第二十話(リーンハルト視点)
嘘だろ。どういうことだよ。おいっ!
なんだ、なんだ、なんだ? 猿並みの頭って、そりゃあ言われるだろうよ。
猿って言われて、「可愛い」って解釈するって……。僕の想像というか、理解を遥かに超えている。
こいつ、本当に同じエゼルスタ人か? 目の前の田舎者殿下の方が言語能力においても上じゃないか。
アーゼル伯爵はどういう教育をしたんだ。シャルロットと比べて、どうしてこうなった……。
「リーンハルトくん。僕は君の下らん勘違い程度なら、笑って聞き流してやろうと思ったのだが……」
やばいぞ。やばいなんてもんじゃない。
僕はなんて失礼なことをしてしまったんだ。
全く気のない女をこれみよがしに押し付けようとして……。
全部ミリムが悪いのだ。僕はこの女のバカな発言に振り回されただけで……。
とにかく、それを殿下にちゃんと伝えなきゃ……。
そうだよ。僕は悪くないんだ。
全部、このバカ女が僕に嘘を吹き込んだのだから。
クールになれ、クールになるんだ、リーンハルトよ。
「は、はい! あ、ありがとうございます! いやー、ミリムのバカがすみません。殿下の言葉をそこまで歪曲して受け取るなんて――」
とにかく、言い訳だ。
男が言い訳を長々するのは見苦しいとか思われるだろうが、そんなことはどうでもいい。
ここはアルフレート殿下の機嫌をこれ以上悪くしないことが肝心。
まだ大丈夫だ。まだやり直せる。まだまだ、僕には誤解を解くチャンスがある。
頑張って説明しろ〜〜。全部ミリムが悪いって、伝われ〜〜。
「いや、僕が言及しているのはその後だ。君、女性の顔を殴っただろ? それがエゼルスタ貴族の紳士がすることかい?」
「な、殴った? 僕が女性を……。――あっ!?」
し、しまったーーーーーーーーーっ!!
あまりにもムカついたから、ついミリムを平手打ちしてしまったーーーーー!!
これは、まずい。このことが父上に知れたら、勘当モノだ……。
弟が跡取りとか言い出しかねない。
だって、普通は叩くじゃん。あんな風にバカなことを言って、僕に恥をかかせたらさぁ。
だが、如何にバカな女でも叩いてはならなかったな。これは非常に印象が悪くなったぞ……。
婚約者を殴った、というよりも……アルフレートの婚約者の妹を殴ってしまったのがいけない。
我が家も交流はあるのだ。アルビニア王室と懇意にしている隣国の有力な貴族たちと。
父上の名に傷が付けば、僕は、僕は――。
「い、い、痛いですわ~~~! ふぇぇぇぇぇぇん! リーンハルト様のバァカァァァァァァ!!」
ええい! うるさい! うるさい! うるさい!
そんなに強く殴ってないだろうが!
そもそも、殴ってから痛がるまで時間がかかりすぎだろう!
くそー! この女が全部悪いのに! くそう! こんな性格も頭の中身も残念な女だと知っていれば!
「とりあえず、君の父上には今日のことはしっかりと伝えておくよ。その方が公爵家の為になりそうだ」
「そ、そんなぁ! アルフレート殿下! どうか、どうか、お許しを! 僕は、いえ私は殿下のために良かれと!」
父上に報告だけは避けなくては。
それだけは避けなくては、僕は終わりだ……。
アルフレート、早まるな。僕はお前の味方なんだ。
「良かれと、だって? 君は嫌になった婚約者を僕に押し付けようとしただけだろ? 調子の良いことを言うなよ。……それとも、僕のことをバカにしてるのかい?」
「い、いえ、決してそんなことは……。でも、僕は別に殿下に……」
「もういいよ。君の言い訳を聞くと虫唾が走る。今すぐ、僕の前から消えてくれないか? じゃないと、君の父上に報告する内容が増えるよ?」
「う、うううう、あうあ……、ぐぐぐぐぐ……!」
嫌だ! 嫌だ! 嫌だ! 嫌だ~~~~!!
このまま、だと。僕は終わりだ……。
ど、どうしよう。ふ、震えが止まらない。
そ、それに動悸と息切れも……。ああ、破滅だ……。もう、終わりだ……。
リーンハルトくん、廃嫡の危機……。彼に明るい未来はあるのか……。
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