第6話 〜マスコミの怖さ〜
「ニュースの時間です。昨日━━」朝。俺はリンとまーくんと朝食を食べながら、テレビを見ていた。昨日のスライムの件が取り上げられていて、そこには俺たちの姿も映っていた。それもとんでもないところを…。「この者たちは一体何者なのでしょうか?皆様も外を出歩く時は━━━」「おいおい。どーすんだよ。身バレしちゃったよ?」まーくんが呆れたように話す。「おじ様には正体は隠せって言われてたけどー。昨日の件もあるし、正義の味方ということで何とかならないかしら?」リンは相変わらず物事を深く考えないで喋っている。地球人がそこまで物分りのいい生物だとは思わない。「地球人は得体の知れないモノを正義とは思わないよ…」まーくんも俺と同意見らしい。身バレしているから人間たちが俺たちを見つけるのも時間の問題だろう。どうしようか。「だって害がありそうなスライムをやっつけたのよ?味方と思ってくれるのが普通じゃない?」「地球の人間たちは愚かな存在なんだよ…真実も分からないのに勝手に決めつけて自分の中で補完する。」まーくんはなんだか悲しそうに話す。過去に辛い思いがあるのだろう。今回ばかりはリンの意見には賛成できない。いや、今回も…か。「私が説得して見せるわよ!地球の人だって悪い人ばかりじゃないわ!昨日でわかったもの!優しい人だって沢山いるのよ!」リンは地球人を気に入っているようだ。リンの気持ちも分からなくはないが…。今後の生活を考えると、変に人間と関わらない方がいいような気がする。「私、行ってくるわ!」唐突な宣言に思わず疑問を返す。「行くってどこに…?」「決まってるでしょ!外に出て、地球の人達に、私たちは味方だって教えてくるのよ!」「やめといた方がいんじゃない?」まーくんはリンを引き止めるが、リンは大丈夫と言って出ていってしまった。「…」沈黙が訪れる。少ししてからまーくんが口を開いた。「リン…大丈夫かな…?」「さぁ…暗い顔で帰ってきそうだな…」俺たちはリンの心配をしながらニュースの続きを聞いた。「速報です。昨日の謎の人物に接触した人からの情報が入りました。」テレビに映った人物を見て驚愕した。「えっ!」その人は俺たちが地球に着いた時に出会った男だった。俺たちのことを地球を乗っ取りに来た宇宙人だとか、特殊な力で人々に襲いかかるだとか、根も葉もないことを話している。まぁ、地球を破壊しに来たというのが事実なのだが…今の俺たちにそんな気は微塵もない。「まずいな…」俺たちはリンのことが余計に心配になった。
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私は昨日スライムと戦った場所まで空を飛んで向かっていた。「おっ、やっぱり人だかりができているわね。」沢山の人が集まっている場所に私は降り立った。それに合わせて多くの叫び声が上がった。「皆さん怖がらないで。私は地球の人と仲良くなりたいと思ってるの。」それを聞いた人々はざわめき始める。何やら球体の着いた棒を持った人が私の口元に球体を向けて話してきた。「あなたは一体どこから来たのですか?」それに答えようとしたが同じような人が何人も私に質問を投げかけてくる。「ちょっ、ちょっと待って!一度に沢山聞きすぎよ!」多くの質問に動揺したが、私は1つずつ答えて言った。ロイドプラネットから来たこと、地球が綺麗で住みたくなったこと。敵から地球を守るということ。「化け物だー!こ、殺されるーー!」突然上がった叫び声に全員が顔を向ける。私は早速出番だと思い飛んで駆けつけた。すると、その人は私の顔を指さして叫んでいた。「…え?」私は状況を理解出来なかった。男性の叫び声を合図にさっきまで私に質問をしていた人達が揃って逃げ出した。「ま、待って!」「動くなっ!」後ろを振り向くと特殊な服装をした人間たちが武器らしいものを持って構えていた。「こちら陸上自衛隊!人民の保護を完了!対象に接近!」何やら小型の機械で連絡を取り合っているようだ。「そんな怖い顔しないで━━━」「何もするな!」「!」地球人たちの怒鳴り声に体が固まる。「次何かしたら発砲するぞ!」どうしようか。緊張で体が動かない。私はしばらく指示に従うことにした。「手を挙げて地面に降りろ!」ゆっくりと手をあげて地面に着地する。その状態で1人の男がゆっくりと近ずいてきた。「お前は何が目的だ?」「…。ただ地球に興味があっただけよ。実際に来てみたら気に入ったから住んでいるだけ。」「乗っ取るつもりだな?」「そんなことしないわよ!」「嘘をつけ!!」まるで話が通じない。どうすればわかってもらえるのか。「こい。特別な部屋でじっくり話を聞いてやる。」そういうと男は私の手を強く掴んだ。「いやっ!」私は咄嗟に振り払った。男は遠くの地面に叩きつけられる。「あっ…」力加減がまだできていない。私たちは改造されて身体も人間以上に強化されているから、私たちの加減でやるととんでもないことになってしまう。「ごめんなさ━━━━」「撃てーーーーーー!」バババババババババババ!私が動き出すと同時に大量の銃弾が飛んでくる。キンキンキンキン!だが私の皮膚に当たった瞬間全て跳ね返ってしまった。痛くも痒くもない。「おじ様すごい…」私はおじ様の技術に感動してしまった。しかしそんなこと考えている暇もなく、次の攻撃が開始される。ズババババババババン!埒が明かない。一旦逃げるとするか。「逃げたぞー!追えー!」やはり追ってくるか。私はスピードをあげて空を飛んでいった。
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ガチャ。「ただいま。」早いおかえりだな。予想通り落ち込んだ様子で帰ってきた。「どーだった?」まーくんがリンに尋ねる。「ダメダメよ。まるで話が通じないわ。」「だろうねぇ。」「なんでかしら…」「人間ってのは得体の知れない存在に恐怖を感じるんだよ。何をされるか分からないからな。」「でもちゃんと敵意はないって言ったのに。」「そう簡単に考えを変えるわけないでしょ。だから人間は嫌いなんだ。相手の考えを理解しようとしない。まぁ、それが正常なんだけどね。」「いや、ちゃんと話し合えばかるわ!次の機会まで待ちましょう!」リンはまだ諦めてないようだ。呆れる。でも、リンならなんか出来そうな気もしていた。少なくとも俺には到底できることじゃないので下手に関わらないことにした。ドンドン!下からドアを叩く音が聞こえた。「誰だ?」まーくんが様子を見に行く。ドタドタ!誰かが駆け上がってくる。おおよそ予想はついた。「ゲッ。ここまで追ってきたの?」リンがつぶやく。「動くな!何もせずに外までついてこい!」俺たちは渋々外まで足を運んだ。外には多くの人間がまーくんの家を覆うように立っていた。「どうしますこの状況。」まーくんがその奥に立っていた。どうやら俺たちに拘束されている被害者だと思われたらしい。絶体絶命だと思ったその時、空から何かが降ってきた。カランコロン。ガシャガシャ。「なんだ!?増援か?」「違うわ!みんな下がって!」空から降ってきたのは骸骨だった剣と盾を持っている。これもじーちゃんの試作品だろう。最悪のタイミングだ。俺たちが呼んだと勘違いされた。ズギャン!もうリンは攻撃を始めている。仕方ない。俺もやるか。「はぁー!」炎の塊を骸骨たちに食らわせる。体がバラバラになったがすぐに復元した。「どうやって倒せばいいんだ?」「ただ攻撃するだけじゃダメね。粉々にしないと!」リンは引き続き電撃を与える。「俺もー!」後ろからまーくんの声が聞こえたが。人間たちに危ないと言われて抑えられていた。残念だな。「狙う敵は一緒よ!あなた達も戦いなさい!」リンが人間たちに呼びかけると、自然と攻撃を開始した。ズババババン!さっきまで敵対していた人間たちとの共闘。リンはとても嬉しそうだった。ボァン!俺が骸骨たちの体を燃やして脆くし、リンの電撃で粉々にする。人間たちの攻撃のおかげで敵の動きを制限できていた。「…。終わったかしら?」辺りに静寂が訪れる。一息ついた人間たちがこちらに寄ってきた。「今の骸骨はなんなんだ?」するとリンが前に出て大声で説明を始めた。地球に恨みを持った人物が宇宙から魔獣を送ってくる。私たちはそれを倒すためにいる。と。人間たちは半信半疑で、でも納得したようにわかったと言って武器を下ろした。「私たちは君たちを味方として認識する。今までの乱暴については謝罪させてくれ。」人間たちは謝罪とともにこれからもよろしくと笑顔で話し、去っていった。「都合のいい奴ら。」お金を集めたまーくんが不満そうな顔で言う。「まぁ人間たちに認めて貰えたのならいいじゃない!」リンは笑顔で言った。俺たちは家の中に戻り、一息ついた。人間たちに認めて貰えたことで、生活はしやすくなるだろう。そのままいつも通り時間を過ごしゆっくりと眠った。
朝、テレビを見ると俺たちのことが報道されていた。「えっ。」それを見た俺たち3人は言葉を失ってしまった。自衛隊を洗脳。徐々に乗っ取り始まる。なんてデマだ。まだまだ地球人に認めてもらうのには時間がかかりそうだ。