第三十一話(ミリム視点)
ああ、つまらないですわ。
なんで、わたくしがこんなにも退屈な場所で暮らさなくてはならないのでしょうか……。
修道院という場所に行ってこいとお父様が無理やり馬車の中にミリムと荷物を入れて、わたくしはカビ臭い場所に連れて行かれました。
ここは、怖い人たちが、意味の分からないことをずっと続けている、変な場所です。
皆さん、何が楽しくて目をつむってブツブツおまじないを唱えたり、歌を歌ったりしているのでしょう。
わたくし、退屈すぎてずっと眠たいですの……。
「ふわぁ……」
「ミリムさん、集中力を持って神に祈りを捧げなさい。祈るということは、何も考えないということと同義ではないのですよ」
「“どうぎ”って何ですの?」
「はぁ……。……同じことという意味です。あなた、部屋に戻ったら読み書きの練習をなさい。先日寄付された子供用のテキストがありますから」
ここの方は時々、外国の言葉なのか分かりませんが変な言葉を口にして、それが分からないわたくしを馬鹿にします。
最近、わたくしを馬鹿だとみんな言いますが、なんでいきなり皆さん意地悪になったのでしょう。
あんなに優しかったお父様とお母様が急にわたくしを仲間外れにするなんて……。
きっと、お姉様が何か意地悪をするように命令したに決まっています。
「また、集中力を欠いていますね。無心にして、神に心の中で祈りを捧げるのです」
「“むしん”って何ですの?」
「はぁ……」
本当に、ここの人はみんな怖い人なのです。
狭い部屋で寝せられて、眠たいのに起こされて、食べたくないものを無理やり食べさせて、難しくて眠たくなる話を聞かされて――。
もう、三日もこんな生活を続けさせられて、わたくし死んじゃいそうになっていますの。
「……はぁ? まだ、三日しかお預かりしていませんよ? 公爵様が? しかし、彼女はアーゼル家の。えっ? 公爵家の跡取りの婚約者に? この子が……、信じられませんね……」
後ろの方でわたくしについてシスターが知らない女の人と何か話しています。
驚いた声を出していましたが、なんなのでしょう……。
「ミリムさん、ご実家に戻ってきて欲しいとのことですよ。何やら、あなたに縁談があるのだとか。私にはあなたが公爵家に入るなんて、狂気の沙汰としか感じられませんが。……せめて読み書きくらいはお勉強してください」
「えっ! わたくし、帰ることが出来ますの!」
まぁ! なんて嬉しいお知らせでしょう!
やっぱり、お父様はミリムがいなくなって寂しくなったのですね。
うふふふふ、本当なら口を利いてあげないところですが、許してあげます。
「大きな声を出してはなりません。神の御前です。良いですか。神という存在は言葉も発しませんし、私たちから見えませんが……見ておられるのですよ。天から私たちを――」
「意味が分かりませんわ」
「あなたがどう思おうと、見ているのです。ですから、神に見られても恥ずかしくない行動を意識なさい」
やっぱり、ここの人は外国語を話しているみたいに言葉が通じません。
見えなくて、言葉も発せないなんて、そんなの居ないのと一緒ではありませんか。
神様って、いない人のことをいうのですかぁ?
「ミリム様、私は公爵家の使いのアンナと申します。馬車でエルムハルト様が待っています」
「エルムハルト様ぁ? どこかで聞いたようなお名前ですがぁ」
黒髪の女の人が深々と頭を下げて“エルムハルト”という方が私を待っていると言っています。
わたくし、“エルムハルト”という名前は聞いたことがあるのに、なぜか思い出せません。
「リーンハルト様の弟君であらせられます。リーンハルト様の婚約者だったのですから、家族構成くらいはご存知なのでは?」
「あー、弟さんのお話……! ……していましたっけぇ?」
「……はぁ、公爵様もエルムハルト様も何をお考えなのでしょう。……まさか家を潰すつもり? 次の就職場所探そうかしら」
わーい。この変なところからやっと帰ることが出来ますわぁ。
エルムハルト様は知らない方ですけど、嬉しいですぅ――。
やっぱり、ミリム視点書くのは疲れます……。
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