第二話
このアーゼル伯爵家に生まれて、物心ついた時から様々なことに努力の研鑽を続けてきました。
しかし、それが妹の生まれついての容姿一つに負けてしまうのは精神的にダメージが大きかったです。
妹はショックで寝込んだと言っていましたが、私は寝込むどころではありません。
悔しくて、みじめで、誰もいない所で静かに泣きました。
「国でも1、2、を争うほどの美女がまさか僕のことを好きだなんて思わなかったなぁ。いや、もちろん君も美人な方だと思うし、話をしてても面白かったんだけどさぁ」
ヘラヘラと笑いながら婚約をあっさりと破棄したリーンハルト様は、言い訳にもならない言い訳を繰り返していました。
曰く、ミリムレベルの容姿の人間と結婚出来るチャンスを無視する方が愚かだと。私を捨てる正当性を持たせたのです。
最終的には前々から本当はミリムと結婚したかったらしいけど、周りに狙っている男が多く競争率が高いし、振られたらショックだから丁度いいラインの私で妥協したとまで言われて、私はこの方になんの希望も抱かなくなりました。
結局、きちんと謝ってくれませんでしたね……。
両親もリーンハルトに気がないのなら、どうにも出来ないと諦めムードで、妹のミリムの婚約をどのように発表するかなどを話し合うようになっています。
親としてはどちらの娘でもいいから良縁に恵まれてくれ、というのが本音でしょうから仕方ありません。
そもそも、両親も妹のミリムをとんでもなく甘やかしていましたから。
私だけ厳しく教育を施す傍らで、可愛い、可愛いとだけ言ってミリムには特に何もさせませんでした。
「お前の教育費はこれだけかかったから、ミリムが可哀想だ。ミリムが嫁ぐ時にはこの金額をそっくり渡そうと思う」
私の方が教育にお金がかかっているので不平等ということで、同額のお金をミリムが結婚する際に渡すことになっています。
それには不満はありませんけど、私が悪いみたいな言い方は止めて欲しかったです。
「お姉様のバイオリン、とっても格好いいですわ。ミリムもほしいです」
「わたくしも、その舞踊の衣装が欲しいです」
「その外国語の絵本、可愛らしいですわね。読み終わったら、ください」
一応、ミリムも私の習い事には昔から興味を持つのですが、両親がやりたいのかと問うと首を横に振って拒否していました。
それなのに、私の持っているものを欲しがるので毎回邪魔をされてきたものです。両親も使いもしないバイオリンなどを与えており、無駄なことをしていました。
「リーンハルト様がぁ、わたくしのことを運命の人だって仰ってくださいましたのぉ」
「リーンハルト様がぁ、可愛いわたくしに似合うからって髪飾りを買ってくださいましたぁ」
「リーンハルト様がぁ――」
この日から数日、毎日のようにリーンハルト様とミリムは会っており、楽しく過ごしているみたいでした。
その話を婚約者を取られた私に楽しそうにするミリムに嫌気が差してきます。
はっきり言って、地獄です――。
しかしながら、転機は突然やって来ました。
「シャルロット、実はお前に縁談の話があってな。リーンハルト殿と婚約していたから断ろうと思っていたが上手い断り文句を考えられず、ひと月程待たせていたのだ」
突然、父が私を呼び出して、婚約期間中に他の縁談の話が来ていたと言われたのです。
変ですね。正直に公爵家の嫡男と婚約中だと断れば特に波風は立たないはずですのに……。
「縁談の相手というのは隣国――アルビニア王国の王太子、アルフレート殿下だ」
「えっ……?」
「アルフレート殿下がお前を妻にしたいとご所望されていらっしゃるのだ……!」
思いもよらぬ名前が飛び出して、私は驚きを隠せませんでした。
まさか、隣国の王太子殿下からの縁談が舞い込んで来ていたなんて――。
↓の広告の下の☆☆☆☆☆からぜひ応援をお願いします。