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「ローラ。城まではどのくらいで着くんですか?」


 休憩地点として立ち寄った村で私はローラに話しかける。馬のブラッシングをしていたローラは手を止めずに「3日もあれば着くわ」と答えた。3日…。私の沈黙を察したのか、ブラッシングをやめたローラがこちらに体を向けて笑った。


「そんなにすぐ城に着くと思ってたの?」


「あなた方が私のところにすぐ来たものですから…」


「私達はあの近辺を守っている兵隊のうちの1グループよ。城からの伝令が来た時点ですっ飛んできてるから、早く問題に対処できるって訳。私達はただ馬に餌やってるわけじゃないのよ」


 他国の軍事事情は当然国外には出回らない。

この国が平和であるのはこの軍事体制のおかげなのだと私は感心した。この国の国王は頭が良い。

私の顔を見たローラは得意気に笑って、またブラッシングを再開した。必要以上の情報を語らないのも教育の賜物なのだろうと思った。


「さあ、もうおしゃべりは終わりよ」


 彼女達の言い回しは少し独特だ。休憩時間の終わりを悟った私は少し残念に思った。あまり村を見て回れなかった…。

まあこの休憩時間は馬のための休憩時間なのだろうとは思っていたが。どっちにしても今は観光なんかしている場合ではない。促されるままに私は大人しく馬に乗ったのだった。


「ちゃんと口閉じてないと舌を噛むわよ」


私はローラの腹に手を回すことで答えとした。




「今日はここで休むとしよう」


 兵長殿が馬を止めるよう合図をした後にそう言った。空は茜色に染まっている。魔法を使える彼らならば夜でも移動できそうなのにそれをしないのはやはり馬を気遣っての事なのだろうか。

兵長殿が馬から下りると、他の兵士たちも揃って下りる。それからあっという間にそれぞれどこかへ行ってしまって、私とローラと兵長殿だけがこの場に残った。

見たところ森しかないが、もしかして野営をするのだろうか。不安だ。森というと魔物や凶暴な獣がいるイメージがある。

国の兵士である彼らは優秀な魔法使いたちなのだろうけど、私は丸腰だ。なんとも心許ない。不安そうな私の顔を見て、兵長殿は優雅に笑った。


「この森の中には町がある。今日はその町で宿を取る予定だ。取れればの話だが」


森の中に町とは…。イヴィディアンでは森と言えばモンスターの巣窟。まさか森の中に町があるとは思わなかった。

やはり知らない事が多い。


「モタモタしてると置いてくぞ」


兵長殿が馬を引いて歩き出した。森の中に入って行く。私もローラの後に続いて森に立ち入ろうとしたその瞬間「ぃだ?!」見えない壁のようなものにぶつかって、私は盛大に尻餅をついた。何が起こったのかわからずに声も出ない私を振り返って、ローラが盛大に笑った。


「あなたもしかして天然?それとも魔法の耐性があまりにも無い?普通入る前に気が付くでしょ」


いつまでたってもついてこない私達に気がついたのか、兵長殿が戻ってきて座り込んだままの私を見て嘲笑った。入る前に気が付くと言うのならなぜあなた方は気が付かなかったのか。


「そう笑ってやるなローラ。きっと両方だろう。いくら侵入者であっても失礼は良くない」


あんたが一番失礼ですけどね?!そうは思ったが口には出さない。笑いすぎて涙が出ていたローラが私に手を差し伸べて、立ち上がるのを手伝ってくれた。


「魔法の香りがわからないのね。ここまで来るといっそ気の毒だわ。こういった森の中にある町には大体結界が張られているわ。国の者以外は入れないようになってるの」


魔法に香りがあるとは…。やはり私には魔法は難しい。そもそも概念が無かったのだ。少しくらい見逃して欲しい。


「ええと…ちょっと待っててね」


ウエストポーチの中から分厚い本を出したローラは目当てのページを探しているようで、ペラペラと捲っては唸っている。「なんせこんな魔法滅多に使わないものだから」表情と言ってる言葉が釣り合っていない。


「ああ、やっと見つけた」


片手で本を持ち、開いているほうの手で私の胸に手をあてたローラが何事か早口で捲し立てた。

…聞き取れなかった。

恐らく呪文だと思われる言葉が終わると、体の中を暖かい何かが通り抜けた気がした。


「結界を通る許しを得るための魔法よ。私にとっては初めての魔法だけど。早く来なよ。成功してれば入れるはずよ」


この国の人は口が悪いだけではなく一言が多い。

そう言われてしまってはさきほどの痛みを思い出してしまう。

恐る恐る手を前に出しながら進む。そんな私の様子を見て、またローラが笑った。「ゾンビみたい!」ゾンビって何だ。


「もうじれったいわね」


私の両手を掴んだローラがゆっくりと私を引っ張る。森の木と木の間に足を踏み入れる瞬間、私は思わず目を瞑った。痛みは来なかった。


「怖がり過ぎよ!」


ローラは良く笑う人だ。ひいひい良いながら私の手を離して目じりを拭ったローラは、兵長殿の方を振り返って姿勢を正し、「お待たせしました!」と言った。

兵長殿に対しては礼儀正しそうだった。この国には厳しい階級制度があるのかもしれない。


「初めての呪文のわりに良く上手に出来たじゃないか」


兵長殿はそう言ってローラを褒めた…?……ローラを見やると嬉しそうにしているので、やっぱり「褒めた」で合っているのだと悟った。

この国の人たちは口が悪いが、良い人たちなのかもしれない。



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