第四十六話
ストックが完全に切れそうなので、明日からはお昼の1回更新です。
完結するまでは毎日投稿するので、よろしくお願いします。
まさか、そんなバカなことって……。
頭を打って気絶したというミリムは、そのショックが原因で記憶を失ってしまったらしいのです。
エゼルスタ語は話せており、『空』や『水』などの単語は分かるみたいですから、エピソードに関する記憶だけが抜け落ちているということが分かりました。
「シャルロット様がわたくしのお姉様なのですね。良かったですわ。優しそうな方がお姉様で……」
「ミリム……」
「わたくし、何かとても悪いことをしてしまったみたいで。それはなんとなく分かりますの。ただ、何をしたのか覚えていませんので、後で教えてください。謝らなくてはなりませんから」
この子の口から「謝る」という言葉を初めて聞きました。
もしかしたら、今までも何が悪いのかすら分かっていないから謝らなかっただけなのでは。
「あの、ミリムは治るのでしょうか? 記憶を思い出すということは」
「正直に申しまして、それは分かりません。なんせ、私自身、記憶を失った人間を診たことはほとんどありませんから」
医者の方が言うには記憶喪失になった人間も少なく、治す方法も分からないのだそうです。
つまり、永久にこのままという可能性もあります。
普通に生活をしていて治ったという例もあるにはあったとのことでしたので、彼女をどうするのかということについて話し合いが始まりました。
もちろん、両親も一緒にです――。
「こんなの、もう我が家の娘ではありませんよ! 恥を晒した上に記憶まで失うなんて!」
「そうですよ。この子はアーゼル家から勘当しました。もはや、家とは関係のない子です。まったく、ビックリするほどクズで、呆れてしまいました」
「顔が多少良いだけで、勘違いしたバカ娘だったな! 親にどれだけ迷惑かければ気が済むんだ……!」
両親は言いたい放題でした。
まるで、自分たちには一切責任はなく、ミリムはもう勘当したから娘ではないから関係がないというような論調に、私は呆れてしまいます。
「お父様、お母様、ミリムがエーレ教の聖域に土足で踏み込むという禁忌を犯したのは、お二人があの子の教育を放棄したからではないですか。責任はあると思いますよ」
「な、な、な、なんてことを言うんだ! シャルロット、お前はどちらの味方なんだ! アーゼル家の危機なんだぞ」
私が堪らず父と母にも原因があるので深く受け止めるべきだと言うと父が反発しました。
確かにアーゼル家は危機的な状況ですが、責任を回避したいがために自らの行いから目を背ける訳にはいかないと思います。
「だ、大体、シャルロット! お前には多額の金をかけて教育してやったんだ。少しは妹に分けてやれば良かったではないか! お前がきちんと姉として妹を見ていなかった責任は大きいぞ!」
その上で、父は今度は私を叱責します。
私もミリムの教育を放置した共犯だと……。
何もしていないのは、私も同じだと……。
「もういい! アーゼル伯爵、ミリム・アーゼルとは縁を切るのだな?」
「アルフレート殿下……。そ、そうですな。ミリムはもう勘当したので、我が家とは関係ないものと扱って頂くと助かります。はい」
アルフレート殿下は父の言葉を受けて、ミリムと縁を切ったのかと確認しました。
それは、どういう意図があっての確認ですか? 父は必死でミリムとの無関係を訴えていますが……。
「ミリムとは無関係と扱ってほしいなら、姉であるシャルロットとも縁を切れ……! 良い所ばかり取るのでは、虫が良すぎるだろう?」
次に父に対して、アルフレート殿下は私とも縁を切るように述べます。
やはり、何かしらの意図があっての質問だと思うのですが……。
「しゃ、シャルロットと縁を切るのですか? いや、それは」
「あなた、そんなことを言っている場合ですか! どうせ、跡取りは養子を取る予定だったのですから、王家との繋がりは諦めましょう!」
「う、うむ。そうだな。まずはこの窮地を抜けなくては――。分かりました。シャルロットとも親子の縁を切りましょう」
なんと、両親はあっさりと私との縁を切る選択をします。
保身のために、私たち二人との縁を切ったのです。
「そうか。ここにいる者が証人となっているので、覆せぬぞ。エゼルスタの王子であるジークフリート殿もいるのだからな。……アンナ、議事録は取っているか?」
「はい。エゼルスタ語、アルビニア語、両方で記入しております」
この発言をアルフレート殿下は証人がいる中の公式なものだと念を押しました。
アンナさんも早速、書記として議事録の作成に尽力しています。軟禁というのは、王宮から出られないという意味みたいですね……。
「では、アルビニア王家として今回の騒動――アーゼル伯爵家、ウィルダン公爵家の両家に責任を追及するものとする。ミリム・アーゼルについては、身元引受人が見つかり次第、治療に専念してもらい、その後、然るべき処分を下す」
「「そ、そんな……!」」
アルフレート殿下の言葉を聞いて、両親だった二人は顔を真っ青にして、愕然としていました――。
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