鍋にするから
鍋にするから、
早く帰っておいで。
どこにいても、
何をしていても、
そう言ってもらえるなら、
これ以上の幸せはないだろう。
寒波の夜、
凍える体を震わせながら、
坂道を上る人がいた。
もちろん、鍋だけのためじゃなく、
自分一人だけのことでもなく、
誰かのためだけでもないだろう。
自分は誰かの中にいて、
誰かは自分の中にいて、
だから、鍋はあるんだろう。
だから、坂道を上るんだろう。
だから、季節をくぐるんだろう。
ふと、そんな気がした。
そして、鍋を囲む人々が、
そんなこと、忘れてしまっても、
これ以上の幸せがないことを、
感じられる自分でいたい。
優しい自分でいたい。
ずっと、祈れる自分でいたいと思った。