第三十二話(エルムハルト視点)
さて、ミリム・アーゼルが私のもとにやって来ます。
彼女に恨みがあるわけではないですが、ビシバシと扱いてやらねばなりませんね。
兄が私を除け者にして、父と母だけを食事会に誘っていたから会ったことはありませんが、兄の前で気弱な自分を演じていた私を見られていないのはプラスと考えましょう。
ナメられるわけにはいかないのですから……。
アルビニア王宮から招待状をもらうために公爵家のコネというコネを利用させてもらいました。アルフレート殿下は嫌な顔をしたかもしれませんが……。
こうなったら、欠席は論外だし、恥をかくなんてあり得ません。私はミリムをきっちり躾けてパーティーへと向かいます。
情というモノは私には欠片も残っていない。そんなもの、もう忘れ――。
「エルムハルト様、ミリム様を連れて参りました」
「ミリム・アーゼルです。初めまして、エルムハルト様」
「…………」
「エルムハルト様……?」
か、か、か、可愛い~~~~~~ッッッ!
えっ? えっ? えっ? えっ?
み、ミリムって、こんなに可愛かったのですか!?
う、嘘でしょう? 今まで見てきた女性の中で断トツで可愛いです!
なんてこった。妖精がそのまま現実世界に舞い降りたような……、実写版、女神降臨!っていうような……、あらゆる美の集合体が彼女なんじゃないかってくらいの可愛さがありますッッッ!
「…………」
私はあまりの美しさに言葉を発することを忘れてしまいました。
兄上がシャルロットを捨ててミリムと婚約しなおしたと聞いたとき、私は「馬鹿なことをした」と思っていましたが、少しだけ気持ちが理解できる気がします……。
「エルムハルト様、ミリム様がご挨拶されていますが、どこか体調でも悪いのですか?」
「はっ――!? だ、大丈夫です。アンナはミリ厶さんを馬車に案内して下さい」
使用人のアンナが私の体を心配するが、体調は悪くなっていません。ちょっと見惚れていただけです。問題ありません。
心を鬼にするんですよ、エルムハルト!
私は今から三日間でこの女を屈服させて躾を終え、隣国の王子の結婚式に出席せねばならないのですから。
そうです。顔が可愛いからってなんですか。理想の女性像のど真ん中を突いてきているからってなんだというのです。
問題は、この女がアルビニア国王に名前があることすら知らない無教養な部分でしょう。
顔なんか、関係ありますか。よし、今からビシッと――。
「エルムハルト様もぉ、一緒に行きましょう」
「そ、そうですね。わ、私は、その。これから、ミリムさんを、ええーっと、し、し、躾っていうか、お勉強。そ、そうお勉強を――」
て、手を握っていらっしゃる~~~!!
や、やめてください。そんな柔らかい手で私の手を握らないでください。
き、緊張して上手く喋れないじゃないですか。
「お勉強ですかぁ? エルムハルト様がぁ。わたくしに、お勉強を教えてくれるのですかぁ?」
「え、ええ。そうです。み、ミリムさんと共にアルビニア王国に行くために」
「旅行に連れて行って下さいますのぉ? ありがとうございます。エルムハルト様ってぇ、とぉっても優しそうで、素敵な方ですね」
「す、素敵ですか……? そ、そうですか。ミリムさんも素敵ですよ……」
三日間でミリムを一人前の淑女に!
飯も与えずに、叩いて躾けようと思っていました!
負けては、ダメです! 私は心を鬼にするんですから!
私は兄上とは違うんですよ。ちょっと可愛いだけの女……、いやとびきり可憐で美しい女性ですが、それが何だというのです。
ここで、厳しく彼女を躾られなかったら、私は終わりです。
ですから、私は――。
「ねぇ、エルムハルト様ぁ。ミリムと一緒に歩きませんのぉ?」
「はーい! 今行きまーす!」
「やっぱり、新しい就職先探さなきゃ……。エルムハルト様がリーンハルト様と同じ顔をしていらっしゃる……」
所詮はリーンハルトの弟……。
血は争えませんね。
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