第一話
生まれながらの容姿に恵まれた人間は、その後の人生が楽になる。私は身をもってそれを知りました。
残念ながら私が恵まれた側というわけではありませんでしたが……。
両親からは人並みで良かったと言われるくらいの容姿――親と似ても似つかない月のように淡い銀髪と琥珀色の瞳はコンプレックスでもありました。
伯爵家の長女として生まれた私は出来るだけ良い家柄の殿方と結婚することを義務付けられて……両親は私に英才教育を施して古今の教養から芸術など様々なことを一流と認められるまでみっちりと習わされました。
その甲斐もあり、良い縁談に恵まれて私は晴れて公爵家の嫡男であるリーンハルト様と婚約することとなります。
私はようやく努力が報われたと自分で自分を褒めました。
聞けば、リーンハルト様は私のピアノの演奏をとても気に入ってくれたそうです。
更に話題も豊富で話していると楽しいとまで仰って下さいました。
これも全て両親の教育の賜物だと思います。
しかしながら、順調だった縁談は突然急展開を見せました。
きっかけは、妹のミリムが初めてリーンハルト様と顔を合わせたときに泣き出したことです。
「シャルロットお姉様は狡いですわぁ。ミリムがリーンハルト様のことをお慕いしていることをご存じなのに、いきなり縁談を進めるのですから――」
彼女はルビーのような赤い目を潤ませて、きれいな黒髪を振り乱して訴えました。
どうやら、ミリムは社交界でリーンハルト様の顔を見たときから彼のファンとなり密かに想いを寄せていたそうです。
そして、それを知っているはずの私が内緒で縁談を進めていたことが気に食わないとのことでした。
そんなこと、一言も聞いたことがありませんので言いがかりなのですが……。
「もう駄目ですわ。親愛なるお姉様に裏切られて、食べ物も喉を通りません。わたくしはこのまま痩せて死んでしまいます」
しかし、ミリムはそのでっち上げとも呼べる話を飛躍させて病気になったと主張し、寝込むようになりました。
これには両親も参ったのか、私に本当に心当たりはないのかと聞いてきたくらいです。
ミリムは昔から私が目新しいモノを手に入れると泣いて欲しがるクセがありましたが、まさか人間まで欲しがるとは思いませんでした。
「ミリム、あなたにも良い縁談がいずれ舞い込みます。ですから、ここは――」
「嫌ですわ。わたくしの運命の人はリーンハルト様だと信じていましたの。もう死ぬしかありません……」
私がミリムを宥めても彼女は頑なに私の主張を受け入れてくれません。
どんなに我儘を言われても、流石に婚約者を譲るはずがないのですが、この話がリーンハルト様に届いてから私は地獄を見ることになります。
「なんだと! 君の妹のミリムが!? あの妖精の如く麗しく、この国で一番美しいと評判のあの子がこの僕を想い……病に冒されているだと」
リーンハルト様は我が家に駆けつけて、ミリムに会わせろと物凄い剣幕で詰め寄ります。
私はミリムを説得すると思っていました。両親もそう思って面会を許可したのだと思います。
ですが、それは買いかぶりでした――。
「シャルロット、僕は天使のように麗しくて、こんなにも僕のことを愛してくれているミリムと結婚するよ」
私の十数年間積み上げたモノは、妹の容姿だけに見事に崩されました。
両親も妹のミリムは器量が良いので何もしなくても良縁に恵まれると思い全く教育に力を入れておらず大丈夫かと心配していましたが、杞憂どころか、それを嘲笑うかの如く私の努力を全否定したのです。
「お姉様、わたくし、リーンハルト様と幸せになります」
リーンハルト様に身体を寄せて、勝ち誇ったようなミリムの顔を見て、私は言い知れない虚無感に襲われました――。
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