第二十一話
アルフレート殿下に一喝されて、水分がなくなった植物のように萎れてしまったリーンハルト様。
ソファに腰掛けて項垂れて、一言も発しません。
あの、帰ってもらえませんか。もう、話すこともないでしょうし……。
「リーンハルト殿、今日のところはお引き取り願います。ミリムを打った件につきましては、私から公爵殿に――」
「はーはっはっはっ! アーゼル伯爵から父上に何だ? どの道、僕は終わりなんだ!」
父がリーンハルト様の弁護をしようと口を挟むと、彼は急に立ち上がり高笑いしました。
父としてはリーンハルト様がミリムと婚約破棄したり、廃嫡されたり、すると都合が悪いので弁護しようとされたのでしょうが、そうもいかないみたいです。
「どうせなら、シャルロット! お前も道連れにしてやる! よく考えたら、お前だけが普通に幸せになるのはムカついてならない! アルフレート殿下! 良いことを教えて上げましょう!」
リーンハルト様は血走った目で私を睨みつけながら、私が幸せになることが許せないと言われます。
どういう理屈なのか、私が彼に対して何をしたのか、さっぱり理解出来ませんが……。
とにかく自信満々です。彼はアルフレート殿下に告げ口のようなことをされたいのでしょう……。
「アルフレート殿下! シャルロットは僕の元婚約者なんです! この女は僕と婚約破棄して直ぐに妥協してあなたの求婚を受けた節操のない女なんですよ! これは裏切りじゃありませんか!? 僕が婚約し続けていたら、あなたの求婚には応じなかったでしょうし、この女は卑怯にも僕と婚約していた過去を黙っていた!」
早口で糾弾するようにリーンハルト様は私のことを責め立てます。
言っていることは事実ですね。私はリーンハルト様と婚約していたことを意図的に黙っていましたし。
こんなにも彼が暴れることを知っていれば事前に話しておくべきだったかもしれません……。
「どうです? アルフレート殿下、その女はしたたかな狐です。何も知らぬ顔をしながらも計算高く殿下の寵愛を受けようと必死なのです。この腹黒さこそ、この女狐の本性です!」
大声を出してスッキリしたのか、リーンハルト様は清々しい顔で私やアルフレート殿下を見据えます。
まるで、自分は正義の為に動いたというような顔をしていました。
腹黒とか女狐とか、酷い言われようですね……。こんなことを仰る方だとは思いませんでした。
「………それがどうした?」
「へっ……?」
黙ってリーンハルト様の抗議のようなものを聞いていたアルフレート殿下が一言声を発すると、彼は素っ頓狂な声を出します。
まるでアテが外れたというような、思っていたリアクションと違うと言いたげな表情をしていました。
「得意顔になっている所、悪いが僕には君がシャルロットを責め立てる理由がまるで分からない」
「……いやいや、殿下。だって、シャルロットは殿下を裏切っていますよ。僕と婚約していたのですから。僕は殿下の味方ですから、それを――」
「いい加減にしてくれ!」
アルフレート殿下はリーンハルト様が私のことを更に糾弾しようとしているのを、大声で止めます。
リーンハルト様はその声を受けて、ポカンと口を開けて言葉を止めました。
「君が元婚約者だったとは知らなかったが、シャルロットが婚約破棄されたばかりだという話は手紙を受け取った時から知っている」
「――っ!?」
そうです。私は父の返事の手紙に合わせて、アルフレート殿下に婚約破棄したばかりだという話は伝えています。
彼はそんなことはタイミングの問題で関係ないと仰ってくれましたが……。
「……黙っていたのは、のうのうと元婚約者の妹と婚約をした恥知らずな君の名誉を守るためじゃないか。それを恩知らずにここで彼女を責め立てる為に暴露するとは。どうやら、君は僕の一番嫌いなタイプの人間らしい」
「……ちょ、ちょっと、殿下。待ってください……」
「いいよ、君が僕の婚約者に喧嘩を売るなら。こっちにも考えがあるから……!」
「ひぃっ……!」
リーンハルト様は腰を抜かして尻もちをつきました――。
彼の顔は青ざめて、ガチガチと歯を鳴らしながら震えています。
これは、公爵家は荒れてしまいそうですね――。
リーンハルトくん、墓穴を掘りまくり廃嫡決定か……。
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