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悪食な式神は呪われている。  作者: 桐谷雪矢
鈍いのろい呪い。
9/25

2.

 和泉の家と神社までは、走れば五分程度の距離だ。

 神主も誰もおらず、誰も存在を意識してもいない朽ちた神社に、御利益なんぞありそうにないし、悪い物の怪が嫌うような神気もなさそうである。

 だいたい、名前もわからない。

 地図を見ても、雑木林として扱われ、周りにも神社があるとは認識されていなかった。

 結界があるのだと言われれば、それがとてもしっくりくる。

 その世間から隔離されたような環境は、酒寄がのんびり日々を送るのには適していた。


「あたしゃ、この子たちと同じ、なんでしたかぁ」


 式神を、ちび酒寄を一体呼び出して、いっしょに晩酌をしていた酒寄は、ちびを見ながら呟く。

 酒寄は酒寄で、和泉と出会ってから、忘れているということを思い出していた。

 そして先日、忘れさせられていたのだと、気付いた。


「なんで死なないんだろうって思ってはいましたけどねぇ……」


 薄曇りの向こうにうっすらと見える月を見ながら、先日のことを思い返していた。

 最近はあまり変なのを見なくなった、と札のお礼をしに和泉が来た時のことだ。



 冷たいアイスキャンディを持ってきたから、いっしょにどう?と尋ねてきた。


「そういえばさ、オレ、ここの神社の名前も知らねぇや。名前、知ってる?」

「さぁねぇ……なにも残っちゃいませんでしたしねぇ。全ての意味で、もぬけの殻でしたから、お借りすることにしたんですよぅ」

「いつからないんだろ……最初からないってこたぁないだろうけど」


 どこかで蝉の鳴き声がする。

 ふたりは賽銭箱横の石段に腰を下ろして、溶けていくアイスを急いで舐めながら寛いでいた。

 雑木林を抜けてきた風は、どこか冷たい。


「いつからと言えば……あたしもいつからこうしているのか、全然わかんないんですよぅ」

「わかんないって、それ、不老不死とかいうヤツで、ずっと生きてて、それが、いつからなのかわかんねぇってこと?」

「ええ~、そんな感じですかねぇ。ああでも、ちょっとずつは思い出せてるんですよう。和泉くんの力のおかげかも知れませんねぇ~」

「え? オレ? オレでも酒寄の役に立ってる?……で、なにを思い出したんだよ」


 ゆらり、ゆぅらり、喋りながら酒寄はゆらゆらしている。


「なんだかですねぇ……あたしも、紙切れなんじゃないかって」

「紙切れ……? もしかして、あのちびっこい連中の方が正体だって……」

「あはははは~、違いますよぅ。でも、似たようなものでしたよぅ」


 和泉は上半身ごと酒寄へ向けて、目を丸くした。


「全部、思い出したのかっ?」


 うふふ~とのんびりした笑みを浮かべて、酒寄が懐から取り出した人形(ひとがた)の紙切れ。指先に挟んで、ゆらゆらと揺らす。

 ゆらりゆらり。


「本当はあたし、式神として使われたあと、戻れなくなったみたいなんですよぅ」


 考え込むように和泉は目を凝らして酒寄を見つめた。

 食べ終えたアイスキャンディの棒を咥えて、がじがじと歯を立てる。理解の範疇を超えて悩んでいるかのように、うぅ~ん、と唸り声をあげる。


 式神?

 あれって呼び出した人とかがいるもんじゃないのか?

 そもそも、こんなふうに人間みたいに考えたり喋ったりするものなのか?


 和泉が漫画やゲームで知る範囲の式神のイメージとはなにか違う。


「信じられない~って顔してますねぇ。あたしもですよぅ」


 また、ゆらりゆらりと揺れている。

 その様子に、ああ、と和泉は得心がいった。

 紙なんだ。だからゆらゆら風に揺れているんだ。


「でも、変なモノしか喰わないっぽいじゃん。ちっこい鬼とか……」

「あれは、あれがいちばん力が湧くと言いますかねぇ。人間の食べ物を食べたら具合が悪くなったんですよぅ」

「……変なの」

「和泉くんだって充分に変ですから、大丈夫~」


 なにがだっとツッコミたいところだったが、そこでスマホが鳴った。

 島井からだった。

 和泉は、用事ができたからと帰って行き、酒寄は手を振り見送った。



「肝心なことを言い損ねましたねぇ」


 雲が消え、冴え冴えと輝く月を見上げ、ほわん、と呟く酒寄であった。



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