表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

突然妻に「来月からお小遣は2万円よ」と言われたが心当たりがないので、減額の謎を推理してみることにしよう。

作者: あっ、理科?

 



「————————からね。

 ————————だって。

 ————だわ。

 ————————てよ。

 ——————てるの?

 ……もう! 来月からお小遣いは2万円だからね!」



 出張から帰ってきた翌日、土曜日の昼下がり。

 借りてきたDVDを見ていると、妻が何やら喋っていた。

 適当に相槌を打ってはいたが、映画はクライマックスを迎えたところ。

 妻の言葉は耳に入っていなかった。


 妻が立ち上がり、乱暴に戸を閉めて出て行ったところで、俺の思考が現実に戻される。


 あれっ?

 今、お小遣いが2万円に減額とか言ってたよね?


 俺は背中に汗をかきながら、ことの深刻さにようやく気づいた。

 現在毎月もらっている小遣いは3万円。

 1万円の減額ってことだ。

 出張の多い俺には3万円の小遣いはギリギリのラインであり、2万円になれば何かを我慢しなくてはならない。

 昼食代を削るわけにもいかず、最有力候補となれば最近趣味になった『自転車』か、月に1、2回の『飲み会』となるのだが……。


 俺は選択を前に、思いとどまる。

 そもそも、なぜお小遣いが減額になるのか? 

 理由が分かれば減額を阻止することも出来るかもしれない。


 答えは聞いてなかった妻の言葉にあるのは分かっているが、「もう一回教えて」と言おうものなら逆鱗に触れるだろう。


 ……ふふっ。俺はこれでも高校からの友人に、執拗に押し付けられた推理小説を20冊は読んだ男。


 ——妻からの挑戦状を解いて見せよう!


 この手の推理は閃きと発想力がものをいうように思われがちだが、あらゆる可能性を消去法で潰していくのが基本となる。


 それでは始めよう。

 まず、考えられる原因についてだ。


 1、生活が苦しい。


 これについて、俺の給料が下がったりはしていない。

 むしろついこないだ、係長に昇進したので給料は上がったはずだ。

 そろそろ子供を作ろうかと、妻と盛り上がったくらいである。

 もし仮に子供を授かったというのなら、俺の小遣いなど1万円でも文句は言わないが、未だに避妊具を使用しているので可能性は小さい。


 2、急な出費があった。


 身内の冠婚葬祭などないし、増えた家電製品もない。

 今朝も洗濯機は回っていたし、43型のテレビも綺麗な映像を映し出している。

 冷蔵庫も開けてみるが、冷たい風が俺を包み込む。

 クーラーも元気に稼動中だ。

 他のものは思い付かないが、とりあえず保留といったところだろうか。


 3、単純に妻の怒りをかった。


 おそらく1番可能性が高い。

 実際、去り際の妻は怒っていた。

 この可能性を広げてみよう。


 話を聞いてなかったら減額されたとなると、すでに俺の小遣いは尽きているだろう。

 火に油を注いだ可能性はあるが、これが根本的な原因とは考えづらい。


 女性関係?

 そもそも俺は浮気や不倫などしない。

 妻は高校時代にはファンクラブがあったほどの美人だ。妻以外の女性に心を奪われることなどないと言いきれる。

 しいていうならば妻の胸は丘というか平地ではあるが、俺は登山家ではないので山に興味はない。

 本当に興味がないのかって?……いや、男として山を見るという行為は(さが)なので、その……とにかく俺は妻を愛しているのだ!


 そりゃあ仕事上の接待でお姉さんのいる店に行くことはあるが、断じて連絡先など交換しないし、貰った名刺も捨てている。



 では、普段のお金使いが荒いのか?

 確かに貰った小遣いは余すことなく使い切っている。

 出張以外は妻が愛妻弁当を作ってくれているので、昼食代は月に5千円程度。

 だが、贅沢だといえるものは、ロードバイク関連に飲み代程度。

 飲みに行った時はなるべくお土産を持って帰っているし、出張に行った時も同様だ。

 昨日、出張から帰った時もちゃんと渡している。

 それが無駄遣いと言われればそうだが、いつも妻は喜んでいてくれた。


 んっ?

 俺は頭に引っ掛かりを覚えた。

 何か重大なことを見落としてる……そんな気がするのだ。


 単語を一つ一つ思い返してみる。


 映画、家電製品、子供、昇給、平ら、山、自転車、飲み代、お土産……お土産!?


 まずい!


 別に昨日渡したお土産がまずいということではない。

 俺はスマホを持って日付を確認した。


「8月10日……」


 そう、7年前の8月10日は妻と初デートをした日だ。

 我が家には、結婚記念日や誕生日のほかに、付き合い出した日などの記念日を設けている。

 もちろんケーキを買ってきたり、2人で食事に出かける程度の些細なものだが、今日は何も用意していない。


 今から店の予約?

 残念ながら昨日のお土産で、俺の財布の中身は7千円足らず。それに今更妻に夜に食べに行こうとも言えない。

 ならば花かケーキか。


 立ち上がり買いに出ようとして、俺は自分が汗だくなことに気づいた。


 さすがにシャワーを浴びてから出かけよう。


 脱衣所で服を脱ぎ捨て、風呂場に入るとシャワーコックをひねった。


 しかし、シャワーに手をかざすのだが、いつまで経っても出てくるのは水。

 ちっともお湯に変わらない。


 その時、風呂場の引き戸が音をたてる。


「もう、やっぱり話聞いてなかったでしょ!

 今朝、給湯機が壊れたからお湯出ないよ!」


 膨れっ面の妻だったが、裸で固まる俺に呆れたのか、少しづつ表情が和らぐ。


「あっ、うん、ごめん」

「もう。ご飯食べたら一緒に銭湯に行こっ」

「あっ、うん」


 妻が戸を閉めると、俺は濡らしたタオルで体を拭いていく。

 どうやら俺の推理はともかく、解決に至ったようだ。

 つまり俺の小遣い減額の理由は、急な出費。

 いや、+αで話を聞いてなかったらだろう。


 だが、今日が初めてデートの記念日と思い出したのは大きい。




 着替えた俺は妻と行く銭湯を想像し、顔をほころばせながら花屋へと急ぐのだった。

















お読みいただきありがとうございます!


ちなみに最初の妻の言葉はこちら↓



「今朝、給湯器が壊れたから、今日からしばらく銭湯通いになるからね。

 うちもエコキュートに変えようと思うんだけど、ネットで調べたら40万だって。

 正直痛い出費だわ。

 あなたも少しは協力してよ。

 ねぇ、ちょっと聞いてるの?

 ……もう! 来月からお小遣いは2万円だからね!」



この夫婦は私の作品の中の登場人物をモデルにしてますが、分かった人には……何も出ません!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 結婚記念日とかうちは奥様が覚えてないですね、多分 いい夫婦だなぁ……
[一言] 減らされて小遣い2万円…か…、それでも私の2倍の額…、私は結婚してから十数年変わらず月1万円ですから…。 世間一般的な小遣の金額って…?
[一言] 交際記念日と彼女の誕生日をド忘れしてて友達と遊び、ぶん殴られたのは、今思えばいい思い出…なのかなぁ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ