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嵐星じゃなきゃダメなの!  作者: 秋月小夜
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 嵐星と伊勢さんのことでヤキモキした数日後、慎二君から『遊びに行かない?』とチャットが来た。

『面白そうなところ見つけたんだけど、これ知ってる?』

 と添付されていたのはミニブタカフェの画像だった。


 これ、嵐星が言ってたところ。

 合コンで連絡先を交換した女の子がいるっていうところだ。

 だから知ってる。

 けどまだ行ったことはない。

 いずれ嵐星と行けるって思っていたけど、なんだかんだで行けてない。


 どうしようかな。

 どのみち気にはなっていたし、慎二君は話しやすくて一緒に居て楽しい人だし。


 そう思ってオッケーした。

 ただ、これまでと違うのは今回は二人で出掛けるということ。


 慎二君と二人で出掛けるって、これが初めて。

 夕飯の肉じゃがをグツグツ煮ながら思った。


「嵐星、今度慎二君とあのミニブタカフェに行くよ」

「あそこか、ん?てことは、デートか」

「違うよ、付き合ってないもの。ねえ、これもデートに入るの?」

「まあ、仲良い男と約束して二人で出掛けるならデートだろ」

 平然とモグモグして言う!


「友達なんだよ。ホントはミニブタカフェは嵐星と行きたかったのに……」

 嵐星が箸を止めた。

「あのな愛夏、デートの誘いにケチつけるなよ。相手は色々考えてくれてるんだからな。これ美味い、おかわりある?」

 やった。肉じゃがのおかわりコール、頂きました。

「あるよ。わかったからデートって決めつけないで。じゃあ別な時に一緒に行ってくれる?」

「了解」




 ミニブタは顎を撫でると気持ちよさそうに目を細めて擦り寄ってくる。

 触れると毛並みが気持ちいい。

 抱っこは禁止なんだけど、トコトコ歩く姿を見てるだけでも可愛くて癒される。

「わあ、滅茶苦茶可愛いなあ」

 慎二君、テンションが上がってる。

「うん、眠そうな顔が超可愛いね」

「愛夏ちゃんと来れてよかった。店が女の子向けって気もして。男だけだと『可愛い』って盛り上がるのも気がひけるっていうか、さ」

「ホームページも可愛いもんね。慎二君て動物好き?」

「うん、好き。ウチにも色々居るよ」

 スマホで写真を見せてくれた。

「チワワ二頭とインコが二羽。こっちは爺ちゃんとこで飼ってる猫。あ、祖父母とは家が隣同士並んでるから、しょっちゅう遊びに行くんだ」

「チワワって可愛いねえ」

 動画もある。

 目がウルウルで、動きがフルフルしててキュンとする。

「小さいけど、結構気が強いんだよ」

「そうなの」


 やっぱり話しやすいし楽しい。

 慎二君て優しくおっとりした話し方とか、笑う時のちょっとはにかんだ感じとかが他人と思えない。

 そうか、何となく雰囲気が春兄と似てる気がする。

 三人兄妹の長男っていうのも春兄と同じだし。

 そのせいかな。


 嵐星が合コンで知り合った相手の女の子も見つけた。

 どうせ行くなら、と思って嵐星に名前を聞いちゃったんだ。

 ネームをつけた目当ての彼女は軽い茶色のボブヘアーの可愛い子だった。

 ニコニコしながらお客さんと会話したり、飲み物を運んだりしている。

 もちろん嵐星のことなんて言わないけどチラ見してしまう。

 派手な感じじゃなくて、でも笑顔とか声も可愛いし話しやすそうな子。

 嵐星が「いいな」って言いそうな雰囲気。


 今日までここに来られなかったことは幸いだったかも、と思った。

 ああん最近、嫉妬モヤモヤばっかりだよ。

 私、病んでない?嵐星はちっとも、なのに。


「……?愛夏ちゃん」

「え?」

 しまった。慎二君に話しかけられてたんだ。

「今度ウチにチワワ見にこない?」

「あ、うん。お邪魔して良ければ」


 だめだめ!慎二君とせっかくのお出かけなのに嵐星の事考えるなんて。


 ミニブタカフェを出て歩いてたら「お、慎二」と向こうから男の子が声を掛けて来た。

「おー」とちょっと手を挙げた慎二君は「経営のゼミで一緒の友達」と私に言った。


「何?慎二、いいじゃん」

 近づいた彼が慎二君に肘打ちする。

「あ、いや。友達の片山愛夏ちゃん。教育の二回生」

「どうも初めまして、経営三回生の山谷(やまや)です。片山さん教育なんだ。慎二と友達?」


 にこやかな山谷さん、だけど結構見られる感ありあり。

 もしや彼女認定されちゃった?違うのにな。

 ここはキッパリしないと。


「はい、友達です!」

「あれ、そっかあ。慎二、邪魔してごめん。またね、片山さんも」

 山谷さんは慎二君の肩をポン、と叩いて去って行った。

「なんか誤解されてた?ごめんね慎二君」

「あ、うん。こっちこそなんか、ごめんね」

 珍しく眉を寄せてそう言った慎二君、やっぱり困っちゃったのかな。

 その後も慎二君は少しテンション低めな気がした。



『悪い!これから中田と会談するから遅くなる。もしデートの帰りならアイツに送らせろ!夕飯は要らないよ』

 慎二君と帰りの地下鉄に乗ろうとしていたら嵐星からチャットが入った。


「会談って……」

 それにまた慎二君のことアイツ呼ばわりして。送らせろ?余計なお世話ですから。

「どうしたの?」

「兄が、同期の人と『会談』するんだって」

「え、カイダン?怖い話?」

「ううん、首脳会談とかのカイダン。もったいぶってるでしょ」

 慎二君が笑って「なんだ、そっち。大事な話って意味じゃない?なら、家まで送っても……」と言いかけて立ち止まった。


「あ、今晩お兄さんと夕飯は一緒にするの?」

「ううん、要らないって」

「じゃあご飯行こうよ。一人で済ませるより寂しくないんじゃないかな」

「でも慎二君のお家は?」

「大丈夫。いつも夕飯作るんでしょう、今日はお休みになったんだから僕に付き合ってくれない?ご馳走します」

「そんな、悪いよ」

「グイグイいってごめん。嫌だった?」

「ううん、嫌じゃないよ。本当に」

「そう、本当?僕、一応年上でしょう。愛夏ちゃんに遠慮ばかりされたら寂しいよ」

「あ……」

「ああ、なんか嫌な言い方したなあ。僕が一緒にご飯食べたいだけなんだ」

 綺麗に流れる癖毛の頭に手を当てて慎二君が困ってる。


 そんな彼を見ると胸がチクっとした。

 私って頑固でコチコチ過ぎるのかなあ。


「慎二君、ご飯行こうよ」

「いいの?」

「うん、行きたい。慎二君と一緒だと楽しいから」

 そう言ったら彼はこちらの心まで晴れ渡るような笑顔になった。

「嬉しい、僕も君と一緒だと楽しいんだ。いつも」



 その夜、嵐星の帰宅は遅かった。

 しかも。


「ただいま。お、愛夏無事だったか?急に予定変えて悪かった。飯は食べたの?作ってたら悪いと思ったんだけど」


 のっけから違和感。

 なんか妙にテンション高い、サバサバしてる、そして口数が多い。


「慎二君と食べたよ。イタリアンご馳走になった。嵐星によろしくって」

「ほう、新津殿と言ったか?やりおるな。苦しゅうない、帰り道はちゃんと送らせたんだろうな」

「ねえ!失礼過ぎるよ。さっきから何様?」

 流石にイラっとして近づいた。

 そうしたら。


 いつもと違う、でもいい匂いがした。


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