第十一話
アルビニア王国では妻となる女性の家に夫となる男性が迎えに行くという風習があります。
その風習に倣って、アルビニアの王太子であるアルフレート殿下は私の家にまでわざわざ隣国から来てくださったのです。
「あれ? あんなに急いで帰らなくとも良かったのに。僕のエゼルスタ語、変だったかな?」
「いえ、完璧でした。以前お会いしたときよりも、ずっと上達されていて、驚いています」
前にアルフレート殿下にお会いしたときは、カタコトのような感じでしたから私がアルビニア語で基本的に会話していましたし、通訳も連れていましたのに……。
私はあまりにも流暢にエゼルスタ語を話すアルフレート殿下に素直に驚きました。
短期間でこれほど上達するために、どれほどの努力をされたのでしょう。
「君に見惚れてから、ずっと勉強していたからね。やっぱり、愛する人の母国語はちゃんと覚えておきたかったんだ」
アルフレート殿下は私を妻として迎えるためにこの国の言語を頑張って習得したと仰せになりました。それはどんな言葉よりもストレートに好意が伝わって嬉しく感じてしまいます。
まだ冬が明けたばかりで冷たい風が吹いてきましたが、不思議と寒さは感じませんでした。
「さて、最初の挨拶は君にって決めていたから、ここに着いてすぐにこっちに来たけど、君の家族の皆さんにも挨拶しなきゃ」
「は、はい! 殿下にご挨拶する準備は出来ているかと思いますので、こちらです」
アルフレート殿下は私の家族に挨拶をすると仰ったので、家の中に案内します。
――ついにこの日が来ました。
この家にいるのも残り僅か。
寂しいという気持ちが全くないと言えば嘘になりますが、新しい生活への期待と希望の方が大きいです。
アルフレート殿下の好意が伝わって、私の胸の高鳴りは最高潮に達しました。
◆ ◆ ◆
「アルビニア王国の流儀に則って、こちらのシャルロット・アーゼルを我が妻にするべく迎えに来た。それに合わせて、アーゼル家の諸君に挨拶を、と」
我が家の応接間で私の肩を抱き、アルフレート殿下は威風堂々とした立ち振る舞いで私を迎えに来たことを家族に伝えました。
父と母はこれまでに見たことがないくらい緊張した面持ちで、妹のミリムは目を輝かせながらアルフレート殿下の顔を見ています。
王族の方が我が家を訪ねるなど初めてのことです。
家全体が緊張感に包まれています。
「一週間ほどこちらに滞在したら、僕はシャルロットを連れてアルビニアに帰る。だから、家族の方はそれまでに――」
「やっぱり狡いですの~~~!!」
「「「――っ!?」」」
まだアルフレート殿下が話している最中にも関わらず、ミリムは殿下の声に被せるように「狡い」と大声で叫びました。
――な、何をいきなり叫んでいるのでしょう。
しかも、アルフレート殿下の前で。
両親も私も、固まってしまいました。妹のあまりにもな態度に……。
「ごめん。今の“狡い”って言葉はエゼルスタでは別の意味でもあるのかな? 僕の話、何か変だった?」
「ねぇ、アルフレート様ぁ。ミリムを、このミリムを連れて行ってくださぁい。アルフレート様みたいな格好いい方、この国では見たことがありませんのぉ」
ミリムは立ち上がり、アルフレート殿下に近付きながら、彼の手を握ろうと手を伸ばします。
甘えたような声を出しながら、可愛らしく見えるように表情を作り――。
まさか、この子はこの期に及んでアルフレート殿下に――。
「……えへへ、アルフレート様こそわたくしの運命の方ですわ」
「なんだ? このバカそうな女は(アルビニア語)」
ミリムは笑っていますが、私は自国の言葉で怖い台詞を呟いてしまっているアルフレート殿下に戦々恐々としておりました。
とにかく、この子を早く殿下から引き離しませんと……。殿下の不興を買ってしまうかもしれません――。
ミリムのキャラクターは伝わりましたでしょうか?
こんな感じで彼女は暴走しますので、これからも彼女の言動も楽しんでみてください!
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