第三十話(エルムハルト視点)
リーンハルトのやつ、父上に要らぬ入れ知恵をしましたね。
浅薄なあの男の思考など容易に分かりますよ。私にミリム・アーゼルをアルビニアに連れて行かせて、恥をかかせようと考えているのです。
大方、私がミスをすれば自分のところに公爵家の跡取りの座が舞い戻ってくると安直に考えたのでしょう。
「まったく単純過ぎますよ、兄上。こんなに分かりきった戦略にこの私が引っかかるとお思いとは。相変わらず、私のことを馬鹿にしているのですね」
まったく、こんな分かりやすい策謀で私を踊らせることが出来ると思っているところが兄上の浅はかなところです。
そんな安易な性格だから廃嫡されるんですよ。
「それにしても、気に食わないですね。父上は兄上なんかの話を真剣に聞いたというのでしょうか……」
ですが、父上も父上です。
あんな男、さっさと勘当にでもしておけば良いのに、意見を聞いてそれをさも名案であるように私に振るのですから。
今から、父上と話し合いをします。
ミリムと結婚することについて、そしてシャルロットとアルフレート殿下の結婚式に出るか否かについて……。
はぁ、公爵家の跡取りも楽じゃありませんね。
「どうしても、ミリムを婚約者として迎えたいのなら、我が家にメリットが無くては意味がない。それは分かっておろう? あの娘は既に将来の公爵夫人として相応しくないとワシは思うておるのだから」
父上は私にミリムと婚約することについてのメリットについて言及しました。
アルフレート殿下から事の顛末を聞いているからなのでしょうが、面倒なことを仰る……。
「私が躾けますよ。相応しくなるように。躾を怠ったアーゼル家とも縁を切らせます。万事私にお任せを」
私はミリムについて、問題はないと答えました。
兄上にはメリット、デメリットの話などしなかったのに、不平等だと心の内では思っていましたが……。
やはり父上は兄上に甘いのです。ミリムは私がコントロール出来るように躾けます。
公爵夫人として相応しくなるように、泣き喚こうが、調教するつもりです。
そうです。飯を与えなかったり、暗い部屋に閉じ込めたり、従順にさせる手段はいくらでもありますから。
「まぁ、待て。せっかくシャルロット殿がアルビニアの王太子と結婚するのだ。我が家がその縁を切り捨てるのも勿体なかろう」
父上はシャルロットがアルフレート殿下と結婚することは我が家にとってメリットだと考えているみたいですねぇ。
まぁ、それも分からなくはないのですが……。
「アルフレート殿下はミリムさんを嫌っておりますから。逆に不興を買うことになるかと存じます」
「そんな些細な問題すら解決できぬのに、万事任せろとは良く言うたものだ。ならば、やはりお前の相手はワシが選ぶことにする」
ちっ、やはり融通が効かぬ父上です。
兄には婚約者をとっかえひっかえすることすら黙認したくせに……。
だが、仕方ありません。せっかく、あの忌々しいリーンハルトが私に席を譲ってくれたのです。
少しばかりの父上の我儘と、リーンハルトの目論見に乗ってやっても、そこは目を瞑るしかないのかもしれません。
あの馬鹿な兄が自らの策謀に私が嵌ったと糠喜びさせるのも一興ですしね。
「承知しました、父上。お望みどおり、アルフレート殿下にもご覧に入れてみせましょう。ミリムさんが公爵夫人として相応しく成長した姿を。私が責任を持って彼女を再教育します」
「よく言った! さすがはワシの息子だ! それでは、修道院からさっそくミリムを呼び戻さぬとな」
ふぅ、予定が少しばかり早くなってしまいました。
本当はしばらくの間、修道院に入れておくのも良いと思ったのですが……。
とにかく、善は急げです。というより、今から迎えに行かなくては間に合いません。
ミリムを迎えに行きましょう。
馬車の中で躾ける準備はした方がよいでしょうね。
色々と用意しなくては。
ふふ、どんな色に染めてあげましょう――。
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