第三十五話
いよいよ、結婚式まであと2日。
準備が始まると早いものです。これがアルビニア流なのでしょうか。
少し前にリーンハルト様から婚約破棄すると言われてしまったのに、今は隣国の王太子の元に嫁ぎに行っているのですから。
自分の状況を冷静になって考えてみると、夢見心地というか、現実味が湧きません。
「やぁ、シャルロット! 久しいな! アルフレートも元気そうで何より!」
「ジークフリート殿下、もうこちらに来られたのですか?」
「ジークフリート、来てくれて嬉しいよ」
エゼルスタ王国の第二王子であるジークフリート・エゼルスタ殿下が私たちの結婚式に出席するために早くも王宮に来られました。
彼はアルフレート殿下と友人らしく、私に関することも相談されていたらしいです。
語学を頑張るようにとアドバイスされたのは、アルビニア語を幼いときより学習されて、少年時代より通訳無しでアルフレート殿下とコミュニケーションを取っていたという彼らしい助言でしょう。
アルビニアとエゼルスタの外交の要を担っている存在でもあり、明後日の式にはアルフレートの友人というだけでなく、エゼルスタ王家の代表という側面も持って出席されるのです。
「はっはっはっ! せっかく久しぶりにアルビニアに行けるから、観光もして行こうと思ってね! シャルロットは才色兼備と我が国でも多くの男たちが狙っていたというのに! この幸せ者が!」
「ありがとう。僕もそう思うよ。彼女を妻に迎え入れることが出来て幸せだ」
「アルフレート殿下……」
私の肩を抱いて、はっきりと幸せだと断言してくださったアルフレート殿下。
そのように仰せになってもらえて私も幸せです。
アルビニアとエゼルスタ。文化の違いはあれど、その違いこそがどれも輝かしいものに見えて……私はこれからの人生が楽しみだと感じていました。
「そうか。そうか。幸せなら何よりだ。アルビニア王家にエゼルスタ貴族が嫁ぐ、これは歴史的なことだからな。両国の悠久の平和に繋がると俺は信じてるよ。良い結婚式になることを期待している……!」
機嫌良さそうにアルビニアとエゼルスタの平和について語り、結婚式を楽しみにされているジークフリート殿下の顔を見ながら、私はあの妹がエルムハルト様と共に出席するという事実を思い出します。
もし、あの子が粗相を犯したら――ジークフリート殿下もお怒りになるのではないでしょうか。
仮にアルフレート殿下がお許しになられても、ジークフリート殿下が許さないとなるとエゼルスタ王国にある我が家と公爵家は無罪放免とはいかないでしょう……。
「どうした? シャルロット、顔が青いが体調でも悪いのか?」
「い、いえ、大丈夫です……。お気遣いありがとうございます」
心配そうな顔をされて私の顔を覗き込むジークフリート殿下。
この方はお優しい方なのですが、その反面、怒ると容赦もない方なのです。
義憤に駆られた彼によって、幾人もの役人たちが不正を暴かれて処分されました……。
王宮の正義は自らが守るという、一本気なところはアルフレート殿下と気が合う性質なのかもしれません。
「ジーク、まだ新しい生活に慣れていなくて、結婚式の重圧もあるんだ。シャルロットもナーバスになるさ。悪いが、ちょっと、休ませることにするよ」
私が何に対してナーバスになっているのか察したアルフレート殿下は休ませると仰せになられて、私室へと向かわせました。
考えないようにとはしているのですが、どうも不安が拭いされないのです。
「お、おう。そうか、そうだよな。悪かった。じゃあ、俺は観光にでも行ってくる。また、式で会おう」
ジークフリート殿下はそう言い残して手をこちらに振って、観光に出かけられました。
気を遣わせて申し訳ありません。もっと精神的に強くならねば――。
エゼルスタ王家のVIPも当然、結婚式には参加します。
無事に結婚式は開かれるのでしょうか……。
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