だよね。
うっひょーーーーー! 返り咲いたーーーー!!
やった! やった! やったーーーーー!
ざまぁみろ、エルムハルト!
この兄を侮ったことを、詫びろ、詫びろ、詫びろ、詫びろ、詫びろ、詫びろーーーー!
「リーンハルト様!」
「うぴゃあっ!?」
「旦那様が、お待ちです!」
「わ、わかっている! 何度も驚かすな!」
ったく、クラウドのやつ。この僕にナメた口を利きやがって。
ていうか、こいつの手元にある本はなんだ?
んっ? 「あなたのキャリアは必ず活かせる!再就職の心得」だって? こいつ、再就職とか考えてるんだ。
口うるさい奴だったから居なくなって、清々するけど。
さて、と。じゃあ、父上の元に行ってくるときますか。
僕が主役に戻る時間がやってきた――。
「父上! お待たせしました! 跡取りに戻る覚悟は出来ております! 二度と失態は冒しません!」
「……公爵家は終わりだ」
「へっ……?」
真面目な顔をして、ビシッと決めて、父上に嫡男に返り咲く準備は出来ていると宣言すると、面白くない冗談が聞こえた。
あはは、何を言っているのだ? 父上は……。
こ、公爵家は終わりとか言ってなかった? そんなはずないよね?
ち、父上、いくらなんでも嘘は困りますよ。嘘は……。
笑える冗談ならまだしも、公爵家が潰れるとかあり得ないし、笑えない。
「ち、父上、公爵家が終わるって、そのう。何かの比喩表現ですか? あははは」
「笑い事じゃないわ! ワシがどれだけ恥をかいたか、知っとるのか!」
うわぁ……。本気で怒ってる。
恥をかいたって、エルムハルトのことで、か。
そういや、父上は色々手を回してエルムハルトを結婚式に出席させたとか言っていたな。
そして、結婚式が台無しになったから、顔を潰されたと。
「いやいや、父上。多少の叱責はあったのかもしれないですけど、公爵家が潰れるなんてことないでしょう。だって我が家は王家の血も引いている名門――」
「多少どころじゃないわ! エゼルスタ、アルビニア、両王家から苦情が殺到しとる! エゼルスタの品位を著しく低下させ! 両国の友好関係を傷付けた、と! ジークフリート殿下が、どれだけ頭を下げて回ったか、と!」
えっ? えっ? えっ? これ、本当っぽいじゃん。
嘘でしょ。公爵家、無くなっちゃうの?
じゃあ、僕がこの家を継ぐって話もなし?
こ、これから平民として暮らさなきゃならないの……。
キャリアを活かして再就職とか出来ないんだけど――。




