表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/12

第7話 〜トマト〜

あの騒動から何週間か経っていた。未だに地球人たちとは馴染めていない。外を出歩いている時に挨拶をすると、無言で逃げられてしまう。叫ばれることは無くなったがどうも腑に落ちない。「時間が理解を深めてくれるわよね。」私はあまり気にしないことにした。昼食の準備を開始した。いつも通り野菜を使おうとしたが、また無い。トマトがない。そもそもこの家でトマトを見たことがない。なんでだろう?前は聞かなかったが今回はまーくんに聞いてみることにした。「ねぇ、まーくん。聞きたいことがあるんだけどー。」いつもの席でパソコンをいじっている後ろ姿に声をかけた。「んー?」「いつも料理する時にトマトがないの。仕入れ忘れてるの?」「何それ知らない。」え。即答だった。何かあるぞ?「あっ!もしかしてまーくんトマト嫌いなんだ!」「あんな食べ物じゃないものに好きも嫌いもあるか!」「えぇ…」私は呆れた目でまーくんを見る。トマトが嫌いなのか。あんなに美味しいものが嫌いだなんて…人生の半分損をしている。「今からトマト買いに行ってくるわね。」「いらんいらん!」私はお金を持って近くのスーパーまで出かけた。そうだ、今日はトマト料理をメインに作ろう。私はスーパーで色んな種類のトマトを買った。「そうだ!」農家にもよってみよう。もしかしたら普通のより美味しいトマトを栽培しているかもしれない。そうと決まれば早速向かおう。


空を飛んで農家を探していたら、良さそうな場所を発見した。「こんにちはー!」挨拶をしながら着地をする。「おぉ。こりゃたまげた。まさかわしところにも現れるとはな。」そこにいたおじい様が少し嬉しそうに驚く。「あのー私が怖くないんですか?」「何を怖がる必要がある。お主はワシたちの星を守ってくれているんじゃ。ささ、中へ入りなさい。」今までの人達とは違い、心優しく私を受け入れてくれた。「お邪魔します。」私が席に着くと、おじい様はホットミルクとパンを用意してくれた。「こんなものしか出せなくてすまんのぉ。」「いえいえ!お気遣いありがとうございます。」「それで、何かワシに用があるのかね?」私はここに来た経緯を説明した。「おぉそうか。トマトが欲しいんじゃな。好きなだけ持っていくがいい。」「あの、お金は━━━」「いいんじゃいいんじゃプレゼントじゃ。地球守ってくれてるのにこんなものしかあげられないがのう。」「あ、ありがとうございます!!」とても優しいおじい様だった。私は何度も感謝をして畑のトマトを頂いた。その後少しおじい様と雑談をし、家を後にした。


このトマトは他のトマトと違う気がする。私は家に向かいながら先程おじい様から貰ったトマトを眺めて考えていた。比較的大きく色が鮮やかだ。持った時の柔らかさも違う。これならきっとまーくんでも食べられるだろう。タタッ。入口の前でトマトを落とさないように着地し、玄関の扉を開けた。「ただいまー。」「リン遅いよー。」上からレンが駆け下りてきた。どうやらお腹が空いてたまらないようだ。「今からご飯の準備するから待っててね。」私がリビングに行くと、ゲッ。というような顔でまーくんが私の持っている物体を見つめた。「リン。まさかとは思うけどそれトマトじゃないよね?」「トマトよ!」私は笑顔で答えた。そのまままーくんは放心状態に入ったが私は気にしないで料理の支度に入った。魚料理に肉料理、スープにサラダ全てにトマトを使って調理をした。おじい様から貰ったトマトは素材の味を味わってもらうために水洗いだけにした。テーブルに座ってる2人の顔を伺うと、レンは料理が来るのを楽しみに待っているようだが、まーくんは顔が死んでいる。そんなに嫌なのか。


カチャ。「はいお待ちどうさま。」「おぉ美味そう!」レンは喜んでくれたが、相変わらずまーくんの顔が死んだままだ。「はい。あーんして。」私はスープをスプーンにとり、口を開けないまーくんの口を無理やり開けた。パク。「うっ。おぇ━━━」「吐いちゃダメよ!」私は咄嗟にまーくんの口を手で押さえつけた。そのまま顔を上に向ける。「〜〜〜〜!」少し暴れたが、トマトが喉を通ると共に静かになった。「どう?」まーくんの顔色を伺うと、さっきよりも酷くなっていた。「これはダメか…」次は魚を料理を食べさせた。これもダメ、肉もサラダも、デザート用の砂糖漬けもダメだった。「すっごい美味しいと思うけどなー。」レンはもうすぐ全部を平らげそうだ。一方まーくんは死者同然の顔をしている。声も出ないらしい。辛うじて意識があるだけのように見える。私は最後の切り札を出した。おじい様から貰った新鮮なトマトだ。私がフォークで刺してまーくんの口に持っていく。「な…なま…」か細い声で何か言ったようだが、口を開けたタイミングを見計らって放り込んだ。ドサ。

「あっ。」それを最後にまーくんはテーブルに頭を叩きつけて倒れた。チーン。アニメで効果音をつけるならこの音がドンピシャだ。「はぁ。」まーくんのトマト克服はまだ無理そうだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ