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終わり。或いは始まり。

 夏休みが終わろうとしているある日。

 最後まで立ち会っていたメンバーで集まろうという話になった。

 集まる先は酒寄が住処にしている神社である。しかし、場所を説明しても島井と木山はそんなものはそこにないと言い張る。いや、おそらくは本当にふたりには認識できない領域なのだろう。

 架純は父親が生きてる頃にはお年始に来たことがあったような気がする程度だった。

 なので和泉と酒寄で引率して連れて入った。鬼里は当たり前のように入っていく。

 木山などは「なんでこんなとこにある神社がオレらには気付けないんだろう、おかしすぎる、マップアプリにも出ないとか、衛星はなにをしておるのだっ」などとちょっと憤慨気味に騒いでいる。

 それでもなんだかんだでぞろぞろと社務所へと上がり込んだ。ちゃぶ台の上に架純手作りのお弁当を広げ、つまみながら最初から説明する。


「ふむ、鬼さまといずみんは元々血が繋がっていたということか」

「なんでそんな大昔のことでおとうさんが殺されなきゃなんなかったのよ、お化けに殺されたとか言うわけにいかないから、警察にはずっと疑われてたのよ、だいたい私が見えちゃうとか有り得ないって思ってたしっ」

「お前の父親、ちゃんとわかっていたのかねぇ、こいつの呪いの話をよぉ」

「そうよ、それなのよ、おとうさんの家系はみんな早死にだとは聞いてたけど、もしかしてずっとこんなんだったのかしらって思うと、ホントにもう……うううっ」

「まぁまぁ、いずみんのおかあさんも落ち着いて。それより、オレの反則金、誰が払ってくれるのさ。お袋の車泥だらけにしてちっこい傷あちこちついてて、オレうちにいても居たたまれないんだけど?」


 島井が苦情と陳情を申し立てていると、台所からのんびりした声が聞こえた。


「おやまぁ、もうお茶なくなっちゃったんですかぁ? もうあとちっちゃいヤカンに入ってる分しかないですよぅ?」


 酒寄がのほほんと突っ込んだ途端、それまでやいのやいのと言いたい放題騒いでいた全員が、すっ、と冷たい視線を酒寄に向けた。

 みんなの勢いで口を挟めずにいた和泉だが、くるりと酒寄に向きあうと、膝を詰めた。


「どうしたんですぅ?」

「あのさ、酒寄……ホントに、なにも覚えてねぇわけ? あそこで式鬼いっぱい喰らったこととか……」

「ええっと、おなかいっぱいになったから、寝ちゃってたんですかねぇ?」

「じゃあ、呪いを解く方法は?」

「だからぁ、それはいっしょに探して考えようって話じゃないですかぁ。で、もしかして鬼さまは知ってたんですかぁ?」


 すっかり酒寄は忘れていた。

 あの後、もうすっかり毒気を抜かれた鬼里と連絡先の交換をした和泉は、情報交換をはじめた。

 酒寄が全然覚えていなくて、騒ぎの前に戻っていること。

 代々恨み辛みばかり聞かされていて、ずっと神沢の一族を恨むことしか考えて来なかったが、実は鬼里の一族も狙われていると気付いたこと。

 おそらくは和泉の父を殺した時も架純の気にあてられて記憶をなくしたのではないかということ。

 それ以前も、なにか衝撃的な事態に陥るたびに少しずつ記憶を飛ばしてしまっていたのではないかということ。

 知らねぇよ、と酒寄に返した鬼里は、和泉を手招きした。


「いつまた記憶を取り戻すかわかんねぇし、どういうきっかけで思い出すか、わかったもんじゃねぇ。地雷を抱えてるようなもんだぞ」

「うん……でも、オレにはどうしたらいいかなんて、考えつかないし……」

「まぁ、そっちは俺の方が今んとこは専門だ。調べておくさぁ」


 そんなわけで、どちらもいつ寝首を掻かれるかわからない立場として、いつの間にか共同戦線を張る同士となっていた。


「出会うまでは忘れているとかも聞いたけど、出会ってしまってからリセットされてるから、どうなんだろうなぁ」

「もしかすると、俺らに跡継ぎが出来たりしたら、そいつらに会って思い出すかも知れねぇぞ。まったくもって、トリガーがわっかんねぇ」


 悩むふたりを余所に、他の面々は架純の手弁当に舌鼓を打っている。


「とりあえず、お前はもう少し術とか覚えろ。あいつをどうにかするにしても、今のままじゃあ手が足りねぇ」

「それは……就職先ってことにしていいのか?」

「そんなこと知るか。だいたい俺だってもう今までみてぇに動画使って売名とか出来ねぇんだ。商売あがったりだぜ」

「いやいや、進路に困ってるんだよ。バイトでもとりあえずいいや」

「勝手にしやがれ」


 わいわいと騒がしい社務所も悪くないけど、明日からはまた、静けさに満ちた空間になる。少しさみしいような、落ち着くような。

 外ではまだ雑木林で社務所の賑わいに負けじと蝉が大合唱していた。


 そして、また束の間の日常が戻ってくる。



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